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【IFルート】10年ごしの引きニートを辞めて外出したら自宅ごと異世界に転移してた【集団トリップ】  作者: 坂東太郎
『IF:第八章 ユージと掲示板住人たち、異世界の街へ行く』

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IF:第五話 ユージと掲示板住人たち、ケビン商会で今後の予定の話をする


「おお! おお! おお……?」


 ケビンを先頭に、プルミエの街の大通りを進んでいくユージ、アリス、コタロー。

 十数年ぶりの街、それも初めての異世界の街に足を踏み入れたユージ。

 歩きながら街や道行く人を眺めるユージは驚きの声を上げ、感嘆し、疑問の声をあげる。


「これはまた、雑多な」


「よしみんなそのまま歩いてくれ! カメラまわしてるけど意識しないでな!」


 クールなニート、郡司は街や人の様子をキョロキョロ眺め、検証スレの動画担当はさっそくカメラをまわしている。

 アリスは「わー!」と驚きで開いた口が、そのままずっと開きっぱなしである。

 コタローも興味深げにキョロキョロしたり、ふんふん匂いを嗅ぎまわっていた。


 全員、興奮は隠せない。


 プルミエの街は、人も家も、とにかく雑多だった。


 大通りというだけあって、道幅は広い。

 時おり追い抜いていく荷車や幌馬車があったが、スムーズにすれ違えるほどに道は広かった。


 その大通りを歩く人は様々であった。

 ケビンのような旅装の者、ユージのように鎧に身を包んで武器を持つ者、商人風、農民風。


 服装も様々なら、人種も様々なようだ。

 ケビンのようないわゆるコーカソイド系の人はもちろん、時おりユージたちのようなモンゴロイドに近い人物。

 それどころか、二足歩行する犬や猫に似た獣人の姿も見える。

 ガチャガチャと音を鳴らし、同じ鎧を着込んだシベリアンハスキーの集団を見た動画担当は、すかさずカメラを向けていた。

 これだけあからさまに撮影して、外側の偽装は効果があるのか疑問なところである。


 町並みもごちゃごちゃしていた。

 大通り沿いに建つ家や店は、土台が石造りで上は木材で造られていることが多いようだ。

 だが、ある家は石造りは土台だけ、ある家は2階まで石造り。

 さらにレンガや土壁に色をつけたような家も散見される。

 石や木といった素材そのままの家から、白、黒、中には赤や黄色といった派手な色に塗られた家もある。


 ユージが驚き、疑問の声を上げるのも無理はない光景である。


「この街を初めて訪れた人は、みなさんそんな反応をしますよ。ごちゃごちゃしてるでしょう?」


「そうですね……」


「ケビンさん、これには何か理由が? ほかの街では違うのでしょうか?」


 先導していた行商人のケビンがユージを振り返って話しかける。

 耳に入ってこないのか適当な相づちのユージ。

 むしろクールなニートが、気になったのかケビンに問いかける。


「ここは移民の街です。王都から来た者、周辺の村から来た者、開拓の労働力として集められた人や奴隷、私のように商売のために住み着いた者、いろいろな人がいます。開拓とともに街が広がってきましたから、建てられた時期や建てた人物、出身によって家や店の形状も様々です。まあそれでもユージさんの家のような形は見かけませんが」


「なるほど、混在しているのですね」


「そういうことです。さてみなさん、ひとまず私の店に向かいましょうか」


 ニッコリと笑ってまた歩き出すケビン。

 ユージとアリス、クールなニートと郡司は周囲に視線を動かしながら、無言でついていく。あとコタローも。


 ただ一人。


「うおおおお、ホンモノの獣人だ! あっちの市場も気になる! くそやっぱり海外よりおもしろい! ああああ、来てよかった!」


 検証スレの動画担当だけ、ハイテンションで撮影を続けていたが。

 バッテリーは大丈夫か。




「ここが私の店、ケビン商会です!」


 ユージたちが街に入ってから歩いて30分ほど。

 一行はようやくケビンの店に到着する。

 1階は石造りで、2階はその上に木材を使って建てられている。

 高さから考えると3階まであるようだ。

 大通りに面した1階は大きく開けており、ずらりと並んだ商品の見本が見える。

 まわりも同様の店舗が多く、どうやらこうした店が集まるエリアのようである。


 おおーと、声を揃えてユージとアリスが店舗を見上げる。

 コタローは店舗を一瞥した後、ケビンに向かってワンワンと吠えていた。どうやら、なかなかやるじゃない、と褒めているようだ。下から見上げているくせに、上から目線であった。

 ちなみにクールなニートと郡司は店舗に並ぶサンプルを興味深く眺めはじめ、動画担当は上にパンしていた。


 店舗の前でたむろする集団に気づいたのだろう「お帰りなさいませ」という声とともに壮年の男女が一組と、15才ぐらいの少年が挨拶に来る。


「みなさん、ひとまず中へどうぞ」


 ケビンがユージたちを商会の中へ招く。

 想像していたよりもはるかに立派なケビンの店。

 ユージはどこか気後れしながら店内へ入っていくのだった。



  □ □ ■ ■ □ ■ ■ □ □



「さてみなさん。いま丁稚に手紙を持たせて、領主の館へ走らせました」


「ケビンさん、すでに面会の約束は取り付けているのでは?」


 ユージとアリス、コタローとトリッパーたちは、ケビン商会の2階に設けられた応接室にいた。

 荷を置いて、お茶を飲みながら今後の予定を打ち合わせるらしい。

 トリッパーたちは内心で「それはいいから街に行かせてくれ」と思っていたが、口にしない程度には大人であるようだ。

 撮影担当だけは堂々と口にしていたが。


「ここはモンスターがはびこる辺境です。何が起こるかわかりませんからね、到着の知らせをもって面会が確定となるのです」


「なるほど。日本のアポイントとは違いますか」


「余裕を見て日程を組んでいますから、面会は三日後です。それまではみなさんここにお泊まりいただいて、作法や注意点などを教えたいと思っています」


「助かりますケビンさん! 俺、自信なくて……」


 教えてもらえると聞いて喜んだのはユージである。

 10年間引きこもっていたユージ、やはり自信はなかったらしい。

 そもそもユージだけは、「家主」という理由だけで領主との交渉に同席することになっているのだ。


「時間はありますし、領主様は騎士でもありますから。敬意をもって接すれば、細かいことは気にしないという評判ですよ。まあそのせいで、王都の貴族からは『辺境の田舎騎士』と揶揄されているようですが」


 小さく首を振るケビン。

 だがユージやトリッパーたちは、安堵して息を吐いている。

 ユージのみならず、クールなニートも郡司も。

 相手は貴族、それぞれ思うところはあったのだろう。


「街を見てまわるのはそれ以降と思っているのですが……よろしいですか?」


「マジか! ケビンさん、ちょっとうろつくぐらいはOKですよね? ここまで来て外に出られないなんて!」


「落ち着け動画担当。交渉をクリアしてからにしよう。ここでリスクを取らなくていいだろう」


「おうっふ、マジか……」


 がっくりと肩を落とす動画担当。

 目の前に、そそられる景色がある。

 三日待つのもしんどいらしい。あと郡司も肩を落としていた。


「面会には、領主様だけでなく、領主夫人も参加されるようです。美しいと評判の方なのですが……」


 ケビンがクールなニートを見つめる。


「貴族の礼儀は心配ですが、ビジネスの話であれば問題ありません。女性とも仕事してきましたから」


 ケビンの懸念を理解したクールなニートは、しっかり頷いて答えていた。

 激務からのドロップアウトだったが、クールなニートはもともとコンサルだ。

 同僚にもクライアントにも女性はいたのだろう。

 プライベートはともかく、ビジネス、交渉の席であれば問題ないらしい。


 ケビンが郡司に目を移す。


「法曹界に女性が少ないのは事実です。が、依頼主には当然女性もおりましたし、法テラスでは何度も女性からの相談を受けました。特に問題はないかと」


 郡司は弁護士である。

 最近は増えているらしいが、法曹界における男女比は半々とはいかない。

 だが地方都市に事務所を構える弁護士の依頼人が、男性だけなわけがない。

 郡司も問題ないらしい。


 検証スレの動画担当を見るケビン。


「あー、地方だったけど、アナウンサーとかタレントは撮ってたからさ。キレイな女の人と仕事したってんなら、この中じゃ俺が一番経験あるんじゃないか」


 だから特に問題ない、と動画担当が頷く。

 検証スレの動画担当は、かつてプロであったのだ。

 動画を撮るカメラマンである以上、被写体は女性もいる。

 風景や動物やブツ撮りだけで喰っていける「動画のカメラマン」など数えるほどだろう。


 ケビンの視線は、ニコニコと笑うアリスをスルーして。ユージを見て、止まった。

 全員の目がユージに集まる。


「じょ、女性……キレイな女の人……」


「いやユージ、サクラさんとフツーにしゃべってたろ?」


「動画担当、兄妹とはまた違うだろう。ユージに限らず」


 ユージ、視線が泳ぎまくっている。

 みんなの不安は募るばかりである。


「これは……対策を立てた方がいいでしょうか。例えば夜のお店に行ってみたり」


 ポツリと漏らすケビン。


 男たちの視線が泳ぐ。ユージだけでなく、全員。


「だ、大丈夫ですよケビンさん。ビジネス、交渉の席なら」


「そ、そうそう、カメラごしならフツーに接してたし!」


「私は特に問題ありません」


「女性……キレイな女の人……」


「ユージ兄、どうしたの? みんなへんだよ?」


 ポカンとしたアリスに、そっと寄り添うコタロー。ありす、そこにふれちゃだめよ、とでも言いたいのか。


「どうしましょう。私、すごく不安になってきました」


 挙動不審なユージとトリッパーたちを見て、ケビンは天を仰ぐのだった。



 ともあれ。

 ユージたちは、無事にプルミエの街に着いた。

 三日後、領主夫妻との面会の予定である。


次話、5/20(土)18時投稿予定です!

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