69 まるで宝石、ククベリージャム
「リナ! リナ! これすごいな!!」
見たことのないデザートに、エギエディルス皇子は興奮していた。
「早く食べないと溶けちゃうよ?」
我に返り、今度はエギエディルス皇子の笑顔に癒される。
「わかった!!」
可愛い返事をして、アイスクリームを食べ始めた。
「ん~! 冷たくて甘くて美味しい!!」
先に、舌鼓を打ったのはシュゼル皇子だった。
目を瞑り溶けていくアイスクリームを堪能している。
「この黒いのは、ククベリー?」
と、タールが訊いてきた。やはり赤いのが印象的なのかおずおずと口にしていた。
「そうですよ? その黒いソースがククベリーで作ったジャムです」
甘いアイスクリームには、甘酸っぱいソースはよく合う。
ククベリーはもってこいの果実だ。
「……これが、ククベリー。酸っぱいイメージしかなかった」
どうやらこの国の人達は、赤いのしか食べた事がない様だ。
「ククベリーのジャムって言ってましたけど "ジャム" ってなんですか?」
シュゼル皇子が気になったのか訊いてきた。
「砂糖煮……だよな?」
と、エギエディルス皇子が代わりに答えた。覚えていたみたいだ。
「砂糖煮……ですか」
シュゼル皇子は、ジャムだけをスプーンですくい口に入れた。
「ん、このジャム……甘酸っぱくて美味しいですね」
「紅茶に入れても美味しいですよ?」
「紅茶に……」
入れたところを想像しているのか、ジャムをまた一口。
「御出ししましょうか? ククベリーのフレーバーティー」
試したい様子のシュゼル皇子に、莉奈はくすりと笑う。
実は、ジャムを作るついでに、ククベリーのフレーバーティーを作っていたのだ。
「……ぜひ!!」
シュゼル皇子は、目をキラキラさせた。
莉奈は頷くと、魔法鞄から4つのティーカップ、そしてククベリーを入れて蒸らしたフレーバーティーの入ったティーポットを取り出した。
「……かわいいですね」
と、ティーポットを見たタールがほぅとため息をついた。
透明のティーポットに、黒々としたククベリーがぷかぷかと浮いていて、なんか妙に可愛く見えたみたいだ。
「砂糖は入っていないので、お好みでどうぞ」
と、フレーバーティーを皆に注ぎ、瓶に入ったジャムをコトリと置いた。
「これが、フレーバーティー……香りがいいですね」
フレーバーティーを一口飲んだシュゼル皇子は、匂いや味を優雅に堪能していた。その姿が実に様になる。
「香りで云うなら、リンゴの方がいいで……すけ……ど……」
シュゼル皇子が、さらに興味深く見つめてくるので言葉が紡げない。
超絶美形だからドキリと……ってのもあるけど、瞳が作って欲しいなと訴えていたからだ。
「…………」
「…………」
じっと見つめ無言で訴えてくる。
これってアレだ……。
「夕食時に出せる様に、作っておきましょうか?」
と、言わせるパターンだ。
「えぇ。ぜひに……」
莉奈の返答に、満面の笑みである。
莉奈は、無言の圧力に屈してしまっていた。
シュゼル皇子の笑顔……圧がスゴいんですけど?




