631 神様、仏様、竜様?
「気になるなら、取ってくれてもイイよ?」
緑色の竜がこれ見よがしに、そう声を掛けてきた。
その謎の上から目線に、誰もが呆れ顔しか出来ない。
しかし、無視されようが、そんな事は気にならない緑の竜は、近くにいたランデル達をチラッと見た。
「しょうがないなぁ、コレを取る栄誉をキミ達にあげよう」
「「え?」」
「ついでに僕は超寛大だから、背に乗る許可も今日だけ特別大サービスしてあげちゃうよ?」
唖然としていたランデルとハービスに顔を近付けて、フンと鼻息荒く偉そうに言うものだから、2人は複雑そうな表情をしていた。
初めて竜を間近に見て興奮していたのに、竜の言動が想像とかけ離れ過ぎて、頭がついていかないのだ。
「乗せてくれるってさ。良かったな」
返答に困っていると、エギエディルス皇子が空笑いしていた。
動機は不純だが、こんな事は滅多にないので、竜が気まぐれに見せたその好意はありがたい。これで、問題なく皆、竜で移動出来る。
「「え、いや、まぁ……ありがとうございます?」」
エギエディルス皇子にそう言われ、ハッとした2人。
なんだかんだで、この竜は歯の異物が、気になっていたのかもしれない。
しかも、それを取れば背中に乗せてくれるというのだから、ものスゴくラッキーではないのか? と考え直したのだ。
しかし、目の前に見せつけられた紫色の物体に、ランデルとハービスの頬がつい引き攣る。
普段、地面に落ちているのであれば、大して気にならないのに、歯の隙間に挟まっていると、途端に気持ち悪い。
どうしたものかなと悩んでいれば、緑の竜の期待する様な視線と目が合った。
「「うっ!」」
そんな目で見られてしまったら、汚いとか気持ち悪いとか言ってられない。むしろ、そんな風に考えたら竜に失礼だ。
「とはいえ、取るっていったって、何で取るんだ?」
「素手は絶対に嫌だ」
「だよな、枝みたいなのがあれば……」
「確かに、だけど枝なんかないぞ?」
辺りを見たが、枝らしき物は落ちていない。
だが、絶対にソレを素手で触りたくないので、持参の魔法鞄をあさって道具探しに奮闘している。
アーシェスは、これでローレン補佐官の竜に乗れると安堵し、余計な事は言わず静観していた。
マリサは、初めて間近で見る竜に、ずっと口元が緩みっぱなしだ。
仲間が奮闘しているのさえ、楽しそうに見ている。
エギエディルス皇子に汚いと拒否られた黄色の竜は、この状況に何も興味がないのか大欠伸していた。
そんな竜達を見て、竜は本当に自由な生き物だなと、莉奈は思うのだった。
ーーそして、格闘する事、数分。
薄気味悪い色をしたミルクワームの残骸は、ランデルとハービスの手によって、歯からズリズリと引っ張り出されたのであった。
「うん、まぁイイかな!」
スッキリして満足した緑色の竜は、彼らにお礼もないどころか、まだ偉そうだ。
「「それは良かったですね」」
対照的に、歯に傷が付かない様に、細心の注意をして取っていたランデル達は、お疲れの様である。
まぁ、でもコレで竜に乗れるのであれば、かなり運が良いだろう。
ランデル達が格闘している間に、予備の鞍を緑色の竜にも装着したし、準備は万全である。
「カラビナはしっかり着けておけよ?」
フェリクス王は、初めて竜に乗る2人に、命綱を忘れない様に注意した。
基本的に竜は、背に人が乗ろうがあまり気を使わない。
竜に言わせれば"乗せてやっている"のだから、落ちない様に気を遣うのは乗る側という考え。あくまでも、主導権は竜にあるのだ。
なので、安全運転してくれる保障はどこにもないのである。
「「了解です!!」」
歯の異物の事はスッカリ頭から排除し、今や竜に乗れる事にワクワクしていたランデル達は、大きな返事を返す。
前はどちらにするか、少しだけ揉めてはいたが、ランデルを前にして乗る事に決めた様だ。
ちなみに、リナの後ろに乗っているマリサも、興奮した様子で竜に跨れば、「くぅぅっ!」と感動の声を上げていた。
やはり、竜の背に乗るのは誰もが一度は憧れるらしい。
莉奈はもう何回か乗っているけれど、まだジェットコースターに乗る前みたいにテンションが上がる。
莉奈でさえそうなのだから、初めてなら尚更だろう。
「行くぞ」
フェリクス王の掛け声と共に、莉奈の竜も含め、ゆっくりと空へと浮上していくのであった。




