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同じ 鍵を 持っている  作者: 藤宮彩貴


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11 さくら咲く

 卒業式からちょうど半月後、東京。

 公園や街路樹など、桜の木……ソメイヨシノがどこも満開を迎えている。


 さくらの引っ越しの荷造りを終え、さくらと玲は自宅最寄りの駅のホームに立っていた。

 これから、ふたりで京都に住む。

 平日の昼間ゆえ、見送りには誰もいない。


 三月いっぱいまで、涼一と軽井沢に滞在する予定だったけれど、京都への引っ越しやら新生活の準備を考えると早めに切り上げたほうがいいという結論になった。

 残念ながら、暖冬の影響か、スキー場は積雪が春休みまで持たず、三月なかばまでは人工降雪でなんとかキープしたけれど、すでに営業を終了していた。さくらのはじめてのアルバイトも強制終了である。


 でも、外で働けたことは、さくらにとってよい経験になった。

 涼一には感謝したい。



 これからは堂々と、大学生。

 胸を張って、玲と同居第二章のはじまりだ!



 滑り込んでくる電車に乗る。


 みんな。しばらく、さようなら。


 ドア脇に立っている女子たちの会話が、自然と耳に入ってくる。

 電車の吊り広告を見上げていた子が、隣の友人に話しかける。


「北澤ルイくん、今月も表紙なんだ」


「うわー、相変わらずかっこいい。男向けファッション誌だけど、買っちゃおうかな」


「電車降りたら、買う。この笑顔、全力で釣られる。貢ぐわ」


 知らん顔で会話を聞いていたさくらも、思わず見上げると、自分の頭の真上に天使のほほ笑みがあった。


 家でもずっとこの顔でいてくれたらどんなに、と思わずにはいられない。

 かわいいけれど、本物は、傲慢で毒舌で襲い魔で、覗きが趣味なんだよね……。


 思わず、笑いをこらえて玲を見ると、玲も同じことを思っていたようで、これまた苦笑いの厳しい表情だった。

 ……そうだよね。


「そういえばルイくん、最近失恋したらしいよ。テレビのトーク番組で話してた」


「えーっ、あのルイくんが失恋? 信じられない。基本、無双モテ状態でしょ。失恋の要素ないじゃん」


「自分史上最大の失恋で、しかも振られたとか。あり得ないよね」


「ルイくんを振るなんて、どんな女よ?」


「きっと、ひどい女なんだよ。次々と男を取り替えるような、鬼畜女」


「あー、そうだよねきっと。じゃなかったら、ルイくんを振るなんて冗談じゃない。相手の女、ルイくんに代わってこらしめてやるわ」


 展開される会話は容赦なく、さくらはいたたまれない。

 耳をふさぎたい。



「……実は、ここにいるけどね、約一名鬼畜女が」


「玲、静かに。事件になったらどうするの?」


 女子の会話は続いている。


「でも、その人とは今まで以上に、いい関係になれそうなんだって。恋愛関係を解消しても、仲よくいられるなんて普通じゃ無理だよねえ」


「きっと、普通の女じゃないんだよ。あらためて、愛人関係を結んだとか。身体だけの!」


「やだー。ルイくん、そんなことしない! 永遠の少年だもん!」


 女子たちのとりとめもない噂話は、どこまでも飛躍していた。



「ほー、なるほどな。愛人関係、締結していたのか。あいつ、そういう割り切った関係も得意そうだからな」


「してない。していません。類くんとは、どこまでも家族でいたいって」



 ふたりが乗った電車は、桜花のトンネルを進んでいる。


続きはエブリスタさんに掲載しています

その後が気になる方は、「同じ 鍵を 持っている」京都編へどうぞ!

完結しています

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