641 しばしのお別れの前に……
「……あのぉ」
そんな話をしていたら、おずおずとランデル達が声を掛けてきた。
「難しい話になりそうなので、我々はこの辺で……」
アーリャ達が来た事で、ただの焼き肉パーティーが、国同士の話になりつつある。
聞き耳を立てるつもりは毛頭ないが、近くにいるのでどうしても聴こえてしまう。
それが、よくある雑談ならまだしも、国のトップ同士の対談だ。絶対に聞かない方がイイに決まっている。
ランデル達は、名残惜しさを感じながら、自分達はここでお別れしようと考えたのだ。
「聞いていてもイイんだぞ?」
「「「いやいやいや」」」
フェリクス王が揶揄う様にそう言えば、ランデル達は全力で拒否していた。
たとえ聞いてしまったとしても、その内容を誰かに話すつもりはない。しかし、聞かないに越した事はないのだろう。聴いた内容によっては、ずっとモヤモヤしたまま、旅をする事になる可能性がある。
ならばと、フェリクス王達の話が始まる前に、慌ててお開きにした。
「「「お世話になりました」」」
楽しかったですと、ランデル達はフェリクス王達に頭を下げる。
本来なら、旅をした仲間にそんな言葉など掛けないのだが、相手は国王様。しかも、食事を始め何だかんだと、本当にお世話になった旅だった。
だから、ランデル達は、自然とお礼の言葉が出たのである。
「あ、そうだ。アルコービヴィードの実が見つかったら、王城に持って行けばイイですか?」
さて行こうかなと踵を返したところで、ランデルはハッと思い出す。
焼き肉パーティーを堪能し過ぎて、肝心のお酒を造る材料の話を忘れていた。
ただでさえ、依頼を忘れるだなんてありえないのに、その依頼主が国王様である。信頼を失うどころか、自分達の未来が真っ暗になりそうだ。
「来たきゃ来てもイイが……」
少し考える素振りを見せたフェリクス王は、すぐに悪そうな笑みを浮かべてこう言った。
「アーシェスが働いている武器屋、バーツの所でもイイ」
「バーツのおっさんの店」
ランデル達は、なるほど? と頷いた。
ヴァルタール皇国のリヨンにある武器屋の店主バーツは、アーシェス同様フェリクス王とも知り合いらしい。
ならば、王城へわざわざ持って行かなくとも、バーツが仲介という形で届けさせる事も出来るとか。
ランデル達も、緊張感のある王城より遥かに気持ちが楽だ。ただ、行く機会のない王城を、間近で見てみたい気もする。悩ましいところであった。
それを聞いていたアーシェスが、フェリクス王を見る。
「そんな事をしたら、師匠も酒酒って……あぁ、わざとね」
お酒大好きで酒豪の師匠バーツを仲介するだなんてと、思ったアーシェスだが、口にしていて気付いた。
フェリクス王は、わざと師匠バーツを挟むのだと。
ランデル達が、アルコービヴィードの実をフェリクス王に届けて欲しいと、師匠バーツの武器屋を訪ねれば、絶対に何故かと訊く。
訊かれればランデル達は隠す必要がないので、酒を造ってもらうためだと話す。それを耳にすれば、酒好きのバーツは絶対に欲しいとフェリクス王に強請るだろう。
強請られたらコッチのものである。
フェリクス王は、バーツの好きな酒という材料を使い、優位に交渉へと持って行くに違いない。
交渉で莉奈はピキンと閃いた。
「あ、そうだ。途中で美味しそうな魔物がいたら、ついでに狩って来て貰えます?」
「「「……美味しそうな魔物??」」」
ランデル達は眉根を寄せた。
魔物に対して、怖いとか凶暴だなとか感じた事はあっても、美味しそうだと感じた事はない。
ましてや、大抵の冒険者は、魔物を素材として考えている。食材として考えているのは莉奈だけだ。なので、美味しそうの基準が分からない。
「食った側から、食い物の話かよ」
「肉はいくらあっても困らないでしょう?」
確かにそうだが、腹が満たされていても食べ物の話をする莉奈に、エギエディルス皇子は呆れていた。
しかも、何かサラッとついでみたいに言う。
それも莉奈の"狩って来て"が、"買って来て"のノリに聞こえるから、どうにもオカシイ。
言うなれば、「あ、お父さん。お酒買いに行くなら、ついでに"魔物狩って来てよ"」みたいな軽い感じだ。魔物討伐はそんな簡単なノリでやるモノではない。
「それに、歩いてたらバッタリ魔物に会うでしょう?」
「魔物は友達じゃねぇんだから、"会う"とか言うな。せめて"出くわす"って言え」
でなければ、遭遇だとエギエディルス皇子が言う。
「えぇ〜?」
莉奈的には、どちらも同じだ。
フェリクス王と一緒にいるおかげで、魔物と遭遇しても「うわっ」とする感覚がない。どちらかと言えば、「あ、いたいた!」みたいな、動物園にいる動物と同じ感覚だった。
「魔法鞄に空きがあったら……かな」
ランデル達は互いに顔を見合わせながら、そう言った。
何が美味しそうかはサッパリ分からないが、魔物に遭遇すれば倒す事はある。ならば、素材集めのついでに丸ごと持って帰ればイイ話で、大した手間はない。
しかし、魔法鞄の容量は無限ではなく、限りがある。なので、空き次第かなとランデル達は口にした。
莉奈も、元よりそのつもりで考えていた。無理に頼むつもりはない。あくまでもついでにお願いする感じだ。
なので、それで全然構わないと莉奈が口を開こうとした時、フェリクス王が声を掛けた。
「魔法鞄の容量は?」と。




