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【IFルート】10年ごしの引きニートを辞めて外出したら自宅ごと異世界に転移してた【集団トリップ】  作者: 坂東太郎
『IF:第十章 ユージと掲示板住人たち、異世界で開拓する』

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IF:第九話 ユージと掲示板住人たち、移住してきた開拓民と新たな集団生活をはじめる


「こちらは初めて見る野菜です……『開拓民の救世種』に似ているような」


「ええ、俺たちも驚きました。でも多少荒れてても育つあたり、『開拓民の救世種』の方がジャガイモより優れているようですね」


 ユージとトリッパーたちが、この世界の住人を新たな開拓民として迎え入れてから数日。

 10人の異世界人は、さっそく求められた仕事をはじめていた。


「ユージにいー! ほらほら、アリスもおいも取ったよ!」


「おおー、アリスは偉いなあ。ドングリ博士、俺も手伝いますよ」


 ユージの家の近く、トリッパーたちが森を伐り拓いて作られた小さな畑。

 そこに、農業班とユージ、アリスの姿があった。

 この班を率いるのはドングリ博士だ。

 ユージとアリスは見まわりである。


「わっ! び、びっくりしましたコタローさん。え? 手伝っていただけるのですか?」


 小さな畑は、道を挟んで二つに分かれている。

 一つにはトリッパーたちが持ち込んだ日本の農作物が。

 もう一つには、ケビンが手配したこの世界の農作物が植えられている。


 季節は秋。

 一部は収穫の時期を迎え、初めての収穫作業が行われていた。

 ドングリ博士と、新たに迎えた農業指導者・獣人一家の父親であるマルセルの指導で。


「おおおおおお! よかった! 農業班を希望してよかった! やっぱりもふもふは最高だぜえええええ!」

「テンションがおかしくなってるぞケモナー。ジャマだ、そこだとカメラに映り込む」

「なんで獣人さんたちはコタローに敬語なんだろ」

「知るか。ほら、俺たち名無しは黙って働く」


「ユージ、こっちは大丈夫だから。それより見まわりを頼む、開拓団長」


「はあ、ドングリ博士までわざわざ『開拓団長』呼びしなくても……」


 収穫作業といっても、まだ畑は小さい。

 撮影担当の検証スレの動画担当を除いて班は四人、獣人一家からマルセルと息子のマルクで事足りるようだ。

 見まわりに来たユージとアリスとコタローは、少し手伝っただけで次の場所に向かうのだった。

 コタローが手伝えたかどうかは別として。犬なので。


 農業指導者を迎えた農業班は順調らしい。

 元の世界でちょっとこじらせて自給自足を目指していたドングリ博士を満足させるほどには。

 とりあえず、ケモナーLv.MAXも問題をおこしていないようだ。いまのところは。



  □ □ ■ ■ □ ■ ■ □ □



「うーん、じゃあユルシェル、こういうのはどうかなあ」


「そっか、()()紐がないから、いっそリボンにしてしまうのね! いいと思うわサクラ! でもこっちが問題よねえ」


「足を通したらスキマができちゃうかあ。ねえ、伸び縮みする布ってないの? 腰よりはシビアじゃないと思うんだ」


「ああ、それならあるわよ! それよりサクラ、この前教えてもらったこういう形はどう? これなら腰さえ結べれば」


「え、ええー……ユルシェル、それは後にしましょう? ラインが出にくいから、パーティドレスなんかにはあった方がいいと思うけど……」


「活き活きしてるなあ、ユルシェル」


 開拓民を迎えるために建てられた三棟の仮屋。

 そのうちの一つは、住居兼作業所となっていた。

 ケビン商会の従業員となった針子の二人が、新たなデザインの服を開発するために使っているのだ。

 もちろん、そこにいるのは針子だけではない。


「Tバックは後で! まずは普通の下着が先! はあ、でもブラはどうしよ」


「あれは難易度高いわ……でもいつか作ってやるんだから!」


 針子の女性・ユルシェルと話し込んでいるのは、ユージの妹のサクラだ。

 もう一人の針子・ヴァレリーは、二人の会話をジャマすることなく作業していた。世界が変わっても、盛り上がった女子のトークに男は混ざれないものらしい。

 まあヴァレリーはここに来る以前、女性針子たちに囲まれて働いている時からこうだったのだが。


「そうね、ユルシェル、がんばろう!」


 ふんす、と鼻息も荒く拳を握りしめるサクラ。

 サクラの手元にはいくつかの雑誌、それに大量の紙が広げられている。

 下着通販のカタログ、サクラが実家で暮らしていた頃の女性ファッション誌、ネットからプリントした写真やデザイン画といくつかの型紙、それにサクラの私物である服と下着の実物だ。


 ケビン商会に雇われた針子二人とともに新たなデザインの服の開発を担当するのは、サクラになったらしい。

 なにしろトリッパーたちはファッションのことはわからなかったので。

 何よりも……。


「この世界の服は、うん、ちょっと着心地は悪くても着られるもの。それより下着をなんとかしないと。ヘタってきちゃったし、かぼちゃパンツもサラシもちょっと……」

 

 女性であるサクラは、切実な問題に直面していたのだ。

 女性である、サクラだけが。


 男はトランクスのような下着が手に入るし、なんなら肌触りのいい布を買ってフンドシにすればいいだろう。

 だが、街で手に入る女性用の下着は、いわゆるかぼちゃパンツのドロワーズと、サラシだったのだ。

 貴族用にはコルセットもあったようだが、いずれにせよ、元の世界で簡単に手に入る下着ほどの着け心地はない。


 つまりサクラは、この世界に来てから半年ほど、ずっと手持ちの下着を使いまわしてきたのだ。

 下着の開発は急務である。

 とりあえず、ユージの家にあったゴム紐と布を渡して、ユルシェルに自分用を作ってもらうよう依頼するほどに。


「サクラおねーちゃん! アリス来たよ!」


「あら、いらっしゃいアリスちゃん! そうだユルシェル、子供服は売れるかな? アリスちゃんの服は大量にあるから……」


「どうかしら、裕福な商人やお貴族様なんかは、特注のドレスを買ってるから……平民向けとなると難しいかも、でも一張羅を狙えば」


 ブツブツと考え込むサクラとユルシェル。

 ちなみにアリスの服が大量にあるのは、YESロリータNOタッチがキャンプオフ当日にユニク○で大人買いしたからである。

 街で溶け込むため以外の理由では、アリスの服はしばらく買わなくてもいいだろう。

 幼女にかわいい服を着せたいというロリ野郎の欲求は役に立ったようだ。

 幼女服を大人買いしたわけだがプレゼント用なのでセーフである。たぶん。


「アリス、一人で先に行っちゃダメだよ、いくらサクラがいるはずだからって」


「ちょっとお兄ちゃん!」


 アリスを追いかけて仮屋に入ってきたユージを、サクラが慌てて止める。

 コタローがユージに前脚をかけてグイグイ止めようとしていたのに、ユージは気付かなかったようだ。


「え? どうしたのサクラ?」


「もう! 早く出てってお兄ちゃん! いま下着の話してるところなんだから!」


「あっ。わ、悪気があったわけじゃないんだサクラ! わざとじゃない、わざとじゃないから!」


 サクラの手元には雑誌や紙のほかに、サクラの私物があった。とうぜん、会話にのぼった()()も。


「ごめんサクラ! だからその、恥ずかしい秘密をバラすのはなしで! ほらアリス、行こう!」


「はーい! またね、サクラおねーちゃん!」


 バタバタと退散するユージ。

 サクラは、家族であっても下着を見られるのがNGなタイプらしい。

 あるいはユージが信用されていないのか。きっとそんなことはないだろう。たぶん。


「はあ、まったくもう、お兄ちゃんったら」


「サクラこそ、そんなに気にすることないんじゃない? ほら、私なんてヴァレリーに下着を作らせたりするし!」


「ユルシェルはもうちょっと俺のこと気にしてほしいんだよなあ……」


 ヴァレリーの嘆きは、二人の女性には聞こえなかったようだ。

 女だらけの職場で働く男の哀しさよ。



  □ □ ■ ■ □ ■ ■ □ □


「弓矢ってこんな感じですか!?」

「うん、まあ悪くないかな。こっちの彼は……才能ってあるんだねえ」

「は、はあ、自分でも意外です」


「防衛策の強化ですか。柵は作られたようですから、堀でしょうか。水がなくとも効果的です」

「なるほど、やはり有効ですか。では少しずつ人力で、いや、それでは時間がかかる。何か使える道具は……」


「うおおおおお! このおっさんすげえ! 盾ってすげえ!」

「三人がかりでも攻撃が当たる気がしない! ギルド長といいこの世界はバケモノだらけすぎる!」

「ああ、動画担当はこっちに来てもらえばよかったなあ。静止画で伝えられるか」


 次にユージが向かったのは、開拓したエリアの中で一番ユージの家から離れた場所だ。


「おおー、みんながんばってるなあ」


「ねえねえユージ兄、アリスもやりたい!」


「えーっと、アリスにはまだ早いかなあ。魔法は大変なことになっちゃいそうだし」


「ええー?」


 不満そうにぷくっと頬を膨らませるアリス。

 だが、ユージの言葉はもっともだろう。


 開拓地の端。

 そこで行われていたのは、戦闘指南役の元冒険者たちによる戦闘訓練だ。

 幼女のアリスを参加させるわけにはいかない。

 アリスが得意な火魔法であれば参加できるかもしれないが、参加したら大惨事である。


 弓矢とクロスボウ、遠距離武器は弓士のセリーヌが指導して、剣や槍、近接武器は盾役のドミニクが練習台になっているらしい。

 斥候のエンゾと獣人一家のうち猫人族のニナは、開拓地周辺の見まわり兼狩りに出ているようだ。

 元冒険者たちのリーダー・ブレーズはクールなニートの相手である。

 クールなニートは、開拓地を木の柵で囲うだけでなく、堀も作るつもりらしい。

 要塞化する気か。


「でもほんと……うん、うまくいってるみたいだ。いろいろ勉強になるし、生活もうまくいってるし」


「ユージ兄? どうしたの?」


「元冒険者さんたちも針子の二人も獣人一家も、来てもらってよかったなあって」


 そっとアリスの頭を撫でるユージ。

 まだ数日だが、新たな開拓民の受け入れはうまくいっているらしい。


「あっ、ちょっと待ってコタロー!」


 ほのぼのとしていたユージとアリスの間隙を縫うように、コタローが走っていった。

 戦闘訓練を見て、参加したくなったらしい。血気盛んな女である。



 ユージがこの世界に来てから三年目の秋、ユージとトリッパーたちは、この世界の住人を開拓民として受け入れた。

 農業指導者も針子も戦闘指南役も、期待された役割を果たしている。

 新たな集団生活は、順調なようだ。

 いまのところ。


次話、1/6(土)18時更新予定です!

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