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【IFルート】10年ごしの引きニートを辞めて外出したら自宅ごと異世界に転移してた【集団トリップ】  作者: 坂東太郎
『IF:第七章 ユージと掲示板住人たちは異世界人に出会う』

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IF:第十三話 ユージと掲示板住人たち、異世界の村でいろいろな情報を集める

週イチ投稿ですので、最初の三行アキまでは前話のあらすじを入れています


 家から離れてゴブリンが頻出する森を突破したユージたち強行偵察班。

 街は見かけたものの、住人証明がなく入れないため、ユージたちは人里の探索を続けた。

 怪しまれないように、争いにならないように、10人と一匹だった班をさらに分けて。

 街から伸びる細い道をたどって、ユージたちは農村を見つけた。

 ゴブリンの群れと争いになっていたところを助太刀に入ってこれを討伐する。




 そしていま、ユージとコタロー、アリス、カメラおっさん、洋服組Aは村の中にいた。

 念願の人里である。

 アリスとケビン以外との異世界人との交流である。


「冒険者かな? 先ほどは助かりました」


「あっはい」


 小さな農村の広場。

 ベンチ代わりに置かれた石に腰かけて、村長がユージに礼を言う。

 先ほど撃退したゴブリンは10匹。

 村人だけでも勝てる数ではあるが、ユージたちなしで戦っていたら怪我人や犠牲者が出てもおかしくなかったらしい。

 いかに辺境の農民がモンスターに慣れていると言っても、戦闘は本職ではないのだ。

 仕方ないことだろう。


「あの、おじちゃん!」


「うん? なにかねお嬢ちゃん?」


「アリス、おとーさんとおかーさんとバジル兄とシャルル兄をさがしてるの! おじちゃん、知りませんか?」


「えっと、アリスは俺が森で保護したんです。住んでた村、アンフォレ村だったかな? そこが盗賊に襲われて、家族と離ればなれになったみたいで」


 待ちきれなかったのだろう。

 大人たちの挨拶が終わると、アリスがさっそく村長に質問していた。

 アリスの足りない言葉を補足するユージ。

 義妹のためなのか、意外にできる男である。

 同行していたカメラおっさんと洋服組Aは口を開かない。

 意外にできない男たちである。

 まあ洋服組Aはただのニートではあったのだが。


「それはそれは……。残念ながら、ウチの村にはおりません」


「そっかあ……」


「アリス、ほら、きっとここにいないだけだから」


 かぶりを振る村長の言葉に、がっくり肩を落とすアリス。

 ユージは慰めるようにアリスの頭を撫でる。

 あと座ったアリスのヒザの上に乗って、コタローも。


「街でアンフォレ村から逃げ出した村人が保護されていると聞きます。そちらを当たってはどうですかな?」


「そちらは伝手を使って調べてもらったのです。残念ながら……」


「そうですか」


 どうやら村長は、アンフォレ村とその村人の状況を知っていたらしい。

 まあ同じ街の周辺で、似たような農村、しかも村を束ねる村長なのだ。

 気にするのは当然だし、情報を仕入れていたのだろう。


 ちなみに受け答えしたのはユージではなくカメラおっさんである。

 ようやく交渉役であることを思い出したらしい。

 カメラを隠して撮影している場合ではないのだ。まあ動画モードで撮っているようだが。


 しょぼんと落ち込むアリスと慰めるユージをよそに、村長とカメラおっさんの会話は続く。

 そう。

 人里を探していたのは、アリスの家族を捜す以外にも理由があった。

 商人のケビン以外の情報源と食料確保のルートを見つけるためである。


「ほう、ではこのままお嬢ちゃんの家族を捜す旅を続けるつもりだと」


「はい。ですから、食料を分けていただけませんか? もちろんお金は払います」


「おお、それはありがたい! 何しろゴブリンどもとの戦いになったのは、芽吹いたばかりの畑でしたからなあ」


 ニコニコと笑う村長。

 人を呼び寄せて、さっそく売れる物を持ってきてくれるようだ。

 村長が言うには、行商人との買い物以外、村内の取引はほとんど物々交換らしい。

 だが先ほどの防衛戦で畑が荒れてしまったため、お金を得られるならありがたいそうだ。


「季節一巡り前は不作でしてなあ。蓄えも少ない状態であの畑の荒れようだと……もちろん村から援助はするつもりなのですが」


 畑が荒れたのは村を守るため。

 とうぜん村として畑の持ち主を助けるのだと言う。

 余った作物を分けるため、餓死することはないそうだ。

 だが、無い袖は振れない。


「税が問題なのです。現物で納めない場合は、金銭で納めないとなりませんから」


 申し訳ないと思ったのか、へにゃっとうなだれる村長。

 ちなみにこの地の税が格別高いわけではないらしい。


「おお、運ばれてきましたな。さて、食料以外でも必要な物があれば言ってください」


 村長とユージたちがいる広場に、何人かの村人が荷物を運んできた。

 村で管理している余剰農作物や雑貨、それに。

 話を聞きつけたのか、各家から持ち込まれた農作物、手仕事の成果の商品。

 狩人がいるのか、獣の毛皮も。


 あっという間に、小さな広場はバザー状態である。

 あるいは産地直売所か。


 お祭りのような雰囲気に、アリスも気分が切り替わったのか目を輝かせる。

 コタローの尻尾はブンブンと激しく振られている。

 あとカバンの中にカメラを隠したカメラおっさんも。盗撮野郎か。

 ただ熱気にあてられたのか、ユージと洋服組Aはちょっと及び腰のようだ。


 ともあれ、こうして臨時バザーがはじまるのだった。



  □ □ ■ ■ □ ■ ■ □ □



「うわあ、ユージ兄、あれはなにかなあ!」


「待ってアリス!」


 村人たちが持ち寄った臨時バザー。

 アリスとコタローははしゃいでいるが、ユージたちは直接村人から購入するのを避けている。

 「できれば」という村長のお願いで、村の余剰物資から購入するためだ。

 ノリで村人も集まってきたし、ユージたちに欲しいものがあれば仕方ないが、村長としては畑が荒れた村人を援助するために現金が欲しいようだ。

 いつの世もどこの世界でも、組織の運営は苦労が絶えないものであるらしい。


「これはいくらですか? これは? なるほど……」


 自由に動きまわるアリスとユージとコタローをしり目に、カメラおっさんは村長に付いてもらっていた。

 ユージがケビンから仕入れたこの世界の紙とペンを手に、商品の値段をメモっているのだ。

 ついでに肩掛けカバンから盗撮、いや、動画撮影している。

 洋服組Aは所在なさげに後ろをついてまわっている。

 興味津々だが、人が多い場所は苦手らしい。


「どうだ、カメラおっさん?」


「ケビンさんから聞いた相場はだいたい一致してると思う。服は中古だし高く思えるけど、全部手作業ならおかしくないだろうし。農作物は安いけど、生産者から直接買うわけだから」


「それもおかしくないってことか」


 カメラおっさんと洋服組Aが話していると、ちょっと場違いな声が聞こえてきた。


「冒険者さん、お、おお、お嬢さん、この毛皮を買ってください!」


「うわあ、もふもふだー! ドニおじさんみたい!」


「あっ、それはボクの尻尾で! そっちじゃなくて見てほしいのは毛皮で! ダ、ダメ、やめてください!」


「アリス、落ち着いて。ほら嫌がってるみたいだから。……犬? え? しゃべった?」


 やけに切羽詰まった声である。

 もっとも、すぐに楽しそうなアリスの声でグダグダになっていたが。


「村長、あの声は? 何か事情がありそうですが」


「ああ、戦場となって荒れたのは、あの一家の畑なのです。村の援助以外でも金銭を集めようと必死なのでしょう……できれば、あの一家からも何か買ってやれませんか?」


「はあ、まあ良さそうな物があれば」


 ユージとアリス、それから村人らしき男の子に近づいていくカメラおっさんと洋服組A。

 二人は目を見張る。


 獣人だったのだ。


 畑の持ち主は、二足歩行する犬と猫の親子だったのだ。


「一家が持つお金と村からの援助が足りなければ、誰かを奴隷として売るしかないでしょう。農作業の知識を持つ犬人族の父親か、狩人で猫人族の母親か、賢いけれどまだ幼い犬人族の男の子か」


 目を伏せる村長。

 カメラおっさんと洋服組Aは何も言えない。


 二足歩行するゴールデンレトリバーの親子。

 そして、二足歩行する黒猫。


 戦っている時にはチラッと見かけたが、間近で見るのは初めてだったので。


「仲の良い家族で、犬人族はことさら家族を大事にします。奴隷として離ればなれにするのではなく、できれば一緒にこの村で暮らさせてやりたいのですが」


 二足歩行する小さなゴールデンレトリバーは、尻尾を追いかけるアリスから逃げまわりながらユージに毛皮を売ろうとしていた。

 両親だと思われる大きなゴールデンレトリバーと黒猫は、コタローの前で地面に両膝をつき、両腕を上げてお腹を見せる。

 もちろん服で隠れているためお腹はむき出しではない。

 聞けば、あの姿勢は相手にお腹を見せる獣人族にとって上位者への礼なのだと言う。

 ユージ は おどろき とまどっている!


 カオスである。


「よし洋服組A。市場調査は任せた」


「おいおっさん! カメラ見えてんぞ!」


 二足歩行する犬と猫を前に、興奮した様子で近づくカメラおっさん。

 カバンを胸に抱えている。いや、カバンの隙間からカメラが見えている。


 カオスである。


「あの、どうされましたか?」


「あー、気にしないでください。それで、いや俺が欲しいってことじゃなくていちおう、念のため聞いておくんですけど……奴隷っていくらですか? 俺たちでも買えるんですか?」


 洋服組Aは奴隷について質問している。

 市場調査のためである。

 あるいは、日本で知りたがっている掲示板住人たちのためである。

 もしくは、強行偵察班分隊の帰りを待つトリッパーたち、とりわけケモナーLv.MAXやエルフスキーや爬虫類バンザイ!のためである。

 個人的な興味でも欲望でもない。たぶん違う。

 そして。


「マジかよ人ひとりの値段安すぎだろ……」


「あの? 犯罪奴隷でない奴隷は衣食住や賃金を払う必要がありますからね? お若い男性のようですが、若さゆえの性的なアレは許されていませんからね? それにあくまで相場で、種族や能力や年齢、容姿で値段は変わりますからね?」


 値段を聞いて驚く洋服組Aに、慌てて補足する村長。


 カオスである。



 ユージとアリスを含めた四人と一匹は、初めて異世界の農村に入った。

 まだ戻ってこないかとジリジリする残りの強行偵察班、何事も起きてないかと心配する開拓班たち居残り組。

 四人を除いたトリッパーたちに情報という名の爆弾が落とされるのは、そう遠い未来ではないだろう。

 ただ、犯罪奴隷ではない普通の奴隷では、奴隷ハーレムは作れないようだ。

 幸いなことに。


次話、3/25(土)18時投稿予定です!

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― 新着の感想 ―
[一言] なるほど。 IFの世界では奴隷落ちしそうな犬と猫獣人の家族がここで登場するんですね。
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