表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/89

新しい生活①

 ジュエルスが通う騎士学校は、未来の騎士を養成するための学校で、平民でも入学することができるなど、その門戸は広い。ただ無償ではないため、門戸は広いと言われていても、結局は限られた者しか入学できないのが実情だ。


 騎士学校は王都にある本校と、王都の東側に位置するマディソン校、西に位置するホルステイン校がある。どの学校でも身分を問わず通うことができるが、慣習として王都にある本校には貴族が、東西の学校には平民が多く通っていて、良くも悪くも身分による衝突はある程度回避されている。


 騎士を目指す貴族子息の多くは、爵位を継ぐことができない者がほとんどで、己の実力で活路を見いださなくてはならないなど状況は切実。そういう意味では、東西に位置する学校のほうが、平民が多いため多少のんびりしているかもしれない。とはいえ、彼らも将来がかかっているため競争がないわけではない。ただ、醜い足の引っ張り合いは、本校のほうが激しいというだけのことだ。


 さて、貴族の中で騎士を目指す者の多くは、次男や三男、兄弟が多ければ四男、五男といくのだが、ジュエルスのように、爵位を継ぐことが約束されている者が騎士を目指すことはめったにない。それは当然だろう。貴族にとって家門と血筋を守ることはなににおいても優先すべきことなのに、爵位を継ぐことが決まっていて、それもたった一人しかいない男子となれば、騎士の道を目指すことなど正気の沙汰ではないのだ。そういう意味ではジュエルスはかなりの変わり者ということになる。


 では騎士学校に行かない子息はなにをしているのか。実は多くの貴族子女は王都にある王立学院に通っている。王立学院は十二歳から通うことができ、ジュエルスも騎士学校に入学する前は王立学院に通っていた。


 それなのに突然、騎士学校に通うために王立学院を辞めるとジュエルスが言いだし、友人たちは一様に驚いていた。しかも、王都にある本校ではなく、わざわざ領地に帰ってホルステイン校に通うなんて聞かされたのだから、友人たちが耳を疑ったのは言うまでもない。


 領地に帰ってしまったジュエルスは、王都に遊びに来ることもほとんどなく、つきあいが悪くなった彼に、不満を持っている友人もいるようだった。


 ジュエルスはそんな感じだ。ではサフィリナは――。


 サフィリナもとても忙しかった。


 実は、サフィリナは両親が存命のあいだ、ずいぶんのんびりとした生活を送っていたため、その年齢にしては淑女教育がかなり遅れていたのだ。そのため、教育係として一目置かれている、ヘッセ伯爵夫人から教えを受けることになったのだが、これが大変だった。


 これまで淑女とは程遠い生活をしていたのに、突然淑やかに上品に、と言われても簡単に直すことはできない。しかしヘッセ伯爵夫人は、サフィリナの事情に一定の理解を示したものの、甘やかすことは一切なく。


 また、サフィリナは領地を持っていないため、領地経営などを学ぶ必要はないが、繊維事業にかかわることや政治経済、歴史や地理、国内外の情勢など、学ばなくてはならないことが多岐にわたるため、多くの時間を勉強に費やしていた。


「現時点で、綿の供給が需要に追いついていないということですね」


 サフィリナの言葉にセージがうなずく。


「そうだね。まだ、我が国での綿花栽培は盛んとは言い難いし、綿織物の生産量もそれほどではない。つまり、成長する未来しかないということだ」


 今は実際の書類を見ながら、現在の状況と今後について話しあっている最中。


 綿織物は通気性がいいため涼しく、吸水性もあって使い勝手がいい。そのため、多くの人たちが手に入れようとしているが、これまで主流だった毛織物業界からの反発が強く、輸入された綿製品には高い関税がかけられ、流通も制限されている。


 しかも、国内で綿花を栽培する農家はまだ少なく、サフィリナの農園と繊維工場はフル稼働している状態。それでも、常に品不足だ。そのため供給が安定するまでは、綿製品の価格は高いままだろう。しかし、今後新規参入してくる事業者が増えれば、国内産の供給が増えるし価格も安定する。毛織物が勢いを失くす未来は、決して遠くはないはずだ。


「ネルソン男爵有する国内最大の綿花農園は、これからさらに注目されることになるだろうな」


 フルディムが亡くなり、事業の衰退も危惧されていたが、そうはならなかった。フルディムのようにはできなくても、仕事を代行してくれているセージと執事のジェイスが農園と工場、そして販路をしっかり守ってくれているからだ。


「おじさま、ありがとうございます」

「なに、礼を言われるようなことはしていないし、私より大変なのは現場にいるジェイスだ。しかし、年齢的にジェイスが頑張れるのもあと数年と言ったところか。それまでに、リナがしっかりと事業を支えられるようにならないとね」

「はい」


 ネルソン男爵邸の執事ジェイスは高齢で、そろそろ引退を考えてもおかしくない歳だ。それなのに、いまだに忙しく事業や屋敷の管理をしてくれているのだから、サフィリナもそれに甘えているわけにはいかない。


「早くジェイスにのんびりさせてあげなくてはいけませんね」


 サフィリナはそう言ってかわいらしく笑った。


読んでくださりありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ