676 竜を動かすには王族を、王族を動かすには……
「現実にいくら蓋をしたところで、何も変わらねぇだろ」
確かにその通りだ。見せかけの言葉を言われたところで、現状に変化はない。
だが、その言葉のおかげで、アーリャの頭は一気に引き締まる。
「どこまで効くか分からないが、試す価値はあるな。重曹を用意するか」
モルテグルにも重曹はあるが、たまに入浴剤として風呂に入れたり、掃除やトイレの臭い消しとして使用している程度で、そんなに量は多くない。
お触れを出して、町にある物をかき集めれば、量が集まるだろうが、足りるかどうかまでは分からない。
重曹がキラーアントに効くとしても、どんな獲物にまぶせば食いつきがイイのか、試す必要がありそうだ。
……となれば、やはり量が必要だ。
ありがたいことに、このウクスナ公国にも採れる場所はいくつかある。
とはいえ、1番近い場所でもこのモルテグルからは、魔馬で往復10日くらい掛かるのだ。それでは、フェリクス王達の言葉通り、間に合うか分からない。
ならば、考えている時間も惜しい。善は急げだ。
今から魔馬で行くかと、アーリャが護衛2人と思案していれば、隣で手を叩く音がした。
「そうよ! 竜がいるじゃない!! 竜で取りに行けばイイのよ」
アーシェスである。
本来なら竜やフェリクス王達に、討伐そのものを頼みたいところ。
だが、さすがのアーシェスもそれは……と考え、それ以外の事ならばと提案した。
なにせ、いくら足が速い魔馬でも、往復となればかなりの時間を要する。しかし、空を飛ぶ竜ならひとっ飛びだ。数時間もあれば、採取して帰って来られるだろう。手助けくらいなら、フェリクス王達も動くのでは? とチラッと見た。
「……」
だが、シラケた目線だけが、アーシェスに返っていた。
妙案だと喜び騒いでいるのはアーシェスだけで、アーリャですら竜の存在に飛びつこうとしていなかった。
(まぁ、現状、竜はここに一頭もいないのだけど)
「何故、アーリャまで他人事みたいな顔をしてるのよ?」
当事者である妹までもが、アーシェスの言葉に乗って来なかった。
アーシェスは思わず眉根を寄せる。
「確かに竜に頼めば速いが……頼るのはお門違いも甚だしいだろう?」
普通なら、これ幸いと頼りたくなるもの。しかし、変に真面目なアーリャは、肩を落としてため息を吐いていた。
だが、アーシェスは引かない。
「何を言っているのよ!! 人命が懸っているんだから、使えるモノは何でも使いなさいよ!? そのためにフェリクスは来たんだから!!」
人の命が懸っているのは確かだが、フェリクス王は別にそのために来た訳ではない。ただの視察だ。
アーシェスの言い分は理解出来るが、一方的で都合が良過ぎる。
この国を助けたところで、フェリクス王達には大した旨味もなさそうだ。
だが、確かに徒歩でなくとも魔馬と竜では、天と地ほどの差がある。
しかも、魔法鞄もあるし、1度ですべてが事足りるとなれば、頼りたくなるのも頷ける。
何でもかんでもフェリクス王達に任せるのはどうかと思うが、何日も掛かるところが数時間ともなれば、そう言いたくもなるだろう。
「さて……モルテグルの現状も分かったし、帰るか」
フェリクス王は興味なさそうに、空を見上げた。
フェリクス王にはアーシェスの叫びは、蚊の羽音くらいなモノ。うるさいが離れればイイだけである。
そもそもフェリクス王は、ウクスナ公国を助けに来た訳ではない。状況を把握するためだけに来ただけ。だから、目的は達したのでもう用はない。
「はぁぁっ? ちょっとフェリクス!! それはいくら何でも薄情過ぎるでしょう!?」
フェリクス王の冗談とも本気とも言える言葉に、アーシェスは食ってかかっていた。
当たり前だが、フェリクス王はウクスナ公国の王ではなく、ヴァルタール皇国の王だ。ウクスナ公国を助ける義務も義理もない。
アーシェスがいくら騒ごうが、暖簾に腕押し状態である。
情に訴えようと、まだ何か言うアーシェスに、フェリクス王は一蹴した。
「国を捨てたてめぇは黙ってろ」
「……っぐ」
ド正論に、さすがのアーシェスも、ぐうの音が出ないみたいだった。
アーシェスが国を出た理由は知らないが、王位継承権を放棄して国を出立したのだから、捨てた様なモノだ。フェリクス王の言葉は、身に染みに染みたことだろう。
フェリクス王が動かないのであれば、莉奈にはどうしようもない。
いくら番持ちだとしても、ヴァルタール皇国の王の意向を無視して、勝手な事は出来ないからだ。
キラーアントにも、重曹が効けばイイなと考えつつ、莉奈はフと違う事を思い出した。
「あ、重曹って言えば、カルメ焼きが出来るじゃん」
あれは、確か重曹で作るお菓子だ。
駄菓子屋やお祭りで買ったり、化学の実験で作ったりした事がある。
以前、重曹を使って白身魚のフリッターを作って食べたが、カルメ焼きの存在を忘れていた。
重曹特有の苦味が、砂糖の甘さを引き立てて、美味しい。
作り方も簡単だし、何より膨らんでいく様が面白い。家でも弟と2人で、お玉を使って作った覚えがあった。
「"カルメ焼き"って何ですか?」
「"カルメ焼き"って何だ?」
莉奈の呟きに、シュゼル皇子とエギエディルス皇子が食いついた。
ネーミングからして、食べ物だと察した様である。
だが、そんな弟達を見て、フェリクス王だけは小さなため息を吐く。きっと、余計な仕事が増えそうだ……とでも思ったのだろう。
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