630 人も竜も個性は大事?
「汚い」
美に目覚めてしまった碧空の君は、仲間のあまりの汚さに、思わず距離を置く。
「「「……」」」
アレ程、竜だ竜だと騒ぎ立てていたランデル達でさえ無言である。
莉奈も、ここまで汚い竜を見た事がなかった。本来の竜の姿はこうなのか、野竜がこうなのか、ただこの竜が汚いだけなのか、莉奈には正解が分からない。
1つ言えるのは、同族である碧空の君がドン引きするくらいに、汚れているという事だ。
「エディ、コイツの背にーー」
「乗りたくねぇよ!!」
無表情でそう勧める兄王に、エギエディルス皇子は間髪を入れずに、断っていた。
鞍を着けるにしても、竜に迂闊に触れば、泥で汚れる事間違いなし。着ている服も汚れるしで、テンションは下がるだろう。
ちなみに、王族は番ではなくとも、竜に頼めば背に乗せてもらえるそうだ。
なので、王族であるエギエディルス皇子が乗れば、ランデル達も渋々同乗を許可してくれるとか。
まぁ、フェリクス王が命令すれば、誰でも乗せてくれそうな気もするが、あえて命令を下さないのがフェリクス王。
あくまでもお願いという形に、竜の意思を尊重するのがフェリクス王らしい。
まぁ、フェリクス王の頼みを断る竜がいるとは思えないから、命令と変わらない気がする。
ーーという訳で。
フェリクス王とエギエディルス皇子が同乗ではなく、王族とランデル達とが別れて乗るみたいだった。
「どうせなら、あっちの緑の竜がイイ!!」
汚い竜に乗りたくないエギエディルス皇子が、上空を旋回している緑の竜を指差せば、その声が届いたのか緑色の竜が降りて来た。
先程の竜とは全然違い、光に当たった鱗が、エメラルドの様にキラキラとして、ものスゴく綺麗だ。だが、その外見より気になる部分がある。
そこはどこか? ……口だ。
黄色の竜みたいに汚くはないが、歯の隙間から何か紐みたいな物が、ニョロッと出ていた。
「「「……」」」
鱗は黄色の竜より汚くはないが、どうしても口元が気になって仕方がない。
誰もが無言でソレを見ていると、王竜が開口した。
「お主……ソレは何だ?」
「ソレ?」
「口から伸びている、その紫色の物体だ」
「え? あぁ、ミルクワーム?」
と何故か疑問系で返した緑色の竜。
自身で何か食べてそうなっているハズなのに、疑問で返す意味が分からない。
ちなみに、"ミルクワーム"とは、竜が好んで食べる芋虫みたいな生き物だ。
ほんのり甘いらしく、オヤツ代わりに食べるとか。
しかし、ミルクワームは"ミルク"と名が付く様に、その身は真っ白だったハズ。この竜の口から、ニョロだかみょ〜んと出ている物体は、紫色であった。
「ミルクワームはそんな色では……」
王竜も、その不気味な色に気付いたのか、眉間に深い皺を寄せる。
変異種もたまに見かけるから、一概に言えないが、どうにもオカシイ。
「随分と前に食べましたからね」
あっけらかんと言う緑色の竜に、王竜は目を細めていた。
たぶん、呆れているのだろう。
「随分とはいつですか?」
訊かなきゃいいのに、碧空の君が訊いている。
干からびている上に、白が紫色になっているくらいだし、数日で済む話ではないと思う。
「んーーーーっ?」
やはり最近ではないのか、緑色の竜は首を斜めにしたまま固まっていた。
思い出せないだなんて、相当な日数な気しかしない。
「何故、取らないんですか!!」
綺麗好きの碧空の君からしたら、何日も放置したままだなんて許せないらしく、身震いした後に怒っている。
歯に物が挟まったままでいるだなんて、竜も人もないなと思うのか、皆ドン引きであった。
「だって、全然取れないんだからしょうがないじゃん」
「ンギャ!! ソレを振り回さないで下さい!!」
こうやっても取れないのだと、アピールして首をブンブン振り回せば、その物体はまるでデンデン太鼓の様に、左右に揺れていた。
何も考えないで振り回す緑の竜に、碧空の君は怒鳴っている。
さすがの王竜も呆れを通り越して、ゲンナリした様子だ。
確かに、竜の手先はそこまで器用ではなさそうだし、取れないのは仕方がないとは思う。
だけど、王宮に行けば誰かしらいるのだから、人間に取って貰えばイイだけの話。
それすらもしないのだから、そんな事はどうでもイイと考えるタイプの竜なのだろう。緑色の竜が適当過ぎて、莉奈も苦笑いすら出ない。




