96 食べさせたい人
「あっ! そうだ、エド。コレ"最強"に美味しいパンにしてあげよっか?」
焼きたてだから、バターだけでも勿論美味しいが、他に何かトッピングしたら、もっと美味しくなる。そして、今日はそのトッピング最強の食材がある。なら、やらない手はない。
「……最強……」
エギエディルス皇子は、パンを食べる手を止め、返事の代わりに、喉をゴクリと鳴らした。
「「「……最強……」」」
それを見ていた、皆も一斉に莉奈を見て呟く。
ーーーゴクッ。
生唾を飲む音がした。
「リ~ナ~!! 最強パン食べた~~い!」
堪えきれなかったアンナが、皆の代表の様に叫んだ。ただでさえ、そのふわふわパンを食べたいのに"最強"だ、食べたいに決まっている。
「…………」
子供の様に叫んだアンナに苦笑いした莉奈。よくよく見れば、他の皆も、莉奈がどう出るか待っている状態だ。
「食べたい人~~」
と莉奈が、挙手を求めれば、もれなく全員勢いよく手を上げた。
まぁ、そうですよね? なら、と莉奈は面白い事を考えた。
「それでは、これより "最強パン" を懸けて、"食べさせたい人" グランプリを行いたいと思います!!」
莉奈は、ガタリと立ち上がり、皆に聞こえる様に声を張り上げた。
「「「食べさせたい人、グランプリ~~!?」」」
全員が、なんだそれ……と声を上げた。
食べたい人ではなく、食べさせたい人、なのだから。
莉奈は、数分後、切符程度の大きさの紙を大量に、後は靴が入るくらいの箱を用意して貰って来た。そして、皆に聞こえる様に説明をする。
「では、皆さんいいですか? その配った紙に、"食べたい人" ではなく "食べさせたい人" の名前を書いて、この箱に見えない様に投函して下さい」
「……た、食べさせたい人~~!?」
「え~~!?」
そう、食べたい人なら勿論自分を書くに決まっている。それだと、絶対に決まらない。だから、ここはあえての、食べさせたい人を書いて貰う。
人望が物を云うグランプリなのだ。
「上に相手の名前を、下に自分の名前を書いて、半分にたたんでなるべく、見えない様にこの箱に入れて下さい。自分の名前を書いた時点で失格になるからね~」
と、一応注意はしておく。後は……まぁ、信用すると云うことで厳密にはしない。お遊びだしね。
「……た、食べさせたい人かよ……」
「お前、俺の名前を書いてくれよ。そうしたらお前の名前を書くからさ」
「誰か~! 私の名前を書いて~!!」
皆は、互いを見ながら、あるいは牽制しながら、紙に各々記入し箱に入れていった。
さて……誰が食べられるのやら……。
莉奈は、そんな必死過ぎる皆を面白そうに見ていた。




