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第31話 みんなで行きませんか?

◇◆霧山視点◆◇


 翌週のことである。


「セーンパーイ♪ へへー、来ちゃいましたっ!」


 茜ちゃんが本当にまた昼食を食べにやってきた。


「どうぞ」


 なぜか和田がうやうやしく出迎え、椅子を進呈している。茜ちゃんも『ありがとうございまーす♪』と、とびきりの笑顔で受け答えしており、既にこのクラスのみんなから俺より受け入れられている雰囲気だ。愛嬌と愛想というのは、社会を生きていく上で最強の武器と言えよう。


「なーに、難しい顔しているんですか、センパイ♪ というわけで、このメンバーでプールいきませんか?」


 何が『というわけ』なのだろうか? 着席して開口一番、まったく脈絡のないところから急に飛び出してきたように思えたが。


「あー、一応聞くがその話しは初耳だと思うのだが、俺が忘れているだけということではないよな?」


 プールなど人生で行ったこともないし、行きたいと思ったこともない。そんな話しが耳に入れば鳥肌の一つでも立ちそうなものだから忘れるわけもない。


「はいっ、初めて言いました♪ でも夏休み入っちゃったら、こうして一緒にお昼ご飯も食べれなくなっちゃうんですから、その前に、ね?」


 夏休みまでは残り二週間ほどだ。つまり、プールに行くとしたら今週末しかない。いや、そもそもプールになど行きたくない。


「俺はパス」


 佐々木がゴリ押ししてくる前に明確に拒否しておく。


「ふむ。確かにこの席替えの結果、こうして友情が育まれたのも何かの縁だろう。分かった。ここのメンバーが全員揃うというなら(・・・・・・・・・)、一肌でも二肌でも脱ごう」


 ほら来た。俺が行かないと言った直後にこの言い回しだ。流石に佐々木のパターンにも慣れてきた。ここでつけこまれてはダメだ。俺は誰がなんと言おうが徹底抗戦するつもりで構える。


「プールかぁ、子供の時以来かもだなー。流石に男子一人じゃキツイから、真司が行くなら行こうかな」


 秀一は佐々木に乗っかるわけでもなく、普通にそんな感じなんだろう。だが、悪いな秀一。俺はプールなど行きたくないのだ。


「えと、私はみんなが行くなら行きますし、霧山くんが嫌なら、その──」


 伊佐凪はまぁ伊佐凪らしい返事だが、茜ちゃんはピクリと反応し──。


「伊佐凪先輩っていつもそう(・・)なんですか? 私としては伊佐凪先輩()行きたいか、行きたくないかを聞きたいんですけど」


 口元は笑顔だが、目が笑っていない。俺たちの席……どころかクラス全体にピキッという緊張感が走ったような気がする。


「……そうだね。私はみんなと行きたい、かな」


「にへへー、だよね~♪ というわけで、ここからはセンパイを口説き落とすタイムですっ」


 クラスの緊張が弛緩する。茜ちゃん恐るべし、だ。


「ほぅ、随分余裕があるように見えるな霧山?」


「あぁ、申し訳ないがプールには行かない」


 最近は、こいつらにペースを崩されまくったからな。ここら辺で一つ自分のペースを守る戦いも必要だろう。


「セーンパイっ? こんな美少女三人の水着姿が見れるんですよ? 見たくないんですか?」


「見たぁぁぁあい!!」


 和田が教室の隅っこから叫んでいた。代わりに和田を──いや、ないな。


「てか、真司って泳げるん?」


「泳げないが?」


 別に恥ずかしくもなんともない。人間は陸上で生活する生き物だ。魚に歩けるか聞いているのと同じくらい陳腐な質問である。


「へー。ほー。ふーん。そんなクール気取ってて、水の中に入った途端あぼあばあばぼびばぁってなっちゃうのか。そりゃ行きたくない筈だな」


「ま、そういうことだ」


 煽るだけ煽ればいいさ。むしろそこに反応するヤツこそが自らにコンプレックスを感じているということだ。あと、俺は別にクールを気取っているつもりはない。


「つまらん。ユイ、たまにはお前が口説いてみろ」


 背もたれにどかりと寄り掛かり、本当につまらなさそうにする佐々木。どこのマフィアのボスかという態度で伊佐凪に命令する。


「あぅ……。えぇと、どうして行きたくないか教えてくれますか?」


「ふむ、いい切り口だ」


 つまらなそうにしていた佐々木が体を起こし、両肘を机につき前のめりになる。どうして行きたくないか、そりゃ──。


「……なんか、その汚くないか?」


「「「「はい?」」」」


 四人ともが何言っちゃってんのという風に聞き返してくる。

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[良い点] さあこの場面どう乗り切る、敵だらけ
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