655 魔物リスト
そんな様子を見ていたアーリャとフェリクス王。
「リナとか言ったかあの子」
「やらねぇぞ?」
「あの子がいれば……」
ウクスナ公国の食料事情は、一気に解決出来そうな気がする。
何より、皆を笑顔にさせられる力は、荒廃し始めている国には絶対必要な存在だ。アーリャはそう感じ、フェリクス王と交渉を始めていた。
「お試し1カ月」
「明日すら危うい国に置いて行けるか」
「お前もいればイイ」
「アホ」
国のトップ会談とは思えない会話が、間近で繰り広げられていた。
アーシェスも呆れつつ、何だか楽しそうに笑っている。アーリャの無事も分かり、この平和そのものみたいな会話が嬉しいのだろう。
緊張感しかなかったこの場も、少しだけ穏やかになったところで、兵士達は再び肉の串焼きのお礼を言うと、それぞれの持ち場に去って行った。
その中にいた数名が、スッとトイレに向かったのには笑うけど。
それを見て、ウォシュレットやビデとか、新しく設置するのもアリだろうなと莉奈は思うのだった。
◇◇◇
「そういえば、ホルン王の王女達は大丈夫なの?」
お腹も心も満たされたアーシェスは、まだ名残惜しそうに皿を見ているアーリャに苦笑いしつつ、改めて訊く。
ホルン王には娘が2人いて、長女は既に降嫁したと訊いたが、次女はどうしたのか気になっていた。
「サラはモルガに、次女のミーシャはこのモルテグルにいる」
魔物暴走が発生してからゴタゴタが続き、サラには直接会っていなかったが、無事なのは確認済みだ。王城で暮らしていたミーシャは、本人の意志により一緒に来ていた。
「そう、無事なら良かった」
王籍から離脱したアーシェスだが、サラもミーシャも従姉弟である事に変わりはなく、心配だったのである
王が代替わりすると同時に、親族を追放するなんて良くある話。
最悪の場合は、一族郎党皆殺し……なんて事もある。大叔父がそんな事をする人だとは思ってはいないが、直系を押し退け王座に座ったのも事実。もはや、アーシェスには大叔父が分からなくなっていた。
「アーリャ?」
ホッとしたのも束の間、アーリャの顔が曇ったのに気付く。
「後で会ってやってくれ。きっと、喜んでくれる」
「まぁ、それは会うけど……」
何故、表情が曇ったままなのか気になるが、それは会って見れば分かる事。アーシェスはそれ以上、訊かない事にした。
「しかし、あの子は何だか不思議な子だな」
莉奈を見ていたアーリャが、そう呟く。
アーリャが来てからも、莉奈はお茶を出したり、料理を出したりと忙しなく働いている。今も、バーベキューコンロなどを片付けた後、まだ何かモルテグルの兵士達に配っていた。
グルテニア王国の侵攻や魔物相手に、いつも疲弊していた兵士達は、疲れや緊張感で険しい顔ばかり。
だが、今は笑顔に溢れている。
フェリクス王がここにいる安心感も、もちろんあるだろう。しかし、莉奈の元気が皆に伝染している様に、アーリャには見えた。
「不思議っていうか、面白いっていうか、変わった子よね」
「ミーシャにもあの元気を、少し分けて貰いたいぐらいだよ」
アーリャがそう言うのだから、ミーシャは元気ではないと言う事だろう。
父であるホルン王は行方不明となり、王族は揉めに揉めて分国してしまった。頼りたい姉は降嫁してしまって、頼れない。
ミーシャは、突然降って来た重圧に、苦しんでいるのだろうとアーシェスは思った。
そんな話をしているとはつゆ知らず、片付けが終わった莉奈は、自分の席に戻る途中に、そうだと思い付く。
「あ、そうだ。食べられる魔物のリストを持って来ているので、渡してもイイですか?」
以前、竜達が狩って来た魔物を、シュゼル皇子達と一緒に【鑑定】して、食べられる魔物を一覧にしたモノがある。
食べられる部位や美味しい部分はもちろん、中には毒を持つ魔物もいる。何でもかんでも精肉として売られては大変なので、分かりやすく図にして説明した資料を作成していた。
これは主に、ギルドや精肉加工場など、魔物を解体したり売買する場所に配布してあるモノだ。
基本的に魔物の解体はギルドの仕事だが、それに加えて人体に害のある魔物は、許可証のない者は取り扱えない様に、規制も厳しくされている。
美味しかったからと、何でも狩って食べない様に、渡した方がイイかなと莉奈は思いフェリクス王にお伺いを立てた。
「リストなら構わねぇよ」
一応、アーリャに渡す前に確認して貰えば、フェリクス王は資料をチラ見して許可が出た。
これとは別に、【鑑定】で事細かに記載されたリストもある。
そちらはもちろん秘匿案件だ。何せ、リヴァイアサンだけではなく、魔竜の情報もバッチリ載っている。そんな貴重な資料を簡単に渡したら、怒られるなんて話ではない。
莉奈はその資料を持つのさえ怖いので、書いたその日にすべてシュゼル皇子に渡していた。
その資料は、アーリャはともかくとして、アーシェスは喉から手が出るほど欲しい代物だろう。
アーリャ達の皿を片付けながら、莉奈はリストを手渡した。
「いいのか?」
「ヴァルタールのギルドに行けば、割と簡単に手に入るしな。それに、早めに規制した方がイイぞ? 食べられると分かれば、何でも口にする者が出て来る」
その代表は莉奈だ。
莉奈は【鑑定】を持っているから害がないが、持っていないなら別だ。何も考えずに勝手に判断し好奇心だけで食べ、身を滅ぼす者が必ず出て来るだろう。
自業自得といえばそれまでだが、悪意を持って食べさせる者もいれば、良かれと思って誰かに食べさせる者もいる。
規制したところで好奇心は抑えられないが、最小限に抑える事は出来る。なので、早めの対処や規制は重要だ。
ヴァルタール皇国も、食べられる魔物リスト作成は始まったばかり。
運の良い事に、可食特化の【鑑定】持ちが2人いる。だから、すぐにリストを作成出来たが、まだ魔物の数に対して追いついていない。
しかし、ゼロから始めるより断然助かる情報だろう。
ちなみにこの可食リスト、ヴァルタール皇国では冒険者も持つ事が出来るので、ウクスナ公国の手に渡ったところで、何も痛手はなかった。
「へぇ、ボア・ランナーも食べられるのか」
何枚もある資料に目を通していたアーリャは、身近な魔物の名があるたびに、アレもかコレもかと驚き感心していた。
コレ目当ての討伐は大変だが、普通に生活していても魔物は襲って来る。仕方がないと討伐した魔物が食べられるなら幸運だ。しかも、これだけ食べられる魔物の種類があるのなら、肉には困らないだろう。
「は? ……リヴァイ……アサン?? え、リヴァイアサン!? リヴァイアサンってあの"リヴァイアサン"??」
リストをしばらく眺めていたアーリャは、リヴァイアサンが載っていたことに驚愕した。
見間違いかと何度も確認する様に連呼すると、今度は目を見開いたまま黙り込む。
まさか、魔物の可食リストに、神龍リヴァイアサンが載っているとは思わなかったのだろう。紙に穴が開くくらいに、その字面を睨んでいた。




