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聖女じゃなかったので、王宮でのんびりご飯を作ることにしました  作者: 神山 りお


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660 どこもきな臭い匂いがする



 おそらく、そちらが本命だと伝えれば、何だそれとエギエディルス皇子が呆れていた。

 遠路はるばるやって来た理由が、孫娘会いたさとは思わなかったらしい。

 頻繁に会えない距離ですからねと、シュゼル皇子は笑っていた。



「まぁでも、ちょうど良かったので、救援物資や魔物肉、後は可食リスト。それと、リックの作ったリナのレシピを渡しておきました」

 ハイラーツからの難民は想像以上に多く、いずれ物資が足りなくなるだろうと想定したシュゼル皇子は、ちょうどイイとばかりに食料とレシピなどを渡したそうだ。

 ちなみに帰りは、状況確認と安全のため竜騎士団に送らせ、そのまましばらく駐留させるみたいである。



「ハイラーツが滅んだのか」

 フェリクス王達の話を聞いていたアーリャが、愕然としていた。

 他国の事であるが、ハイラーツという町がどこにあるかは知っている。その町が魔物により滅亡したと聞き、他人事には思えなかった。



「国が見限れば、なす術はありませんからね」

 アーリャをチラッと見て、シュゼル皇子は言った。

 このモルテグルとて、アーリャが見限れば終わりだろう。

「見限る? バレントアはハイラーツを見捨てたというのか!?」

 しかも、国は援軍を出すまでもなく見捨てたという事実に、アーリャは思わず声を上げていた。

 援軍を送ったが間に合わなかった……というのであれば、残念だが仕方がない。

 しかし、やるべき事すらやらずに、初めから見限るのでは話がまったく違う。アーリャにはそんな事をするバレントアの王が信じられなかった。



「バレントア王国は以前から、バルメシア王国と揉めていますし」

「休戦協定を破棄したとの情報もある」

「ハイラーツの事なんかに、かまけていられねぇんだろ」

 シュゼル皇子、フェリクス王、エギエディルス皇子の揃った返答がコレだ。

 隣国に攻められる恐れがあるのに、遠方の町の事に兵を割けなかったのだろう。

 ヴァルタール皇国の東も西も、魔物より人との争いを始める気配である。莉奈はつくづく、召喚されたのがヴァルタール皇国で良かったと思う。平和な国が1番だ。戦場になんて、身を置きたくない。



「なっ!」

 サラッと言われ、アーリャは思わず言葉を失くす。

 他国との戦争のために、自国の町を見捨てる。確かに国が攻められそうな時に、かまけていられないのは分かる。しかし、誰がための戦争なのか。

 その矛盾をアーリャは理解したくなかった。



「明日は我が身ですよ、アーリャ?」

 シュゼル皇子にニコリとそう言われ、アーリャはグッと何かを飲み込む。

 ウクスナ公国は今、他国の事にいちいち驚いている余裕などない。ましてや、現状はその国と似ているのだから、まさに"明日は我が身"である。



「ん? あれ?」

 そんな話を聞いていた莉奈は、フと思う。

 魔物や戦争で疲弊している両国に、今、ヴァルタール皇国が攻めたら……終わりじゃないのかな? と。

 竜がいるいない以前に、世界最強で最恐の魔王フェリクスと、国随一どころか世界随一だと思われるシュゼル皇子がいるヴァルタール皇国。

 右にフェリクス王、左にシュゼル皇子、自国はエギエディルス皇子が守れば、一挙両得……いや棚ぼた? で国が一気に2つも手に入りそうだ。



「お前……」

 時に思った事が口に出るのが、莉奈である。

 この考えも口から漏れに漏れまくっていたのか、エギエディルス皇子は絶句。他の者はドン引きし、竜である真珠姫でさえ引いていた。



「フェリクスが人道的で良かったよ……」

 その言い方では、まるで莉奈が人道的ではない様な言い草だ。アーリャの言い方は解せないが、文句を言っても仕方ないと莉奈は口を噤む。

 莉奈の言葉を訊いたアーリャは、つくづくそう思ったのか、疲れた様な息を吐いていた。

 確かに、ウクスナ公国は魔物やグルテニア王国の事で疲弊している。

 そんな状態の今、ヴァルタール皇国に攻められたら一巻の終わりだ。

 護衛2人は笑えない話に、頬を引き攣らせていたのであった。








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