新しい生活⑨
まさかマシュートだけでなく、アレクサンドロまでサフィリナの味方をするなんて。
ずっと、ジュエルスと結婚をするのだと信じて疑わなかったのだ。幼いころから一緒にいたし、彼のことが大好きで、ジュエルスもクローディアのことを大事にしてくれていたのに。
「私はずっとエルのことを思ってきたわ。私のほうがずっとエルのことを好きなんだから!」
クローディアがサフィリナを鋭く睨みつけた。
(本当にずるい女! 被害者みたいな顔をして、私の大切な人たちを奪おうとするなんて!)
ジュエルスやアレクサンドロやマシュートにとってクローディアは特別で、どんな女の子よりも近しい存在。それに、ジュエルスはそっけないところがあるが、本当はすごく優しくて、そういうところも好きだった。ジュエルスにとってクローディアが特別であることは、クローディアが一番よく理解していたのだ。だって、クローディア以外の女の子と親しくすることなんてなかったから。
それに、ジュエルスだけでなくアレクサンドロやマシュートも、いつも味方だった。
だから、ほかの令嬢たちに嫉妬され、やっかみを受けても、鋭い視線で睨みつけられてもなんてことなかったし、それどころか、周囲の羨望の眼差しがクローディアにはたまらなかったくらい。クローディアと仲良くなりたがる人も多かったし、自分より高位の令嬢が媚びてくるのも気分がよかった。
クローディアは誰よりも特別な女の子だったのだ。
「私はエルにとって特別だったでしょ? ねぇ? そうでしょ?」
しかしジュエルスは首を横に振る。
「俺にとってクローディアは親しい友人だ。俺はずっとそう思ってきた」
「どうして……? そんなはずがないでしょ?」
クローディアは助けを求めるように、アレクサンドロとマシュートを見た。しかし、アレクサンドロは溜息をつくだけだし、マシュートに至ってはジュエルスと同じようにクローディアを冷めた目で見ている。
「なんで、私にそんなひどいことができるの?」
震える声で訴え、自分に味方をしてくれる人はいないのかと周囲を見まわした。これまで親切にしてくれていた使用人たちは? しかし彼らはなにも聞いていない、という顔をしてそこに立っているだけ。
「なによ……!」
苦々しく顔をゆがめて彼らを睨みつけたクローディアの目に入ったのはサフィリナ。
(は? 自分には関係ないってわけ?)
そう思ってしまうほど無感情な顔をしてクローディアを見ている。先ほどマシュートと話をしていたときはニコニコしていたというのに。
これまでも、彼らに近づこうとした女の子たちは何人もいた。彼らに少し優しくされただけですっかり舞いあがって、自分もクローディアのようになれると勘違いをしたばかな女の子たち。サフィリナはそんな女の子たちと同じだ。少し違うのは運よくジュエルスの横に滑りこむことに成功し、クローディアを蹴おとしてこの場所を奪いとろうとしていることくらい。
「あなたなんかが、私の場所を奪えると思っているの? あなたごときが? ふざけないで」
そう叫んでサフィリナにつかみかかろうとするクローディアを、アレクサンドロが抱きとめ、サフィリナの前にはジュエルスが立ちはだかる。
「やめろ、クローディア」
「放して! 放してよ!」
どんなにクローディアが暴れても、アレクサンドロはびくともしない。
「すまない、二人とも。今日は帰るよ」
「……ああ」
アレクサンドロはクローディアを抱きとめたまま、引きずるようにして歩きだした。マシュートもあとに続く。
「やめて! まだ話は終わってないってば!」
しかしその言葉をアレクサンドロが聞くことはなく、クローディアを押しだすようにして部屋を出ていった。
続くマシュートが、廊下に出る手前でおずおずと振りかえる。
「本当にごめんね。ひどいことを言ったけど……クローディアを許してやって」
こんなことになってしまって動揺しているんだ、とクローディアの言葉を代弁して、マシュートも部屋を出ていった。
「ごめん、リナ」
こんなことになるなら、サフィリナを同席させなければよかった。
「いいのよ。……だって、納得できないわよね」
サフィリナを罵って気が晴れるのなら、それも受けいれなくてはならないだろう。ただ、大切な家族を貶めたことだけは……いや、もう忘れよう。いがみ合って解決する問題なんてひとつもありはしない。
しかしジュエルスはそうではないようだ。
「俺は許す気はないよ」
「エル……」
「たとえ友人でも、言っていいことと悪いことがある」
「私もそう思うわ。でもね、彼女の気持ちを考えれば仕方がないとも思えるの」
自分の好きな人を奪ったのは、顔も知らない下位貴族の女だ。彼女が憤るのも無理はない。
「難しいかもしれないけど、でも私は……いつか彼女と仲良くなれれば、と思っているわ」
「リナ……」
君は優しいな、と小さく呟いたジュエルスは、そっとサフィリナを抱きしめ、その頭上にくちづけを落とした。クローディアの言葉に傷ついただろうと思うと、自分はとてもではないが彼女を許すことなんてできないのに。
「大切な友人なのだから、いつか仲直りできるわ」
「友人だった、だ。今日決別をしたから、もう友人ではない」
しかしサフィリナは首を振る。
「これくらいのことで? だめよ、そんなこと。彼女だって傷ついているのだから」
そのクローディアを傷つけたのはほかならぬ自分だ。
「……いつか仲直りをして。お願い」
「……」
「エル」
「……もし、許すことができたら」
「できるわよ。それに私はとっくに許しているわ」
「……早すぎる……」
ジュエルスはサフィリナの肩に自分の顔をうずめ、ギュウギュウとその細い体を抱きしめた。サフィリナはクスクスと笑いながら、ジュエルスの銀色の髪をなでた。
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