99 何を作ってあげようかな?
【食い物の恨みは怖い】
たぶん、この言葉は……
……この国の人達のためにある言葉だと思う。
「エド、おはよう」
疲れた身体を癒してくれるのは、可愛いエギエディルス皇子だけである。毎朝の様に来てくれるこの皇子に、莉奈は心が癒されていた。
「おはよう、リナ」
もはや当然の様に、莉奈の客間で、紅茶を優雅に飲んでいても気にはならないから、不思議だ。習慣って恐ろしい。
「朝ご飯は……?」
「お前と食うから、食ってきてないよ」
「……そっか」
莉奈は、口元がフニャリと緩む。一緒に食べるから……なんて、可愛い過ぎる。朝から、萌え死にそうである。
「スープが旨いから、固いパンでもまだいいけど……昨日のあのパン食ったら、石ころパンなんて食えたもんじゃないよな」
朝食を食べながら、エギエディルス皇子が言う。
柔らかいパンを知った後だと、余計にこのパンは固く感じるから不思議だ。
この間、このパンを鳥にあげたら、啄んだ途端にくちばしに刺さって、コツコツ地面に当てて必死に取っていた。
えっ!? ナニをくれたんだ、このクソ人間が!!
……って、顔をしていたかはナゾだけど。
鳥もチラリとこちらを見ていた。あまりの固さに目を丸くしたのだろう。まぁ、後で取れたから良かったけど……鳥も災難である。
「あ、柔らかいパン、後1個残ってるから半分こしよっか」
莉奈は、魔法鞄から最後の1個を取り出して、半分をエギエディルス皇子に手渡した。
「……ありがとう!!」
と少し、はにかんだエギエディルス皇子は、本当に可愛い。
逆に、まだ1度も柔らかいパンに、触れることも出来ないでいるモニカの目は……人様に向けたらいけないと思う。
目で人を射ぬく……とは、この事なのだろうか?
「モニカ……。半分あげるよ」
莉奈は、自分の分を半分にしてソレをモニカに、もう半分をラナにあげた。まだ、リンゴの酵母はあるから作れるし、自分の分をあげたのだ。
「ありがとうございます!!」
と、モニカは遠慮する素振りも見せずに、パンを受け取った。
「……い、いいの? リナ」
一方ラナは、自分の分をくれる莉奈に、配慮を見せている。
昨日、旦那のリックから奪い取って食べたから、余裕があるのか……本心から莉奈に配慮を見せているのかは、さだかではないが。すでに自分の物だと、ホクホク顔のモニカとはエライ違いである。
「いいよ。まだ、作れるし……」
面倒くさいけど……面倒くさいけど!!
「ありがとうございます」
こういう時は、敬語に戻るのか……と、莉奈も苦笑いだ。
「……ん」
「…………え?」
「ん。俺の、半分食えよ」
エギエディルス皇子が、さっきあげたパンを半分にして莉奈に突き出した。照れ臭そうにそっぽを向きながら……。
「……ふふ……ありがとう、エド」
エギエディルス皇子の優しさが、胸に沁みる。
ちょ~可愛いんですけど……。
よし!! お菓子を作ってあげよう。
莉奈は、柔らかいパンを食べながら、エギエディルス皇子のために、なんのお菓子を作ってあげようか、考えるのであった。




