78 誰が勝つのかな?
クレープ生地は簡単だ。基本的に薄力粉、卵、牛乳、砂糖、塩、油を混ぜて出来る。その中で、薄力粉を強力粉に変えたり、卵を抜いたりで、モチモチにしたり、カリカリにしたりで特色を出したりも出来る。
香りを楽しみたいのなら、生地に少しラム酒を入れると、また雰囲気が違って面白い。まぁ好みだろう。莉奈は、一般的なクレープにする事にした。
「……あっ、エド~」
「なんだよ?」
食堂と繋がっている小窓から、エギエディルス皇子がひょこっと顔を出した。
仔犬みたいで、超可愛い~~~!!
莉奈は萌えを必死に堪えた。
「クレープにククベリーのジャムか、リンゴのコンポート、どっちがいい?」
たまにデザートに出てくる、少し酸っぱめのリンゴがある。紅玉と一緒でジャムにしてしまえば、美味しいだろうと思ったのだ。
「えっ!?」
エギエディルス皇子の瞳が、キラキラと輝いた。ククベリージャムは知っているが、リンゴのコンポートは初めてだからだ。
「コンポートってなんだ?」
「簡単に云うと、甘さ控えめのジャム」
細かく云うと、ジャムより果実を崩さない、形をそのままで甘さ控えめに煮たもの。
「……ど……」
「……ど?」
「どっちもは……ダメか?」
「……アハハ……いいよ? 両方ね?」
欲張りだな……と思いつつ莉奈は笑った。まぁ、初めての物は気になるか。ククベリーのジャムはまだ残っているし、クレープ生地を冷蔵庫で冷やしている間に、リンゴのコンポートを作る事にした。
「…………うぉぉ~~~!!」
たまねぎスライスも終盤なのか、変な気合いを入れる声がする。
見た感じだが、リック料理長率いるベテランチームがわずかに一歩リードしている。ちなみに2位は、マテウス副料理長率いる中堅チームだ。
「……うっわ……みんなスゴい顔だし……」
莉奈がさっき換気するまで、たまねぎ臭がそのままだった事もあり、目は赤いし酷い顔だ。
「リックさん!! リックさん!! ファイトー!!」
「マテウスさん!! 頑張って~!!」
順番を終えた人達は、応援に回っている。最後は、リック対マテウスになった様だ。
「「「よっしゃ~~~!!」」」
マテウス率いる中堅チームが、最後の最後で追い抜き、僅差で勝ったみたいだ。たまねぎ半分も差がない。肝心のたまねぎスライスは薄くキレイに出来ていた。もう少し雑になるかな、と思っていた自分が恥ずかしい。さすがはプロでした。
「優勝チームは……マテウスチーム!!」
莉奈が、そういうと歓声に包まれていた。皆が楽しそうで、見ていた莉奈も嬉しかった。普段は淡々と仕事をするだけだから、たまには競うのも面白いよね。
まぁ、敗けたチームはもれなく、地獄の罰ゲームが待ってるんですけど。




