88 浴槽くれ
「あれ? エド、お昼食べたの?」
当然の様にそこにいた、エギエディルス皇子に驚く。
「食べたよ。すっげぇ、旨かった」
と、ニコニコするエギエディルス皇子には、莉奈もついつい目尻が下がる。
「それ、何やってんだ?」
オーブンに入っている、パン生地をガラス越しに見て訊いてきた。やる事、なす事が気になるらしい。
「ん? パン作ってるの」
「パン?」
「そう、パン」
まだ、発酵段階で全然出来るのは先だけど。
「あっ! 例の柔らかいパンか!?」
ちゃんと覚えていたらしい。
「そうだよ。まだ、発酵段階だから、時間が掛かるけど」
「発酵……。リンゴの発酵と、同じなのか?」
エギエディルス皇子は、難しい事を訊いてきた。
「……う~~ん? 発酵は発酵でも、違うかな?」
まったく違う訳ではないけど、厳密に言うと違う気がする。
「ふ~ん?」
エギエディルス皇子は、オーブンの中を見ながら、不思議そうに言った。訊くだけ無駄だと、思った様だった。
「あぁ、そうそう、フェル兄からの伝言」
何かを思い出したのか、オーブンから目を離し言う。
「へ? 国王様から伝言?」
国王からの伝言なんて、イヤな予感しかしない。
「足りない」
「…………は?」
「あれだけじゃ、足りないってさ」
なんだ、イヤな話ではなかったか。ってか、足りないって。
「あ~~そう」
としか言えない。
実際、足りないと言うが、自分が作ったご飯と、リック達が作ったご飯を持って行ったハズだから、足りないハズはないのだが。
それだけ、自分が作ったご飯が美味しかった、という事なのかな?
「……それと、旨い飯の礼に、なんか褒美をくれるってさ」
「マジか!!」
国王様から、ご褒美を貰えるなんて、スゴいラッキーだ。
しかも、自分が好き勝手にやってご褒美なんて、良い事ずくめではないか。
「リナ! スゴい事じゃないか!!」
リックが自分の事の様に喜んでくれた。
「何をくれるのかしら?」
と、モニカ。だが、皆もそう思うのか、にわかにざわめく。
「なんか、欲しい物あるか?」
エギエディルス皇子が訊く。
「なんでもいいの?」
限度を知らなければ、頼み様がない。
「飯の分くらいな?」
「う~~ん」
"飯の分" つまりは、ほどほど。だが、莉奈の欲しい物は、ほどほどではない。
「とりあえず、なんかあるなら、何が欲しいか言ってみろよ。無理なら無理って言うし」
悩んではいるが、何かを欲しそうにしている感じの莉奈に言った。言うだけはタダだ。
「お風呂に、浴槽が欲しい」
莉奈は、無理かな? と、思いながら言った。あの程度のご飯に対してのご褒美なら、過分かもしれない。
だけど、浴槽に浸かりたい。いい加減、肉まん風呂はイヤだ。
「浴槽……? なんだよソレ」
浴槽を知らないのか、眉宇を寄せたエギエディルス皇子。
まぁ、知らないから、ないのだろうけど。
「身体をお湯に浸からせる器?」
なんて、説明すればいいのか、さっぱりわからない。
「身体をお湯に……? それって必要か?」
ない文化で育っているためか、必要性を見出だせないらしい。
「超絶必要です!!」
莉奈は、強く言った。浸かってないと、お風呂に入った気がしない。ゆっくり温まりたい。
脱! 肉まん!!




