638 終わらない焼き肉パーティー
「ハンバーグ丼、すげぇ旨い」
「でしょう?」
ハンバーグの肉汁が染み染みのご飯に、それをコーティングする卵黄。トッピングのネギダレが良いアクセントになって、コッテリだけどさっぱり食べられるのが、このハンバーグ丼だ。
そのハンバーグ丼を、モリモリ食べるエギエディルス皇子が何だか可愛くて、莉奈は癒されていた。
料理が美味しければ、それだけ食べる量も増える。
初めて会った時は、ちょっと痩せて見えたエギエディルス皇子だったが、莉奈の作る料理でスクスク育っていた。莉奈と並べば、背も変わらないくらいになっているから、すぐに追い越す事だろう。
オマケに、兄王に鍛えられているおかげか、身体は引き締まっているし、筋力も付いている。
きっと、フェリクス王とはまた違う感じの、イケメンで逞しい青年になりそうだ。
「何だよ」
エギエディルス皇子の成長を、まるで弟の成長を見ているかの様にジッと見ていたら、エギエディルス皇子が怪訝そうな表情をしていた。
「エドは、逞しくカッコよくなったなぁって」
素直な感想を言えば、エギエディルス皇子は目を丸くさせた後、頬をボボッと真っ赤に染める。
莉奈に褒められるとは思わなかったのだろう。
だが、真っ向からそう言われると、エギエディルス皇子は恥ずかしさが勝り何だか素直に喜べず、つい憎まれ口が出てしまう。
「そ、それじゃあ、以前の俺はカッコ良くなかったって事かよ!?」
「違うよ? ますますカッコ良くなったなって事」
「あ、う、そうかよ!!」
初対面の"ブタ"発言は最低最悪だったけど、今は莉奈の事を常に心配してくれる立派な皇子様だ。
すべてを帳消しには出来ないが、払拭するくらいにはカッコ可愛い。
恥ずかしそうにするエギエディルス皇子に、またもや素直な感想を聞かせれば、嬉しさと恥ずかしさにプイッと顔を逸らしていた。
エド、カワユス。
莉奈はそんなエギエディルス皇子に、癒されるのであった。
莉奈がニヨニヨしている中、ランデルとハービスの嘆きの声が聞こえる。
「あぁぁぁっ、何で、俺の胃袋は一つしかないんだぁぁっ!!」
「それな!」
食べたい物がいっぱいあるというのに、食べられる量は決まっている。
ランデルとハービスは、今食べられる幸せと、胃袋の限界量に嘆いていた。
なにせ、あっという間に目的地に着いてしまったため、莉奈の食事はこれで終わりだ。
その最後の晩餐だというのに、胃袋の許容量が増える事はない。
まだまだ食べ足りないのにと、心が悲しく叫びを上げていた。
「あぁ、幸せぇ」
マリサは対照的に、至福の時をのんびりと楽しんでいた。
魔物に襲われる心配もなく、外で食べる食事が、こんなにも美味しいだなんて幸せでしかない。
聖木に寄り道したおかげで莉奈達に出会い、美味しいご飯にありつけ、竜にも乗れた。こんな夢みたいに幸せな旅は、もうないだろう。
冒険者で良かった。莉奈に会えて良かった。マリサは、この旅で出会えた幸せを胸に、焼き肉やデザートをめ一杯、堪能するのであった。
◇◇◇
ーー焼き肉パーティー開催宣言から、約30分。
まだまだ、楽しい焼き肉パーティが続く中、馬の蹄の音が聞こえてきた。
モルテグル兵が慌ただしくし始めている事から、伝達係となっていたジンかレイ、あるいは代わりの者が来たのかもしれない。
重厚な音と共に門扉が開くと、人を乗せた馬が数頭、忙しなく出て来た。
だが、出て来たのは普通の馬。
「あれ? 魔馬じゃないんだ」
「町の外に行く訳じゃねぇしな」
エギエディルス皇子が、チラ見して教えてくれた。
厳密に言えばここは町の外だが、旅に出る訳ではないので、普通の馬みたいだ。
「フェリクス!!」
ヒラリと馬から颯爽と飛び降りた女性が、フェリクス王を見つけた途端、駆け寄って来たが……莉奈達の食事風景に、唖然となり急ブレーキを掛けていた。
後ろに護衛らしき者を2名連れているし、フェリクス王を呼び捨てにした事から、この人がウクスナ公国の公王アーリャなのだろう。
一応、挨拶くらいした方がイイのかなと、莉奈は腰を上げようと思ったのだが、フェリクス王を筆頭に誰も立ち上がる気配がない。
紹介もされていないのに、自分が勝手に挨拶をするのも可笑しな話だ。莉奈はそう思い、上げようとした腰を戻した。
ちなみに、ランデル達は、食べるのに夢中で気付いてなさそうである。
「……こんな所で、何をしているんだ?」
「見りゃ分かるだろ、飯」
シレッと言うフェリクス王に、そんな事を訊いているんじゃないと、彼女達の顔が雄弁に語っていた。
食事をしているのは見れば分かる。だが、何故ここで? と彼女は言いたいのだろう。
莉奈に言わせれば、"食いたいから食っている"ただ、それだけだ。
フェリクス王と話す彼女をチラ見しながら、莉奈は追加の肉を取りに行く。
誰が来ようがマイペースな莉奈に、エギエディルス皇子は苦笑いしながら、同じく肉を取りに席を立つ。
彼女は一瞬こちらを見たものの、ツッコミ要素が多過ぎて何も言葉が出ないらしい。
「あ、マリサさん、ミルクアイスにコレをかけると美味しいですよ?」
ミルクアイスのおかわりをしに来たマリサに、ミルクソーサーに入れてある濃い紅茶を勧めた。
甘いミルクアイスに、苦味のある紅茶。良いアクセントになって、また違った味わいになる。
ミルクティーをアイスにしても美味しいけど、ミルクアイスに後がけした方が、風味豊かで美味しいと思う。
「え、まさか、アーシェス!?」
フェリクス王と同じテーブルに着くアーシェスに気付き、彼女はこれでもかと目を見張っていた。
「久しぶりね、アーリャ」
「"久しぶりね"じゃない!! お前が出て行った後、色々とあったんだぞ!?」
やはり、彼女がこのウクスナ公国の公王"アーリャ"で間違いなさそうだ。
しかも、アーシェスとも久しぶりだなんて会話をする間柄。
アーシェスも顔が広いなと、莉奈は思う。
「みたいね。あ、リナ、私にもそれちょうだい」
だが、アーシェスは色々と話をしたい彼女を無視し、莉奈に向かって右手を挙げた。アーシェスも今は、食事に専念する事にしたらしい。
別にココに来いと呼んだ訳じゃないけど、誰も彼もが何事もなかった様に食事を続けるとはコレいかに?
……と一瞬思ったが、莉奈がそれを考える必要はない。
「苺のソースもありますよ?」
「リナさんーー」
「マリサさんにもお持ちしますね。あ、フェリクス陛下、ご飯のおかわりよそいましょうか?」
「あぁ」
「ローレンさんは?」
「半盛りで、後、生卵も貰っていいですか?」
「ネギダレも追加しますか?」
「お願いします」
「「俺達にもアイスのソース下さい」」
「は〜い」
とにかく、今はご飯の時間だ。
皆が笑顔で楽しく食べられる様に、莉奈はせっせと動き回る。
「「……」」
アーリャの護衛は、終始唖然としたまま。
主であるアーリャを無視している事にもだが、目の前で繰り広げられている焼き肉パーティーに、ずっと釘付けだった。
何の肉かはともかく、肉がジュウジュウと香ばしく焼かれていく音。モクモクと上がる白い煙。鼻腔を擽ぐる香ばしい匂い。
そして、美味しそうに食べる莉奈達。
その光景はもはや、拷問の様だった。




