IF:第十話 ユージと掲示板住人たち、プルミエの街でのそれぞれの行動:アメリカ組
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「おおおおお! こういうの! こういうのだよジョージ! やっぱりガンショップとは違う良さがある!」
「落ち着けルイス! まだ外から見ただけじゃないか! 中にはきっと無骨な武器の数々が……」
「魔法が存在する世界における武器屋。変わった形状や用途の武器があってもおかしくないだろう。期待できそうだ」
「やっぱテンション上がる! ケビンさんの帰りを待っててよかった!」
「はは、喜んでいただけているようで何よりです。では入りましょうか」
「おおおおおッ!」
プルミエの街の大通りに、騒がしい一団がいた。
ルイス、ジョージ、物知りなニート、湖の街らしい、数人の名無し。
このグループはいままで、広場にあった屋台で買い食いを楽しみながら時間を潰していた。
ユージ班に同行していたケビンの帰りを待っていたのだ。
腹を満たして異世界の買い食いを堪能して待つことしばし。
合流したケビンを迎えて、一行は目的地へ向かった。
目的地は武器屋。
剣と魔法のファンタジー世界で、モンスターと戦う武器を売る店である。
「おじゃましまーす! おおッ!」
ケビンが案内した武器屋は、プルミエの街で最大の武器屋だ。
受注生産がメインの鍛冶工房ではなく、完成品を販売する店舗である。
とうぜん、棚にも壁にもずらりと武器が並んでいる。
「おや、いまをときめくケビン商会のケビンさんじゃないですか。今日は仕入れですか?」
「いえ、今日はお客様を案内してきました。いろいろ見せていただけないかと」
「それはそれは、ありがとうございます」
ケビンはこの武器屋の店員と顔なじみであるらしい。
以前ケビンは、村々をまわる行商人だった。
この店で武器を仕入れ、農村で売ったのだろう。
受注生産の武器ではなく、いわゆる「数打ち」であっても、農村の需要は満たせるのだ。
安くて用は足りる分、むしろ業物よりも喜ばれる。
ケビンが店員と挨拶しているのに、トリッパーたちは静かだった。
店内にずらりと並んだ完成品の武器の数々に目を奪われているようだ。
言葉は発しないが鼻息は荒い。
「おおおおお! ジョージジョージ! 想像以上だよ! こういうの! 僕が創り出したかったのはこういう、シンプルゆえに美しく実用できる武器なんだ!」
「わかる、わかるぞルイス! これが紛い物ではない武器! 銃とはまた違う魅力があるな!」
「こちらに並んでいるのは新品、壁際が中古だろうか」
「よくわかりましたね、その通りです。このお店では中古品も販売しているのです。中古と言ってもきちんと手入れされて研ぎ直された品ですよ。新品よりも安くなりますから、私もよく掘り出し物を探した物です」
「中古! 掘り出し物! 実は隠れた名剣が眠っているコースか!」
「よく思いついた湖の街らしい! くうっ、『ほう、ソイツを選ぶか』とか言われちゃう男のロマン!」
最初の衝撃から立ち直ったトリッパーたちは大騒ぎである。
「あのみなさん。中古の品は一定以上の品質があるか確認されていますからね? 割安な品はあっても知られざる名剣は存在しませんよ?」
当然だろう。
怪しげな露店ならともかく、ここはプルミエの街最大の武器屋なのだ。
中古品は手入れして使えることが確認されてから販売するし、規模が大きい分、目利きの店員も存在する。
普段から武器を扱い、多くの武器を見てきた店員が気付かない「隠れた名剣」など存在しない。
「これだ、こういうのだよジョージ! ちゃんと汚れを落とされたのに、剣のこの使用感! CGでこれを出すのがどれほど大変か!」
「ルイス、こっちの槍もいいぞ! 模様まで刻まれた美しい品、しかも中古品だ!」
「このあたりに並んでいるのは大型武器か。これは……杭? 破城槌にしては小型のような……それにこの溝は?」
「ああ、そちらは大型の獣やモンスター用の武器ですよ。種類によっては数人で使うものもあります。敵に突き刺した後に離脱して、その溝を通って血を流れさせるのです」
「大型モンスターに一撃離脱。いくつもの杭を突き刺し、出血させて弱らせるための武器ですか」
「メイス! モーニングスター! 実物を見るとこういう武器もかっこいいな!」
「おいこっちに遠距離用もあるぞ! 弓矢にクロスボウ、この筒は……?」
「そちらは吹き矢となっております。射程は短いのですが、初心者でも狙いをつけやすいですよ。矢に毒を塗って使われることが多いですね」
店内に散るトリッパーたちは思い思いに騒いでいる。ほかに来客がいなかったのは幸いだ。
ときおりケビンや店員が対応しているのは商売人の性だろう。いい迷惑……いや、店員にとってはお客様で、ケビンにとっては大事な取引先なのだ。対応して当たり前か。
「Oh、大変だよジョージ! 値段が!」
「なんてことだ! この値段では買えないじゃないか! ゾンビが来たらどうすればいいんだ!」
「いや武器あるじゃん。チェーンソーもクロスボウもあるじゃん」
嘆くルイスとジョージ、もっともなツッコミを入れる湖の街らしい。
ついにツッコミ役が開花したか。30人のトリッパーがやってきたのに、いまだにツッコミ役は少ない。基本全員ボケか天然である。地獄か。
「ルイスさん、ジョージさん。開拓地の武器の数は充分ではないですし、共有財産として購入する予定ですよ。そのためにケビンさんに同行をお願いしたんですし」
「武器は決まっていないと聞いています。これから戦闘訓練するのだと。ユージさんとクールなニートさんから、練習用に何種類か購入してほしいとお願いされています。みなさまご存じだと聞いていたのですが……」
「それはそうだけど! でも! これを見たらやっぱり自分の武器が欲しくなるに決まってるじゃないか!」
「稼ごうルイス。どんな手を使っても稼ごう。やはりゾンビにはカタナだろうか」
「そういえばそうだった! えーっと、ユージは短槍があって、短剣はある。あとクロスボウと弓矢はあって、ほかにいま開拓地にある武器は……」
「バールのようなものもあるな。だがメイスかモーニングスター、殴打武器は購入するべきだろう。あとは」
「ハルバード! 馬上ランス! 戦斧とデスサイズとこの杭も!」
「おいロマンで武器を買うな。そんなの振りまわせるわけ……位階が上がって身体能力が上がればイケるのか? だったら技術がなくてもダメージがデカい重い武器もありかも!」
アメリカ組をなだめる物知りなニートとケビン、それでもおさまらないジョージとルイス。そしてジョージはカタナをなんだと思っているのか。刀ではなくカタナならありなのかもしれないが。
この班は、興味本位で武器屋に来たわけではない。
もちろん「見たかった」は理由の一つだが、メインはそれではないのだ。
戦闘初心者なユージとトリッパーたちは、これから本格的に戦闘訓練をはじめる。
短槍と大盾と決まっているユージ、なぜか弓矢の才能があった洋服組Aはいいだろう。
だが、二人以外のトリッパーたちはメイン武器が決まっていない。
ドングリ博士は猟銃持ちだが弾数は限られているし、街中では見せないようにしている。
カメラおっさんと検証スレの動画担当は「俺の武器はカメラだ」と言い出すかもしれないが論外だ。
チェーンソーも使える場所が限られるだろう。そもそも武器じゃない。
この班は、ユージとトリッパーたちが共有する、練習用の武器を買いにきたのである。
「いまお持ちなのは私が持ち込んだものでしたね。短槍と大盾、円盾、弓矢、小剣と短剣はお持ちした記憶があります。ですから購入するのは……」
ユージに渡した荷物を思い出しつつ店内を見まわすケビン。
真剣な表情で、それぞれお気に入りの武器の前に立つトリッパーたちの姿が目に入った。
「馬がいませんし、馬上槍は止めましょうか。吹き矢は微妙かもしれませんが、狩猟に使えますし安価ですから検討の余地があります。両手剣とメイスは購入していいかもしれません。使用を考えると弓矢は何張りか購入した方がいいと思いますが、訓練用とは異なりますね」
ケビンの言葉にがっくりと肩を落とす名無し、ガッツポーズする湖の街らしい、ハイタッチするルイスとジョージ。
「大型モンスター用の杭は……こちらも購入した方がいいと思いますが、訓練用ではありませんね。あらためて話し合っていただいた方がいいでしょう」
物知りなニートもちょっと悲しそうだ。
「では、いくつか武器を取り置いてもらいましょうか。購入の最終決定は話し合いの場を持ちましょう。おっと、取り置きをお願いできますか?」
「購入される武器もあるようですし、こちらとしてはかまいませんよ。ただあまり長期間は……」
「そうですね、わかりました。ではみなさん、次の店に向かいましょうか。次は防具屋です!」
「おおおおお! ジョージ、ジョージ! 次は防具屋だって! 革鎧に金属鎧、ハーフプレイトメイルにフルプレート! ああ、盾も楽しみだなあ!」
「ルイス、兜を忘れているぞ! きっといろんな形状と装飾があるはずだ!」
ガヤガヤと騒ぎながら、一行はプルミエの街最大の武器屋を後にする。
とりあえずいくつかの武器は購入決定、いくつかの武器は要検討となったらしい。
続けて一行は、ケビンの案内で防具屋に向かう。
ちなみに武器屋と同じ商会が経営する、いわばグループ店である。
自由行動がはじまったトリッパーたち。
ジョージとルイスを中心に、物知りなニート、湖の街らしい、それに数人の名無したちは、ケビンの案内でショッピングを楽しむのだった。
中世ヨーロッパ風ファンタジー世界で、武器と防具の店に行く。
トリッパーたちは、ようやく憧れを叶えつつあるようだ。
次話こそ9/23(土)18時更新です!
■ 予定外の更新の理由?
新作をはじめているからですよ!
作者の物語の中では、この「10年ごしの〜IFルート」に一番近いテイストだと思います。
新作コメディ「アイヲンモール異世界店、本日グランドオープン!」
ご一読いただけたら幸いです!
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