63 萌えを返せ
ダメだ……もう、ダメだ……。
リック達は、白目を剥きながらその場に座りこんだ。
助けたくても助けようがない。ダメだ…と諦めたのだ。
「……迷惑……」
フェリクス王は、下を向いてそう呟いた。
「……あの~?」
今さらだが、謝ろうかな…と莉奈は思った。なんか肩が震えていて怖かったのだ。さすがに斬られるか?
「……邪魔……」
「えっと……も……」
謝ろうと、さらに声をかけた時…莉奈は、何かがおかしいと気づいた。
……くっ……くっ……。
フェリクス王は、笑っていた。
怒りに震えていたのではなく。ただ、声を押し殺して笑っていた。
「………………」
莉奈は、呆然とした。
さすがに、首が飛ぶかも……と覚悟していただけに唖然である。
「……この、俺に向かって……よく言えたな?」
「すみません?」
と、可愛くもないだろうが、首を傾げた。
「知ってるか?……この国は、王に不敬を働けば極刑もありえるんだぞ?」
「……私の世界でも、そうですよ?」
なんだったら、自分だけでなくその家族まで命が危ない国もある。守る家族もないし、完全に自己責任になるからどうでもいいけど。
「お前……アッチでもそうなのかよ?」
さらりと言った莉奈に、フェリクス王は少し驚いた様子だ。
「言う以前に、王族に逢う機会がありません」
ただの一般人が、王族なんかに逢えるはずがない。
「……はぁ……」
呆れたのか何だか分からないが、フェリクス王はため息をついた。
「度胸があるのか……ただのアホなのか」
ん? アホは余計ですが?
「血の気の多いヤツもいる。気をつける事だな……」
そういうとフェリクス王は立ち上がり、莉奈の頭にコツンと軽くげんこつして出入口に向かっていった。
「…………」
莉奈にしか見えなかったが、頭を叩いたフェリクス王は、その風体から想像も出来ないくらい、優しく優しく微笑んでいた。
……キュン。
ダメだ……。
この表情……不意打ち過ぎて、腰が砕けそう。
……これが、ギャップ萌えか。初めて知った感覚に、莉奈はドキドキしていた。弛みそうな口を押さえ、ふにゃふにゃと砕けそうな腰を踏ん張って堪えていると、背後から空気の読めない……読む気のない声が一つ。
「アイスクリームは?」
欲求、欲望に素直なシュゼル皇子の声だった。
…………おい。
私の萌えを返せ。
莉奈の心はスッカリ冷めた。




