91 各々が楽しいっていいよね?
造りたての浴槽に、ドバトバと溜まっていくお湯を見て莉奈は、実に満足気に微笑む。
これで、今夜は思いっきりお風呂を堪能できる。ニヤニヤが止まらない。
「お前……マジで欲しかったんだな」
そんな嬉しそうに笑う莉奈に、エギエディルス皇子は苦笑いしていた。
「エドも、自分の所に造ったら? 疲れはとれるし、グッスリ寝れるよ?」
「……そうだな。難しくないし、造ってみるかな」
そこまで言うなら、造ってみようかなと思う。
「そういえば、エドさ」
溜まっていくお湯に満足しながら、浴室を後にする。
「んぁ?」
「学校とか行かないの……?」
疑問を口にした。異世界にも学校はあるだろうし、皇子が通うような所もあるのでは、と思う。まぁ、なんだかんだと、側にいてくれるのは楽しいし、構わないのだが、皇子としてやる事があるのでは? と心配になってくる。
「あー。まだ、今は休暇中っていうか。学校で教わる事があんまない」
「ふ~~ん」
教わる事がない。すなわち優秀って事だ。なら、つまらないのかもしれない。
だけど、人間関係もそういう所で育むものだし、なんともいえないが。
上の兄達が何も言わないのなら、他人の自分が口出しする事ではないので口を噤む。
「それに、お前といた方が面白いからな」
「あ~そう」
最後の一言、余計だよね?
◇◇◇
「あっ! リナ、帰ってきた」
王宮の厨房に戻ると、なんだかざわついていた。オーブンの前に人だかりが出来ている。
「どしたの?」
フキンがかけてあるから見えないだろうけど、気になる様だ。
「じゃがいも茹で終わったよ」
人だかりに苦笑しつつ訊けば、マテウスが答えた。じゃがいもを茹で終わり、気になった人達が角度を変えながら、オーブンのガラス窓から見ていたらしい。
「そう? なら、それ全部、ザルで濾して」
「……全部……」
あまりの作業量に、驚いている様である。今までが、そのまま切る焼く煮る……という簡単作業が多かっただけに、大変なのかもしれない。
「各々の部署? に等分してザルで濾してね」
"軍部" "魔法省" "王宮" の1部署2個、合計6個の大きな寸胴がある。それに分けてじゃがいもを、入れていかなければいけない。まぁ、余程でない限りは、適当に入れても味に問題はない。とにかく、キレイに濾してもらわなければ、食感は悪いけど。
「なんか、やる事がいっぱいあるな」
料理人がボソリと言いつつ、なんだか楽しそうな顔をしていた。料理人冥利に尽きるのかもしれない。
よく見れば皆も、ブツブツは言ってはいるが、表情は生き生きとして楽しそうだ。美味しい物が出来る、しらない事を学ぶ、それが今は楽しいのかもしれない。




