640 王族とは
「あ、お飲み物だけでもいかがですか? もちろん、毒味等が必要であれば、ここにいる誰かに飲ませてからでも構いませんし」
「「構えよ」」
「構って下さい」
「構いなさいよ」
莉奈がアーリャにイイ笑顔を見せ、シレッとそう言えば、フェリクス王も含め全員から、総ツッコミが入った。
それもそうだろう。"ここにいる誰か"の中には王族が2人もいる。どの世界に、王族を毒味係に勧める者がいるのだ。
莉奈の台詞に、アーリャ達は瞠目していた。
「そうだな、飲み物くらいは……」
だが、そこまで配慮されては、さすがのアーリャも飲み物くらいならと考えた。
正直なところ、知らせを聞いて慌てて馬を走らせて来たため、喉が渇いている。
毒の心配がないと言えば嘘になるが、提供するのが信頼感のあるフェリクス王の連れなら、問題ないだろう。
「アーリャ様」
アーリャがいくらフェリクス王を信頼していようが、毒味はした方がイイ。そう思った護衛が声を掛けたが、アーリャは笑っていた。
「フェリクスが私を本気で殺すつもりなら、来た瞬間にやっているさ」
「確かに?」
良く分かっているなと、莉奈は思わず頷く。
フェリクス王の性格からして、誰かを殺すつもりなら、毒殺なんて絶対にない。ヤルなら真正面からバッサリ瞬殺、それこそ挨拶する間すら与えられないだろう。
「確かにじゃねぇよ」
アーリャの言葉に頷いた莉奈に、フェリクス王は呆れていた。
毒殺なんて、そんな回りくどい事をしないのは認めるが、莉奈に当然の様に納得されると何とも言えない。
「っていうか、ヤル意味なんかねぇしな」
そう言ったのはエギエディルス皇子だ。
ヴァルタール皇国とウクスナ公国の仲はともかくとして、フェリクス王がわざわざ出向き、アーリャを殺害する理由がない。
ましてや、この国は滅亡の危機すらあるのだ。放っておいても終わるだろう。エギエディルス皇子は、言葉にそんな含みのある言い方をしていた。
「意味がないとかやめてくれる?」
その言葉に不満な声を上げたのは、アーリャではなくアーシェスだった。
意味があったらあったで嫌だが、その言い方も何か引っ掛かる。
「なら、意味があるのか?」
エギエディルス皇子にそこまでハッキリ言われると、アーシェスもぐうの音も出ない。
フェリクス王が今、ウクスナ公国をどうこうしなくとも、グルテニア王国か魔物に……。
そこまで考えて、アーシェスは頭を振る。そんな物騒な未来を想像したくなかったのだ。
「せめて国の内部だけでも、仲良く出来ないものですかね」
アーリャ達に何を出そうかなと考えながら、莉奈は思わず呟いていた。
どの世界も、国や人の争いは絶えない。様々な理由があるから仕方がないが、せめて自国の人同士くらい、仲良く出来ればイイのになと思う。
「王族も人の子だもの。価値観、考え、生き方が合わなければ、仲良くは無理ね」
莉奈の呟きを拾ったのは、アーシェスだった。
莉奈にも、それは良く分かっている。皆、手を取り合い仲良くしましょうだなんて、所詮は綺麗事だ。
価値観や考えとかが合わないのであれば、友人同士でも楽しくないし、自然と距離が出来る。たとえ血の繋がった家族でも同じだ。
いや、同じ屋根の下に住む家族だからこそ、余計に気になるだろう。
ヴァルタール皇国の王兄弟が仲良しだから、ついボヤいてしまった。
「王族同士の仲が良いなんて、滅多にないんですよ」
「一見そう見えるだけ……って国が多いわ」
ローレン補佐官とアーシェスが、そう教えてくれた。
家族の仲の悪さを、表に出すか出さないかの違いで、概ね腹に一物抱えているらしい。
まぁ、いわゆる仮面家族みたいなものだろう。それは王族でなくともある話。ただ、国のトップの争いやケンカは、大抵の場合は下を巻き込むから、面倒である。
「ヴァルタールみたいに、王族がラブラブなのは珍しいんですね」
莉奈は思わず感心してしまった。
ヴァルタール皇国では、親子間の仲は微妙な感じだったみたいだけど、王兄弟はお世辞抜きで仲が良い。きっと稀なケースなんだなと、莉奈は思った。
「「「ラブラブ」」」
その言葉を聞いたアーリャ達が一斉に、フェリクス王兄弟を見る。
莉奈の言った"ラブラブ"という表現に、何とも言えない表情だ。
とはいえ、兄弟にラブラブという表現はともかくとして、言い得て妙な気がした。彼らは表面上ではなく、本当に仲が良いからだ。
しかし、当人達はうげっという顔をしている。
「「気持ち悪ぃ」」
だが、そうフェリクス王とエギエディルス皇子がハモるのだから、やはり仲が良いなと莉奈は笑うのであった。




