4 夜明けのハプニング③
「まさかとは思っていたけど、男と付き合ったこと、ないのか」
「そうだよ。ありませんよ」
「どうりで、素直な反応。経験値ゼロか。こいつはいい。類のおもちゃ候補になるわけだ」
笑いをこらえきれず、玲はおなかをおさえた。
「そんなに笑わないで。失礼だよ、もう」
「悪い悪い。でも十七にもなって。顔はかわいいのに」
「ずっと、学校と家事手伝いの生活でした」
「あー。そうだったな。大変、失礼をした。謝るよ。見つめ合うとか手をつなぐとか、もっとハードルの低いところから、はじめたほうがよかったな」
甘い雰囲気になりそうな気配は消滅したので、さくらは緊張を緩めることができた。
すると、だんだん眠くなってきていつしか瞼が落ちていた。
どうして、そんなにお金が必要なのって、聞きたかったのに。
高校出たら自立って、なにをするつもりなのって。
一方の玲は、眠くなるどころか怒っていた。
「あの類に、先を越されたなんて。おい、断固として、罰を与える。しりとりで負けたら、そういうルールだったよな。お前は俺が『類』と言ったあと、答えなかったし、正真正銘の時間切れだ」
あどけない顔で寝ているさくらの頬を、左の手のひらに乗せ、玲はさくらの唇に己の指を滑らせた。
時間にすれば、ほんの数秒。
ほとんど類への対抗心だけで、玲は寝ているさくらの頬にそっと唇を落とした。




