90 念願の浴槽!!
「んじゃ、ちょっくら浴槽作ってもらいに行ってくる」
どうせ、パン生地の発酵には時間が掛かるし。少し過ぎたところで問題ない。
「ちょっくら……って。オバサン通り越して、オジサンだから」
ラナが呆れていた。
「なぁ、じゃがいも皮剥いたけど、どうすんだ?」
料理人の1人が、剥いたじゃがいもを見せながら訊いてきた。
「ん~。 全部茹でといて」
ポテトマッシャー的な物があれば、コンソメに入れて茹でた方が早いけど、見た感じはなかった。なら、後で濾すから別に茹でといてもらった方が、楽である。
「「「了解~~!」」」
「あ、パン生地は膨らんでくるけど、そのままにしといて。オーブン開けないでね?」
莉奈は一応注意しておく。だって、開けたら中の温度が下がって、せっかくの発酵が台無しだ。
「「「わかった~~」」」
皆の返事を聞いて莉奈は、浴槽のために足早に離宮に戻る事にした。
◇◇◇
「どの辺りに、作ればいいんだ?」
離宮のお風呂場についたエギエディルス皇子は、造る場所を訊く。位置を決めない事には、どうにもならない。
「そだな……」
莉奈は、どこにしようか考える。真ん中はありえない、落ち着かないからだ。壁に沿った端にしたい。
「あっ、あそこのお湯が出てる辺りに、6畳くらいの大きさでお願い出来る?」
奥の正面、真ん中に、壁から源泉が流れっぱなしになっている所がある。本来そこで湯を汲み、身体にかけたりもするのだろうが、もう1ヶ所流れ出てる所があるし、1つくらい潰しても問題はないだろう。
「わかった。お前は少し離れてろ」
と、エギエディルス皇子は言うと、その場所手前に立つ。そして腕を伸ばすと人指し指を、下から上にクイッと軽く動かした。
ーーーズズン。
軽い地響きと、ほぼ同時に言われた定位置に、硬い土が盛り上がった。
高さは60センチ程の、硬い土で出来た半円の石風呂だ。
石風呂といっても、キレイに成形されているから、大理石みたいに光沢がある。そして、半円にしてくれたから、余計に高級感がある。
「エド……天才……」
莉奈は、その完成度に驚き、感服した。
造れとは言ったが、こんなにも完璧な仕上がりに、驚きと喜びを隠しきれない。エギエディルス皇子の感性と、魔法の力に、莉奈はため息さえもれる。
「こんなんで、いいのかよ?」
莉奈に褒められ、少し頬を紅らめつつも、初めて造る浴槽に不思議そうな顔をする。
「こんなも、そんなも、ないよ。エド……天才。超最高!!」
莉奈は、もう1度言うと、エギエディルス皇子を自分に引き寄せ、頭を優しく撫でた。褒めたくて仕方がない。
あんな大雑把な説明で、ホイッと簡単に、しかも想像以上の完成度だ。これを褒めなくて何を褒めるというのか。
「……そ……そう……かよ!」
照れ隠しに、横を向いたエギエディルス皇子。
莉奈に、そこまで褒められるとも、喜んでもらえるとも思わなかった様だ。照れた表情も可愛らしかった。
「……そういえば、お前、魔法使えんだから、自分で造れば良かっただろ?」
莉奈が使える事を、思い出したらしい。
「勝手に造るのも、アレだし……私、これくらいのしか造れない」
と莉奈は、エギエディルス皇子がやったのと同じに、土魔法で床を持ち上げてみた。
ーーーズッ。
わずかな震動と共に、数センチ持ち上がった。
「…………」
「…………」
「……宝の持ち腐れってヤツか……」
エギエディルス皇子は、それを見ると複雑そうな表情をして言った。せっかく4属性も使えるのに、これだからだろう。
……莉奈は少しやさぐれた。




