95 パンにはやっぱりバターかな
「リナ~~っ!! それな~に?」
食堂の隅で、エギエディルス皇子と二人でのんびり、焼きたてのパンを食べようとしたら、モニカ並に面倒くさいのが来た。
「パンだよ。エド、初めはバターつけて食べ……」
「何その、パ~~ン! 初めて見た。美味しそう!」
空気も何も読まないアンナが、叫ぶ様に言った。仮にも、皇子が目の前にいるのに、お構いなしである。
せっかく食べようとしていた、エギエディルス皇子も手を止めた。
「アンナ、うるさい。エドの食事の邪魔しないの」
莉奈は、アンナをシッシッと手で追い払った。
皇子の邪魔をするとは、スゴいな……。
「ぶーーっ」
アンナはブーイングをしながら、チラチラと見つつ他の席に移った。
「すげぇ……注目なんだけど……」
小窓からは料理長達が、食堂には警備兵達が……。
さすがの、エギエディルス皇子も、食べづらいらしい。
ーーーパリッ。もしゃもしゃ。
「あ~~っ。焼きたてパン、うっま」
莉奈は、そんな視線をお構いなしに、バターを塗って焼きたてパンを頬張った。
うん、焼きたて最高!!
ほのかにリンゴの香りがするパンに、溶けたバターが染みていく。外側はカリッと、中はふわっと、溶けたバターの部分がまた美味しい。久々に作ったけど上出来だ。
「お前の、その強靭なメンタル……マジで尊敬するよ」
エギエディルス皇子は、ため息まじりに言った。莉奈を見ていると、視線を気にしている自分がバカらしくなってくる。
莉奈が半分に分けてくれたパンを、ゆっくりと手でちぎった。
「…………っ」
その柔らかさに、まず驚き。次に香ばしい香りに口が綻ぶ。
口に入れると、いよいよパンの柔らかさに、目を見開いた。
「パンが……柔らかい……サクサクふわふわ……何これ」
初めての柔らかい、ふかふかパンに感動しつつ、エギエディルス皇子はゆっくりと、大事に大事に咀嚼する。
「……美味しい?」
「……お前が "パン" 美味しいかって、俺に訊いた訳が分かった」
大きく頷くエギエディルス皇子。
以前に莉奈が、そんな事を訊いてきたなと、思い出していた。あの時は、おかしな事を訊くな……と思った。
だけど、今ならわかる。何故、自分にそんな問いかけをしてきたのか。
「俺は今まで、石を食べていたんだな……」
感慨深そうに、エギエディルス皇子はボソリと言った。
今まで食べてきたパンとは、まるで違っていた。香り、食感、そして味、どれをとっても、このパンに勝るものがない。
莉奈とエギエディルス皇子を、固唾を飲んで見ていた皆は、パンの香ばしい匂いと、パンの噛みきれるパリパリとした心地いい音に、ヨダレを垂らしていた。




