68 1人2ヶです
夕食前に執筆していると、晩御飯とは別に何かを口にしたくなります。
揚げ物……揚げ物が食べたい。
鶏肉を次から次へと、リック達と揚げていた。
揚げ物の匂いが、厨房、食堂に広がる。
入って来る警備兵、警護兵は、まずは食堂の旨そうな匂いに顔がニヤケ、次に先に食べている同僚の料理にわくわくし、そしてフェリクス王達に気づき、ガクぶるすると云う行動を皆がしていた。
リック達は、先日、莉奈が作った鶏のコンソメスープをすでにマスターしていて、野菜スープが出来ていた。作業的に簡単だとはいえ、1度見たあのスープを、完璧に作っていたのには驚きだ。
たぶん、徹夜に近い作業をしていたに違いない。莉奈はリック達に頭が下がる思いだった。
「ねぇねぇ、リ~ナ~?」
昼食を食べに来ていた警備兵のアンナが、食堂の小窓から顔を出した。
「なにかな?アンナ」
「この、からあげ? すっごい美味しいんだけど!!」
「そりゃ、よかったね」
「おかわり!!」
アンナはからあげの のっていた小皿を莉奈に渡す。
1人1枚分もない鶏肉は、なるべく多くの人に食べて貰える様に……と6等分され、からあげは1人2ヶずつとなっていた。
「……ないよ」
「なんで~!! そこにあるじゃん!!」
揚げあがったからあげが、バットにおいてあるのが見えたらしく指をさす。だが、これはおかわりする人の物ではなく、後から休憩に入る人のだ。
「1人2ヶずつだよ」
「えーーーーーーーーっ!?」
うるさいくらいの長いブーイング。
「それともアンナ、キミは1人ではないのかな?」
「…………え?」
「1頭とか1匹とか?なんだったら1ガロス?」
「…………ガロ……ス?」
ガロスってナンダ?と固まる。
「人間様1人に付き2ヶとなっています。人間でない方は申請書を持って来て下さい」
「…………っ!?」
……申請書!?
そこまで、言われたアンナは反論する気も削げ、とぼとぼと戻っていった。ちなみにこのやりとり、5回目だった。
からあげは想像以上に大反響で、おかわり続出。でも、莉奈はぶれず全て追い返していた。
フェリクス王に、反論出来る莉奈に勝てる人など、警備、警護兵にいる訳もなく皆、撃沈だ。
「リ~ナ~。食べ終わりましたよ~」
すっかり忘れていたが、食堂の端には王族様御一行がいた。
騒がしくしていた皆も、シュゼル皇子の声にハッとし、ピタリと静かになった。
「はーい!! 少々お待ち下さい」
莉奈は、リック達にからあげを任せ、シュゼル皇子達の食後のデザートを準備していたのだ。
「アイスクリームのククベリーがけにございます」
甘い物ギライのフェリクス王以外の前に、ククベリーで作ったジャムをかけククベリーを数粒ちらした、アイスクリームをコトリと出す。一応、飾りは一流レストラン風に華やかに仕上げてある。
「「「「………………」」」」
シュゼル皇子達は、その見たことのない華やかなデザートに言葉を失っていた。
「……早く食べないと溶けますよ?」
そんな雰囲気の中、莉奈は至って冷静だった。
しかし、シュゼル皇子達が、あまりにも感動している雰囲気を察した警備兵達は、首を伸ばしたりゆっくり近づいたりして、一目見ようと奮闘していた。アイスクリームとはナンダ? と気になるのだろう。
「……フェリクス陛下は、甘い物はお好きではないらしいので "酒の肴" 用にからあげとカリカリチーズを、御用意させて頂きました」
と、昼食とは別にからあげとカリカリチーズを出した。時間があったら、もっと違う物も用意出来たのだが、あっちこっちと見ながらだったので、こんな物しか用意が出来なかった。
「…………礼を言う、リナ」
フェリクス王は、至極満足なのか口端を弛めると、その2品を魔法鞄に入れて、ビクビクと敬礼する警備、警護兵を横目に食堂から出て行った。
長身だから、歩いているだけでもカッコいいな……。
莉奈は、スラリとしたフェリクス王の後ろ姿に見惚れていた。




