85 もう忘れるとこだったよ
「さぁ、みんな~~。じゃがいもの皮を剥いて下さい」
莉奈は、一旦の休憩で弛んだ気を入れ直す様に、声を上げる。
昼食も終わり、夕食の作業も兼ねて準備をする時間だ。敗けたチームも、若干2名程、クレープを食べれたので、ご満悦だった。
「何個剥くの~~?」
後ろの方から声が上がった。
「ん~~? とりあえず、300いってみよう!!」
足りなければ後から足せるし、こんな量を作った事がないので、想像もつかない。
「「は~~~い」」
美味しい物が出来て、それを1番に食べられる特権があると思えば、まったく苦ではない様だ。
「……リナは……何をしてるの?」
皆が一斉に、じゃがいもを剥くなか、リナは1人で何か違う事をし始めたからだ。
「そういうモニカは、サボり?」
莉奈付きの侍女とはいえ、莉奈がここで作業をしている以上、やる事は……いや、やれる事がない。他の侍女達は、クレープを食べると満足し、ホクホクとして自室に戻って行った。
モニカは戻らず、見ているだけ。サボりだろう。
「サ、サボりじゃないわよ……」
尻窄みになりつつ、モジモジ言った。
莉奈の部屋は、掃除し終わっている。だが、ここは王宮だ、探せばまだまだ、他にもやる事が沢山あるのだろう。
だが、莉奈が何をやるのか、気になって仕方がないのか、ラナ女官長と一緒に残っている。
「ラナもサボり?」
ラナもやる事はないのは同じだ。
「サボり……じゃないわよ?」
と、同じくモジモジしている。
うん、サボりだ。
どう考えてもサボりだ。
「…………」
だから、白い目で見てあげた。
皆がバタバタと夕食の準備に追われている中、二人は莉奈のする事だけを興味深そうに見ているだけなのだ。
「「……だ……」」
「……だ?」
「「だって~~気になるんだもの~~。」」
莉奈の白い目に堪えられなかったのか、可愛らしく、バカ正直に二人は言った。それには、作業をしていた皆も苦笑いしていた。気持ちがわかるからだ。
「…………はぁ」
莉奈は呆れてため息をついた。なんだ、その理由。
「まぁ、別にいてもいいけど……」
「……けど?」
「誰か、ご飯を食べに来たら、給仕係してよね?」
時間差で警備、警護兵は来るのだから、せめてそのくらいは料理人の代わりにやって貰いたい。
「「は~~~い!」」
実にいい返事である。
「で? 何を作るの?」
モニカが改めて訊いてきた。
「とりあえず、ククベリーを少しジャムにするのと……」
「するのと……?」
「パンを作ります」
と、莉奈は言った。そう、やっとだ。やっと柔らかいパンが作れる。なんだかんだと作る暇がなかった。
いや、普通は仕事がない莉奈に、暇がないのはおかしいのだが、なんか料理を教える事になったし、そんな事に時間を費やしている暇がなかったのだ。




