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【IFルート】10年ごしの引きニートを辞めて外出したら自宅ごと異世界に転移してた【集団トリップ】  作者: 坂東太郎
『IF:第十章 ユージと掲示板住人たち、異世界で開拓する』

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IF:第十二話 ユージと掲示板住人たち、開拓地防衛戦の後片付けをする


 ゴブリンとオークの集団を倒した翌日。

 戦場になった場所にうごめくいくつもの影があった。


「うっぷす。……ねえジョージ、これ放置したらもしかしてゾンビになるかもしれないよ!」

「それはないだろうルイス。なぜなら人間じゃなくてゴブリンだからね! それにしても……」


「アメリカ組がタフすぎる」

「うっぷ……ごめん、俺ムリだ……かわりにほかの作業を……」

「知ってた。むしろなんで来たミート」


 いくつもの影、というか開拓民たちである。

 ユージとアリス、コタロー、30人のトリッパーたち、10人の開拓民。

 42人と一匹が総出で、モンスターとの戦場跡を片付けていた。

 まあコタローと、一部のトリッパーは戦力外なようだが。


「アリス、ここはもう燃やしてもいいって」


「はーい、ユージ兄! ながーくもえるほのお、出ろー!」


 戦場となった開拓地の入り口横には穴が掘られて、ゴブリンとオークの死体が次々に投げ込まれていく。

 アリスは、魔法で焼却する役割らしい。

 ここは異世界だが、敵を倒せばドロップアイテムを残して消えるゲームのような世界ではないのだ。

 衛生的にも見た目的にも、片付けは必須なのである。放置してもゾンビにはならない。


「ユージもアリスちゃんもタフすぎる」

「いままで経験あるからだろ。俺たちはほら、ワイバーンとか、ゴブリンでも少なかったし」

「シカやイノシシを捌くのでも、慣れないとしんどいからなあ。人型はなかなか……」

「いやそんなシカやイノシシを捌くのが当たり前みたいに言われましても」


 以前に川原でそこそこのゴブリン集団と遭遇したことはあったものの、死体は川に流して終わりだった。

 だが、今回は場所が場所である。

 そして数が数である。

 グロ耐性がある者さえ、ほとんどのトリッパーたちは青い顔しながら作業していた。

 カメラおっさんと検証スレの動画担当、撮影班の二人も今日はカメラをまわしていないようだ。


「あー、みなさん、アレなら片付けは俺たちがやるぞ? 戦闘で役に立ったのはセリーヌぐらいだからなあ」


「おいブレーズ、俺ァちゃんと索敵して、バラけねえように追い立てたぞ?」


「うるせえぞエンゾ、ほれ働け働け。ドミニクを見習ってな」


 青い顔したトリッパーたちに助け舟を出したのは、元冒険者パーティのリーダー・ブレーズだ。

 戦闘指南役として移住したことを考えれば「役に立った」と言えそうなものだが、意外に律儀らしい。

 粗暴な者が多い冒険者たちだが、依頼主や冒険者ギルドからの信頼を得られなければ4級以上にはなれない。

 口調こそ荒いが、元3級冒険者の四人はマトモな性格であるようだ。

 実際、一切出番がなかった盾役のドミニクは、後片付けで役に立とうと無言で穴を掘りまくっている。

 ユージが提供したスコップの威力と相まって、人間重機並みの活躍である。


「それには及びませんよ、ブレーズさん。ご指導いただいた訓練のたまものですから」


「そうですか? そう言われたら悪い気はしませんけども」


「クールなニートの言う通りです! ブレーズさんたちがいてくれたから、俺なんかが防衛団長をできたわけで」


「ユージさん、『なんか』はやめとけって。立派にやってたぜ? よっ、防衛団長!」


「ほらエンゾ、調子に乗ってないでキリキリ働く!」


 まだ人見知りなトリッパーたちとはほとんど話していないが、元冒険者パーティ『深緑の風』はユージやクールなニートとはすっかり馴染んでいるらしい。

 元引きニートだったユージが成長したものである。

 ユージの足元にいるコタローも誇らしげだ。ときどき顔をしかめるのはユージのコミュ力にイラついたのではなく、戦場跡の臭いのせいだろう。たぶん。


「ユージ、俺もエンゾさんと同じ意見だ。防衛団長として、よくやったな」


「でも、最後のアリスの攻撃を止められなかったし……」


「だが、あれでラクができたのも事実だ。むしろ事前に作戦に組み込めばよかった。反省するとしたらそっちだろう」


 60匹のモンスターとの集団戦で、最後に生き残ったオークリーダー。

 突進しようとしたオークリーダーを仕留めたのは、元冒険者たちでもユージでもトリッパーたちでもコタローでもなく、アリスの火魔法だった。

 ユージはアリスをコントロールできなかったことを悔やんでいるようだが、クールなニートは作戦自体が穴があったと悔やんでいる。

 防衛団長にして保護者でもあるユージはともかく、クールなニートの観点がおかしい。軍人か。


「今後のために攻撃手段と罠を洗い出しておくか。秘匿する攻撃方法や物資をあらためて精査して、そのうえで元冒険者組に開示して……」


「あ、あの? クールなニート?」


 ユージそっちのけでブツブツ言い出したクールなニート。

 クールはどこにいったのか。

 いや、死体が残る戦場で考えにふけるあたり、ある意味ではクールなのかもしれないが。


「それに思ったよりも位階が上がった者が少なかった。一人あたりの敵の数を考えたら当然か。やはりここは何匹か捕らえて牧場を……」


「えっと、おーい、誰かー!」


 ゆーじ は なかまを よんだ!

 クールなニートの不穏な呟きを聞いて、止めようと思ったようだ。賢明な判断である。


 ゴブリンとオーク、あわせて60匹のモンスターの集団を倒した翌日。

 戦場跡は臭いとグロさに満ちているものの、誰ひとり欠けることなく平和であった。


「おとーさん……やったね。今度こそ、畑を守れたよ」

「ああ、そうだな。マルクもニナも、よくがんばった」

「ん。みんニャのおかげ」



  □ □ ■ ■ □ ■ ■ □ □



「それにしても、思ったよりあっけなかったよなあ」

「あの片付けの後によくフツーにメシ食えるなケモナーおかしいだろ」

「手伝えなくてごめん……」

「気にするなってミート! そのかわりしばらくトイレ掃除やるって言ってくれたし!」


 夕方。

 ユージの家のまわりでは、いつものように夕食の時間となっていた。

 トリッパーたちの食欲は薄い。一部、気にせず食える剛の者がいるようだが。


「いや、俺が言ってるのは片付けじゃなくて戦いの方ね」


「洋服組B? どうしたの?」


「ん? ああ、ユージとクールなニートか。ほら、昨日の戦いの話。思ったよりあっけなかったって」


「……そうかな? 俺、けっこう緊張してたけど」


「ああ、言いたいことはわかる。だが落ち着いて考えてみてほしい。こちらは42人と一匹、モンスターは60匹。一人二匹も倒せば勝利だ」


「そっか、みんなが来てくれたから、実は数でもそんなに負けてなかったんだ」


「そういうことだユージ。しかもこちらには遠距離攻撃の手段があり、侵攻を防ぐ柵もある。早期発見できたおかげで準備を整える時間もあった」


「おおー、なるほど! なあクールなニート、それ事前に言ってくれればみんなもっと緊張しなかったんじゃ」


「言うな洋服組B。冷静じゃなかったんだろう」


「ほ、ほら、この世界は数が問題じゃないから。ワイバーンは一匹だけだったけど大変だったし」


 60匹のモンスターの集団に、あっけなく、危なげなく勝利した。

 クールなニートが言うように、相手がゴブリンとオークということを考えれば当然だったのだろう。

 めずらしくユージが、「動揺して当然だ」とフォローしようとしたようだが。


「ウチの謎バリアもあるし、来てくれた人たちも戦ってくれたし、うん、けっこう安全になったかも」


 あらためて、ユージも開拓地の戦力に自信を持ったようだ。

 ユージとコタローの一人と一匹で謎バリアごしに戦ったり、アリスを保護して二人と一匹で行動していた頃を考えると、たしかに戦力ははるかに増強されている。

 今回は、謎バリアを使わなかったほどに。


 ユージの言葉に、まわりにいたトリッパーたちも頷く。

 異世界に行くことを希望したトリッパーたちだが、危険な戦いがしたくて来たわけではない。約一名怪しい者がいるが。

 ともあれ、剣と魔法のファンタジー世界で安全が確保できれば、それに越したことはないだろう。


 そんな、一仕事終えてなんとなく弛緩した空気が流れる開拓地に。

 叫び声が聞こえてきた。


「おーーーーーい! ユージさーん! みなさーん!」


 コタローがワンッ! と吠えて、ユージのズボンを咥えて引っ張る。ほら、むかえにいくわよ、とでも言わんばかりに。


「あの声は?」

「いやフツー気付くでしょケモナーほんと人間に興味なしかよ」


「ユージ兄! ケビンおじちゃんだ!」


 コタローに続いて、近づいてきたアリスがユージの手を引く。

 アリスも、一声で来訪者の正体に気付いたらしい。


「そうだねアリス、じゃあ迎えに行こうか!」


「頼んだ、ユージ。こっちはもう一人分の夕食を用意しておこう」


「ありがとうクールなニート! じゃあ行ってくる!」


 開拓地への来訪者。

 だが、今度はモンスターではなく、なにかとよくしてくれるケビンである。

 ユージは足取りも軽く、アリスの手を引いて開拓地の入り口に向かうのだった。

 先行するコタローの、ご機嫌に振られる尻尾を見ながら。



次話、1/27(土)18時投稿予定です!

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― 新着の感想 ―
[一言] ありゃ?この世界ではオーク肉は食べないのか。
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