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聖女じゃなかったので、王宮でのんびりご飯を作ることにしました  作者: 神山 りお


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98 すばらしきかな夫婦愛



「んんっ、美味しい!……パンが……噛みきれるんだな。ベーコンが……チーズが……あぁ、美味しい!!」

 結局、食べさせたい人で上位だったのは、リック料理長だった。莉奈が焼いてきたパンに、さっそく噛みついている。

 ナゼ、リック料理長が1位だったのか? たぶんだけど、同僚に食べさせるぐらいなら、リックに……という流れかな、と予想してみた。

「ベーコン……うっまぁ~~!! パンが柔らかくてうっま~」

 次点は、副料理長のマテウスだった。理由はリックと同じだろう。リックよりは……と、思った1部の人がマテウスに投票した、そんなところかな……。ご満悦な顔をしている。



「なんで~~!! なんでみんな、私に投票してくれなかったの~~!!」

 アンナは、皆を見ながら泣き叫んだ。子供だったなら、駄々っ子みたいに地面に寝そべり、バタバタしていたに違いない。皆は、呆れてシラッとしていた。

「ロックはもちろん私に、入れてくれたんだよね!?」

 と、たまたま隣にいた仲間に、殴りかかる様な勢いで訊いた。どうして、もちろんなのか訊いてみたいところだ。

「……入れてねぇよ」

 そこは、ウソでも入れといたと、言っておけばいいのに。誰が誰に投票したなんて、1部の人間しか知らないのだから。

「なんでよ~~!! 私がこんなに食べたいのに~~!!」

 アンナは、さらに足を地面にダンダン叩いて暴れた。地団駄を本当に踏む人間が、ここにいたのだ。

 だが、"こんな" も "そんな" も "アンナ" も関係ない。だって皆が皆、アンナと同じ気持ちだ、暴れないだけで。



「リ~~ナ~~!! なんか作ってよ~!!」

 皆が無視をするので、莉奈に直接言って作ってもらおうと考えた様だ。良くも悪くも、それでチーズオムレツは食べられたから余計にだろう。味をしめる……まさにこの事だ。




 ーーーガツン!!




「いったぁ~~い!!」

「作らん! うるさい!」

 莉奈は、いつまでも駄々を捏ねるアンナの頭に、ゲンコツを1つお見舞した。1番年下のエギエディルス皇子は、食べられるからともかくとしても、アンナより年下の警備兵達が我慢しているのに、ワガママ過ぎるからだ。

「だって~~」

 涙目になりながらも、まだブツブツ言っている。

「休憩終わりでしょ? ほら、仕事仕事!!」

 と、わざとらしくアンナの顔の前で、パンパンと手を叩いてやる。こうでもしないと、収まらないだろうからだ。

「リナのばか~~!!」

 去り際にそんな事を言いながら、アンナは半べそをかき、あきらめて仲間と仕事に戻って行った。

「……ったく」

 莉奈は、ため息をついた。ナゼに欲望のまま、騒げるのか、莉奈には理解が出来ない。

 だが、同時に納得もした。ああいう子供がスーパーで騒いでいるのか……と。

 これから、スーパーで騒ぐ子供を "アンナ" と呼ぼう。戻れたらの話だが。



「…………」

 莉奈はやっと騒がしいのがいなくなり、席に戻ろうとした時。ある一角に目が止まった。

 それは先程まで、ニコニコと実に嬉しそうに食べていたリック料理長が、悲壮感を漂わせ真っ白になっていたからだ。あんなに嬉しそうにしていたのに……どうしたのだろう?


 チラリとその隣を見れば、対照的に奥さんのラナ女官長がホクホク顔で、ベーコンチーズパンにかぶり付いていた。



 ……ラナさんや……。

 リックさんのを、奪ったんかい!!



 夫婦の力関係を目の当たりにした莉奈が、脱力感を感じていると

「……そっか、旦那か……彼氏がいれば」

 耳元に、なにやら不穏な空気を纏ったモニカの、呟く声が聞こえた。

「…………」



 莉奈は、そんなモニカを見てゾッとした。

 この人……食べ物を奪う前提で、恋人を作るつもりでいる。

 恐ろしいオンナだ…………。



 モニカの未来の旦那に、ナムアミダブツ…………。



 莉奈は、心の中でお経を唱えていた。



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