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【IFルート】10年ごしの引きニートを辞めて外出したら自宅ごと異世界に転移してた【集団トリップ】  作者: 坂東太郎
『IF:第十章 ユージと掲示板住人たち、異世界で開拓する』

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IF:第一話 ユージと掲示板住人たち、ケビンから移住候補者の話を聞く


 ユージがこの世界に来てから三年目の夏、トリッパーたちには最初の夏。


 家の前の広場には、33人と一匹が集まっていた。

 ユージとアリス、コタロー、30人のトリッパーたち、それにケビンである。

 男が多すぎてむさい。


「いやあ、お待たせしてしまいました。遅くなって申し訳ありません」


「けっこう時間がかかるもんなんですね」


「仕方ないだろう、ユージ。この世界には転職サイトもアルバイト情報誌も転職エージェントもないんだ」


「それはどうでもいいから! ケビンさん、それで候補者は!? どんな人なんですか?」

「落ち着けミート! でも、私、気になります!」

「お前も黙れトニー! ところで候補者は獣人さんですよね?」

「……エルフスキーと爬虫類バンザイ! が静かなのは、もう諦めてるからか」


 広場に集まった人たちの中心はケビンだ。

 ケビンを囲んだトリッパーたちは、あいかわらず騒がしい。

 口を挟まないサクラやジョージやアリスも、キラキラと目を輝かせてケビンの言葉を待っている。


「ケビンさん、それでどんな人たちなんですか?」


「私と代官様はもう会いましたが、いずれも信頼できる人たちですよ。まず戦闘指南役の冒険者たちは3級のパーティです」


「3級……俺が8級で、コタローが5級相当、アリスが4級相当って言われたから、それ以上?」


「うわあ、うわあ! つよいひとたちなんだ!」


「ユージさん。高位の冒険者は、強いだけでなく信頼できるのです。でなければ、4級以上にはなれませんから」


「へえ、そんなもんなんですねえ」


「なるほど、そういう仕組みなのか。護衛や指名依頼のことを考えたら当然なのかもしれない」


「なに納得してんだクールなニート! それよりケビンさん! どんな人たちなんですか!?」

「強くなるには戦闘指南役は大事なんです! はやくリザードマンに会いたいから!」

「戦闘だけじゃなく野営、お金を貯めて護衛もお願いできませんか? 俺は王都まで行かなきゃ行けなくて」

「はいはい静かに。ユージとクールなニートに任せて」


 集まった32人が一斉に話しかけたら、ケビンは応えられないだろう。

 そう思ったトリッパーたちは、話を進める役を開拓団長であるユージとクールなニートに任せたはずなのに騒がしい。自由すぎる。


「彼らは3級冒険者パーティの4人組ですね。獣人はおらず、斥候、盾役の重戦士、攻撃役(アタッカー)の剣士、弓士という構成です。それと、移住が確定すれば元奴隷の拠点管理担当を一人連れてくる予定だと聞いています」


「はいっ! ケビンおじちゃん、まほー使いはいないの?」


「ああ、いないそうだよ、アリスちゃん。魔法を使える者は市井にもいるけど、やっぱり貴族が多いからねえ」


「そっかあ」


 魔法を教わりたいと思っていたのか、アリスがしゅんと肩を落とす。

 コタローはアリスのヒザに頭を乗せてぐりぐり押し付ける。しかたないわありす、いっしょにがんばりましょ、とでも言いたいかのようだ。コタローも残念だったらしい。魔法を使えるので。犬なのに。


「『獣人はおらず』! はい不採用!」

「なんかケモナーLv.MAXはこっちに来てから業が深まってる気がする……」

「夢を目の前にしてるんだ、しゃあないだろ。しゃあないか?」


「あれ? ケビンさん、いま元奴隷って」


「いいとこついたユージ!」

「拠点管理を担当してた奴隷。まさか、女性?」

「おおおおお! まさかの現地人による奴隷ちゃんハーレム!?」

「奴隷……いや、買い戻しも可能で衣食住を保証するわけで丁稚や奉公人とも……」


 考え込む郡司をよそに、トリッパーたちは大騒ぎである。

 ユージの妹のサクラとコタローの目が冷たい。


「パーティの盾役の男性と元奴隷の女性、剣士の男性と弓士の女性が結婚するため、引退を考えたようです。それを知ったギルドマスターが、新規開拓団の戦闘指南役はどうかと持ちかけたようですね」


「あ、開拓地は冒険者の引退先に人気があるって」


「なるほど、そういう事情でしたか。では、ここで暮らすことも納得済みですか?」


「ええ、私がお会いした際にも確かめました。開拓民として生きていく、街に戻れなかったとしても問題ない、と」


 ユージたちが探していた戦闘指南役と農業指導者は、募集要項が厳しかった。

 稀人の存在を隠したい領主夫妻とユージたちの思惑もあって、「秘密を守れる」ことは当然として「基本的には開拓地で生活する」ことが条件としてつけられているのだ。

 つまり、最終面接を経て移住すれば、その後は一生開拓地を出ない、という厳しいものである。

 もちろんケビンやトリッパーたち、事情を知る者の監視下にあるか、単独行動でも秘密を守れると判断されればその限りではないのだが。

 いずれにせよ厳しい条件である。


「それもヒドい話だよなあ」

「だが、それほど遠くない昔では、日本の農村でも当たり前だったことだ。隣村に行ったことがない農民も多かったと聞く」

「聞くってホントに聞いたわけじゃないだろ物知りなニート。ないよな?」

「居住移転の自由。たしかに、明文化されたのは近代のことですが……」

「ほら郡司先生、余計なことは考えない! 郷に入れば郷に従えって言うし!」


 難しい顔をして考え込む郡司をよそに、ユージは「そういうもんなんですねえ」などとのたまっている。平和か。


「いずれにせよ、そのあたりは俺たちが面接する時にも再度確認しましょう。ケビンさん、見つかったのは戦闘指南役だけですか? 先ほど『いずれも』と」


「農業指導者の候補も見つかりました。こちらは、その、代官様経由の紹介で……」


「ケビンさん? どうしたんですか?」


 口ごもるケビンに問いかけるユージ。

 10年ものの引きニート戦士とは思えない自然な問いかけである。

 30人のトリッパーと幼女と暮らすうちに、ユージのコミュ力は上がったのかもしれない。


 チラチラとトリッパーたちの顔を見まわしたケビンは、意を決したように口を開く。


「候補は、買い手がいれば奴隷になりたいという男性なんです。それと奴隷ではありませんがその妻と、息子という一家でして。ユージさんたちが奴隷に抵抗があることは知っていますが……困窮した農村から、代官様に奴隷として買ってくれないかという話が持ち込まれたようでして……」


 歯切れが悪いケビンの言葉に、クールなニート、サクラ、ジョージ、郡司あたりが顔をしかめる。

 この国の奴隷の環境はそうヒドいものではないが、それでも。

 現代日本に生まれ育った者たちが、抵抗あるのも当然だろう。ましてやサクラやジョージはアメリカ在住だったのだ。


「苦しい農村を助けると思って、引き受けてはいかがでしょうか。代官様が言うには、支払いは領主様の方でしていただけるそうですし、奴隷を希望する男性とその息子は、帰属する群れに忠実な犬人族の獣人ですから……」


「獣人! 獣人さん! はい採用! 採用決定ね!」

「奴隷ってことよりヤバい情報きました! ケモナーを押さえろ!」

「おいこれ大丈夫か? 話聞いただけでこれって」

「獣人かあ。思う存分撮りたいのは確かなんだけど……」

「わかる、わかるぞカメラおっさん。あの自然な毛並み、元の世界にはいなかった存在。撮りたいよなあ」


 カオスである。

 ユージはちょっと引き気味である。あとケビンも。

 コタローは、なによ、わたしのけなみじゃまんぞくできないの、とちょっと不満そうだったが。プライドが高い淑女である。犬なのに。


「落ち着けみんな。いずれにせよ、判断は面接してからだ」


「……なあ。困窮した農村で、犬人族の獣人さんが奴隷になりたいって、なんか聞いたことあるような」

「洋服組A? あっ」

「そういえば発見した農村でそんな話があったって聞いたような」

「いやいやいや、異世界だぞ? よくある話なんじゃない?」

「可能性はある。可能性はあるけど、確かめようがなあ」

「どっちにしろ問題なし。獣人さんなんだから確定で」


 突然静かになって、ヒソヒソと話しはじめるトリッパーたち。

 クールなニートがなだめたおかげ、ではない。


 洋服組Aが思い出したのだ。

 春に強行偵察班として周囲を探索した際に見つけた、農村での出来事を。

 ぷるぷる震えながら「ボクを買ってくれませんか!」と言い出した、二足歩行する小さなゴールデンレトリバーのことを。


「ユージさん、いつ街に行かれますか? 近いうちに発てるなら、この地で待たせていただきたいのですが」


「えっと……どうだろ、クールなニート?」


「そうだな、俺とユージは確定として、あとは希望者を募るか。みんな街に入れるようになったんだ、行きたい者もいるだろう」


「はーい! アリス、ユージ兄といっしょに行く!」


「俺! 俺も行くから! 最終面接で獣人さんを落とさせないからな!」

「アリスちゃんが行くなら、私も行かなくちゃね!」

「俺たち撮影班は必須で! いや、居残り組がいるならどっちか残った方がいいか?」

「犬人族の男の子ですか。私も行かなくてはなりませんね。アリスちゃんに悪い虫は近づけませんよ」

「お前が『悪い虫』だって発想はないの? そこはスルー?」

「はい! 面接は参加しなくていいから、冒険者ギルドで訓練したいです!」

「弓士かあ。弓の使い方、ちゃんと教わりたいなあ」


 住民証明を得たユージとトリッパーたちは、自由に街に入れるようになった。

 だが全員で往復して以来、モンスターがはびこる危険性と片道三日かかることから、街に行った者はいない。

 ひさしぶりの街行きに、一部のトリッパーの鼻息は荒い。荒いが、決して危ない興奮なわけではない。たぶん。


「な、なんかみんな勢いがすごい。そんなに街に行きたかったんだ……」


 開拓団長のユージはちょっと引き気味である。



 ともあれ。

 ユージは有志を募って、プルミエの街に行くことになるようだ。

 人選を間違わないことを祈るばかりである。

 ……ダメなトリッパーが多そうだが。そもそもユージは確定なので。


次話、11/11(土)18時更新予定です!

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