643 普段使いすると、価値感が麻痺する
ちなみに、魔法鞄を所持したければ、まずはギルドにて許可の申請をして、許可証を発行してもらわなければならない。
冒険者なら冒険者ギルド、商人なら商人ギルド、どちらでもない人は役所となる。
そこで、申請し許可が下りたら、"使用料"を含めた"保証金"を納付して魔法鞄を貸して貰える。
そう、あくまでも貸し出しで、買う事は出来ない。
何故なら、魔法鞄自体が簡単に造れる物ではないし、個体数に限りがあるからだ。
もちろん、ギルドに魔法鞄を返せば、使用料を差し引いた保証金は、ちゃんと返金されるのでご安心を……但し、使い方による。
綺麗に使う者もいれば、ボロボロにする者もいるからだ。
あまりにも汚いと返金されないし、失くせば保証金以前に信用を失う。
当然、次回は貸し渋りされるので、仕事に支障しかない。
使用料を含めた保証金の額は、基本的に魔法鞄の容量によるが、鞄の形や素材によっても多少変わる。
だが、大体どのギルドも1ルーン概ね、100万ギル程度で貸し出されているそうだ。
1ルーン=100万。
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4ルーン=400万。
5ルーン=500万。
6ルーン=1000万。
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10ルーン=3000万。
1ルーンが100万なら、10ルーンは10倍の1000万では? と思って訊けば、1ルーン増えるごとに100万増えるのは5ルーンまで。
6ルーンからは、1ルーン上がるごとに、500万ずつにドンと跳ね上がるそうだ。
冒険者と商人が持てる魔法鞄の容量は、基本的に最大10ルーンまでという規定があり、2個持ちも原則禁止。
ただ、輸出入に関わる貿易関係の者は、運ぶ量が多くなるので、特例措置がある。
その特例措置を得るには、ギルドではなく経済省や外務省に申請しなければならない。
もちろん、ギルドより申請の審査は厳しいが、その特別な許可を得られれば、10ルーン以上の魔法鞄を借りられるそうだ。
ちなみに、生き物は"基本的に入れられない"。
"入らない"のではなく、"入れられない"様にしてある。なにせ、便利過ぎると犯罪にだけではなく、兵器にも使えるからである。
後は純粋に危険だから……。
強力な魔法で空間に押し込むため、生き物を入れると身体や精神に、大なり小なりの支障があるそうだ。だから、入れられない様にしてある。
(シュゼル皇子が入っても無事だったのは、シュゼル皇子自身の持つ魔力が強力で、量も膨大だからだそうだ)
それと"基本的に"と言ったのは、王族が所持している魔法鞄は入れられるらしい。
そして、当たり前だけど売買するのは、どの国も基本的には法律で禁止されている。貸し出しの物を勝手に売買したら犯罪だしね。
……なのに、売買はあるらしい。
魔法鞄について詳しく知らない者が、性能を見聞きしただけで便利な鞄だと、所持者から高額で購入してしまう……という事件が、少なからず起きているそうだ。
だが、高いお金を払って買ったとしても、許可を得た者以外は使えないのだから、ただの鞄である。
なので、すぐにバレて通報されるか、訴えられるケースがほとんどだ。ただ、訴えた側が知らなくとも違法は違法なので、罰金刑か懲罰刑に服す事になる。
なので、高い勉強代と諦めて、泣き寝入りする人もいるそうだ。
当然、売った者もすぐに身バレして捕まるけれど……ほとんどの場合、お金は返って来ない。なにせ、騙した犯人は捕まる前にお金を使う。
ローレン補佐官にそんな話を訊いて、莉奈はフと疑問に思った事がある。
「あれ? フェリクス陛下、アーシェスさんの魔法鞄から、魔石を取り出してなかったっけ?」
基本的に、魔法鞄は申請許可を得た契約者しか出し入れ出来ないハズ。
なのに、フェリクス王はアーシェスの魔法鞄から、イブガシアンの魔石を取っていた様な気がした。
魔王だからと言われたらそれまでだけど、何故かなと莉奈は思う。
「あぁ、造れる者は例外なんですよ」
莉奈の疑問に、ローレン補佐官が答えてくれた。
魔法鞄を造れる者は、契約者でなくとも中身を取り出せるそうだ。
だから、"基本的に"と言っていたのだろう。
それと、国境など厳しく持ち物チェックする場所では、魔法鞄を無効に出来る魔導具がある。違法な物を輸出入する者がいるので、そういう仕様になっているそうだ。
なので、怪しい者は全力で拒否しようが、強制解除されて中身を見られる……という訳であった。
莉奈が以前、魔法鞄を使えば密輸出来そうだと、言った事がある。
その時、シュゼル皇子は「そう上手くいかないんですよ?」と言っていたが、そういう事だからだろう。
「ランデルが今、あの魔法鞄をギルドに返したら大騒ぎね」
何度も頭を下げながら門へと向かうランデル達を見て、アーシェスがそんな事を呟いていた。
なにせ、ランデルの魔法鞄は、申請した容量と誤差が発生している状態だ。
普通に使っている分には問題はないだろうが、何か不審な行動をすれば調査されてしまう。
調査されれば、冒険者ギルドは何故そうなっているのかと、ランデルを問うだろうし、ランデル達がフェリクス王の事を話したとして、それをすんなり信じてくれるかといったら……微妙だ。
それに、ランデルがするしないはともかく、3ルーンで借りたあの魔法鞄を10ルーンとして返せば、保証金詐欺になる。
何気に問題のある魔法鞄となってしまっていた。
「まぁ、平気でしょう」
疑われる事さえしなければ、強制的に調べられる事はない。
数ヶ月後には、元通りになるのだから、それまで派手な事をしなければ大丈夫だ。
だが一応、何かあったら困るので、ローレン補佐官は冒険者ギルドに伝えておこうと思うのだった。
そんな問題を抱えてしまった事すら、まったく知らないランデル達は、ウキウキ気分で門の中に消えて行く。
事実を知ったら慌てそうだなと、莉奈が見ていれば、隣にいたエギエディルス皇子から呆れた声が聞こえた。
「そんな事より、コイツらを無視している方が、俺的には大問題だと思うな」
その視線の先には、この国の公女アーリャ達の姿があった。
そう、先程からずっと放置状態である。
アーリャはもはや怒る気も起きないのか、遠くで寝ている緑の竜を見て癒されていたのだった。




