70 戦わずして終わる
ものすごく、ものすご~く御満悦のシュゼル皇子が帰り、エギエディルス皇子、執事長、魔法省長官がそれに続いて帰ると、厨房、食堂にはやっと平穏が訪れた。
だが、王達が去ろうと、結局食堂の終わる時間まで、戦場だった。初めて見るスープにからあげ、興奮するなというのが無理な訳で、莉奈も対応に追われヘトヘトだった。やっと一段落つき皆と夕食を食べていた。
……すごく、痩せた気がする。
〈状態〉
いたって健康……
……だが、まだぽっちゃり。
…………気のせいだった。
「……リナ? 手なんか見て、なにしてるの?」
自分を "鑑定" してるなんて思ってないのだろう、ラナ女官長が訊いてきた。彼女もまた、侍女モニカと一緒に、配膳など手伝いをしてくれていたのだ。
「世知辛い世の中だな……と」
「……何を言ってるのよ」
"鑑定" 内容を知らないラナは、変な事を言う莉奈に呆れていた。
「しかし、リナはスゴかったな」
リック料理長が、先程のやり取りを思い出したのか、しみじみ言った。
「マジ! それな!!」
若い料理人達が話にのった。
「あの国王陛下に、すげぇよリナ!!」
「俺、小便チビりそうだったし!!」
「ゲロ吐きそうだったし!!」
「殺されるかと、思ったわ」
「「なぁ!?」」
よほど怖かったのだろう。思い出してブルリと震えた者もいる。
「いや、さすがに……いきなりバッサリはないでしょ」
皆も見ている事だし……と莉奈。
「「「……ある!!!」」」
全員、即答。
……あるのかよ……。
莉奈は、自身の無事を素直に喜んだ。
「ねぇ~。リナ」
なんか妙に、甘えた声を出すモニカには、嫌な予感しかしない。
「アイスクリームはあげないよ?」
だから、先手をうってみた。
「…………まだ……何も言ってないのに」
「じゃあ、なに?」
「……ア、アイスクリーム食べてみたい……なって……」
と、モジモジ。
「…………」
やっぱりかよ。先手をうった意味がない。
「はい!! あたしも食べたい!!」
「俺も、俺も!!」
モニカが言えば、当然こうなる訳で、莉奈はため息をついた。
「そんな、みんなに一つ質問です」
「「「……なに? なに?」」」
「ある日、自分が作ったアイスクリームを、誰かに無断で食べられたらどうする?」
「蹴りコロス!!」
「殴りコロス!!」
「縛りコロス!!」
……コロス一択かよ!!
キミ達……恐ろしいな……。
「それを今、しようとしているのだけど? 大丈夫?」
なんなら、相手はこの国の宰相様だ。甘味に目覚めたあの方を相手に戦えるのかな?
「……え? どういうこと?」
ここまで言ってもわからないのか、モニカが訊いてきた。たぶん、アイスクリームで頭がいっぱいなのかもしれない。
「これを作ったのは誰ですか?」
と、莉奈はアイスクリームの入った魔法鞄をポンポン叩く。
「あ゛~~~~~っ」
それでやっとわかったのか、モニカはテーブルに突っ伏した。わからなかった数人も、同じ様にガックリと項垂れた。
そして、戦わずして……シュゼル皇子は勝った。




