表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/89

新しい生活⑨

 まさかマシュートだけでなく、アレクサンドロまでサフィリナの味方をするなんて。


 ずっと、ジュエルスと結婚をするのだと信じて疑わなかったのだ。幼いころから一緒にいたし、彼のことが大好きで、ジュエルスもクローディアのことを大事にしてくれていたのに。


「私はずっとエルのことを思ってきたわ。私のほうがずっとエルのことを好きなんだから!」


 クローディアがサフィリナを鋭く睨みつけた。


(本当にずるい女! 被害者みたいな顔をして、私の大切な人たちを奪おうとするなんて!)


 ジュエルスやアレクサンドロやマシュートにとってクローディアは特別で、どんな女の子よりも近しい存在。それに、ジュエルスはそっけないところがあるが、本当はすごく優しくて、そういうところも好きだった。ジュエルスにとってクローディアが特別であることは、クローディアが一番よく理解していたのだ。だって、クローディア以外の女の子と親しくすることなんてなかったから。


 それに、ジュエルスだけでなくアレクサンドロやマシュートも、いつも味方だった。


 だから、ほかの令嬢たちに嫉妬され、やっかみを受けても、鋭い視線で睨みつけられてもなんてことなかったし、それどころか、周囲の羨望の眼差しがクローディアにはたまらなかったくらい。クローディアと仲良くなりたがる人も多かったし、自分より高位の令嬢が媚びてくるのも気分がよかった。


 クローディアは誰よりも特別な女の子だったのだ。


「私はエルにとって特別だったでしょ? ねぇ? そうでしょ?」


 しかしジュエルスは首を横に振る。


「俺にとってクローディアは親しい友人だ。俺はずっとそう思ってきた」

「どうして……? そんなはずがないでしょ?」


 クローディアは助けを求めるように、アレクサンドロとマシュートを見た。しかし、アレクサンドロは溜息をつくだけだし、マシュートに至ってはジュエルスと同じようにクローディアを冷めた目で見ている。


「なんで、私にそんなひどいことができるの?」


 震える声で訴え、自分に味方をしてくれる人はいないのかと周囲を見まわした。これまで親切にしてくれていた使用人たちは? しかし彼らはなにも聞いていない、という顔をしてそこに立っているだけ。


「なによ……!」


 苦々しく顔をゆがめて彼らを睨みつけたクローディアの目に入ったのはサフィリナ。


(は? 自分には関係ないってわけ?)


 そう思ってしまうほど無感情な顔をしてクローディアを見ている。先ほどマシュートと話をしていたときはニコニコしていたというのに。


 これまでも、彼らに近づこうとした女の子たちは何人もいた。彼らに少し優しくされただけですっかり舞いあがって、自分もクローディアのようになれると勘違いをしたばかな女の子たち。サフィリナはそんな女の子たちと同じだ。少し違うのは運よくジュエルスの横に滑りこむことに成功し、クローディアを蹴おとしてこの場所を奪いとろうとしていることくらい。


「あなたなんかが、私の場所を奪えると思っているの? あなたごときが? ふざけないで」


 そう叫んでサフィリナにつかみかかろうとするクローディアを、アレクサンドロが抱きとめ、サフィリナの前にはジュエルスが立ちはだかる。


「やめろ、クローディア」

「放して! 放してよ!」


 どんなにクローディアが暴れても、アレクサンドロはびくともしない。


「すまない、二人とも。今日は帰るよ」

「……ああ」


 アレクサンドロはクローディアを抱きとめたまま、引きずるようにして歩きだした。マシュートもあとに続く。


「やめて! まだ話は終わってないってば!」


 しかしその言葉をアレクサンドロが聞くことはなく、クローディアを押しだすようにして部屋を出ていった。


 続くマシュートが、廊下に出る手前でおずおずと振りかえる。


「本当にごめんね。ひどいことを言ったけど……クローディアを許してやって」


 こんなことになってしまって動揺しているんだ、とクローディアの言葉を代弁して、マシュートも部屋を出ていった。


「ごめん、リナ」


 こんなことになるなら、サフィリナを同席させなければよかった。


「いいのよ。……だって、納得できないわよね」


 サフィリナを罵って気が晴れるのなら、それも受けいれなくてはならないだろう。ただ、大切な家族を貶めたことだけは……いや、もう忘れよう。いがみ合って解決する問題なんてひとつもありはしない。


 しかしジュエルスはそうではないようだ。


「俺は許す気はないよ」

「エル……」

「たとえ友人でも、言っていいことと悪いことがある」

「私もそう思うわ。でもね、彼女の気持ちを考えれば仕方がないとも思えるの」


 自分の好きな人を奪ったのは、顔も知らない下位貴族の女だ。彼女が憤るのも無理はない。


「難しいかもしれないけど、でも私は……いつか彼女と仲良くなれれば、と思っているわ」

「リナ……」


 君は優しいな、と小さく呟いたジュエルスは、そっとサフィリナを抱きしめ、その頭上にくちづけを落とした。クローディアの言葉に傷ついただろうと思うと、自分はとてもではないが彼女を許すことなんてできないのに。


「大切な友人なのだから、いつか仲直りできるわ」

「友人だった、だ。今日決別をしたから、もう友人ではない」


 しかしサフィリナは首を振る。


「これくらいのことで? だめよ、そんなこと。彼女だって傷ついているのだから」


 そのクローディアを傷つけたのはほかならぬ自分だ。


「……いつか仲直りをして。お願い」

「……」

「エル」

「……もし、許すことができたら」

「できるわよ。それに私はとっくに許しているわ」

「……早すぎる……」


 ジュエルスはサフィリナの肩に自分の顔をうずめ、ギュウギュウとその細い体を抱きしめた。サフィリナはクスクスと笑いながら、ジュエルスの銀色の髪をなでた。


読んでくださりありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ