84 言い方
莉奈は、その量に呆気にとられつつ、とりあえず魔法鞄に次々と入れた。ただ入れるだけなのに一苦労である。
「あ~~。どっこらせ」
最後の1袋を入れると、莉奈はトントンと腰を叩く。回数にして24回。腰にくる。
「リナ……オバチャンじゃないんだから、その掛け声はやめなさいよ」
ラナが呆れた様に言った。腰まで叩いていると、若い娘がオバチャンに見えてくる。リック達もクスクスと笑っていた。
「よっ……」
「よっこらせも、よっこいしょもないの!!」
ラナが言葉をきった。掛け声そのものの話であって、何を掛け声にすればいいと、云う話ではない。
「……ど……」
「どっこいしょもないの!!」
先を読まれた挙げ句……怒られた。
「これが……クレープ」
ラナ達は、約束のクレープを出してあげると、甘い匂いに惚けていた。どの世界もとくに女子は、甘い物には目がないようだ。
「バターとククベリーのジャムが中に塗ってあるから、手で持って食べられるよ」
一応ナイフとフォークは出してあるけど、クレープといったら手で持って食べるイメージが強い。
紙が安ければ巻いてあげれたけど、そこまで上品にしなくてもいいかな、とそのままだ。小さめのサイズにしてあるし、食べにくくはないだろう。
「……ん。美味しい」
手では躊躇するのか、悩んでいるラナ達の横で、莉奈は手で持って食べた。その様子を見ていた、1人が真似をして手で食べ始めると、躊躇しながらも1人、また1人と手づかみで食べていた。
「お……美味しい!」
「なにこれ。皮? 周りの生地が柔らかくて、すごい美味しい」
「中は、何が入ってるの? 甘くて酸っぱくて……あぁ」
「これ、ククベリーじゃない!? 鳥のエサが、美味しい」
ラナ達は、それぞれの感想を言いながら、各々、至福の時を堪能していた。
……鳥のエサが、美味しい……って。
……その言い方。
莉奈は、皆の話を聞きながら笑っていた。




