629 選択肢が……
ランデル達が見守る中、莉奈の竜とローレン補佐官の竜が、ゆっくりと旋回しながら地面に降りて来た。
どこにいても、フェリクス王が鳴り笛で呼べば、番以外の竜も来るというのは本当らしい。
「エディは下から行くか?」
「行く訳ねぇだろ!!」
ローレンと莉奈が、竜にいそいそと鞍を着けていれば、フェリクス王が鞍を装着しながら、エギエディルス皇子を揶揄っていた。
冗談にしろ本気にしろ、キラーアントがわんさかいる地上からだなんて、地獄でしかない。
「マ、マリサです!!」
チラリとフェリクス王がマリサを見れば、フェリクス王は何も言っていないのに、背筋をピンと伸ばし名前を口にしていた。
国王様だと気付いての恐縮なのか、フェリクス王の威厳に畏怖しているのか、はたまた両方なのか。
「あんたはリナの竜で問題ないとして、エディはーー」
「俺は、絶対歩かねぇからな」
フェリクス王はただの確認で言ったのだろうが、エギエディルス皇子は食いつく様に返答していた。
鬼畜の魔王だからすぐに言わないと、徒歩で来いと言われそうで怖いのかもしれない。
「私の竜にはーー」
「私が乗るに決まっているでしょう!?」
ローレン補佐官が、誰を乗せようかなとキョロキョロとした仕草を見せれば、アーシェスが慌てた様子で言っている。
当然、自分だと思っていたのに、周りを見るからビックリしたらしい。
竜が3頭に対し、人は8人。
フェリクス王、リナ、ローレン補佐官は、竜の番であるので乗らない選択肢はない。となると、後は一緒に乗るメンバーである。
リナとマリサは女性2人という事で、同乗で問題ないだろう。
エギエディルス皇子はまだ子供だし、フェリクス王の竜に乗る事に誰からも異論はない。
ーーで、残るはローレン補佐官の竜だ。
アーシェスは行きと同じく、当然自分が乗ると豪語しているが、ローレンの中では当然ではないらしい。
「そうですね」と即答しないのが、何よりの証拠である。
「アーシェスは、キラーアントを討伐しながら行けばイイだろ?」
ランデルがそう言ったのを皮切りに、揉め始めた。
「確かに、モルテグルの行く末を気にしていたんだから、そうだよな」
地上から行きたくないハービスも追随する。
「ちょっ、何言ってるのよ!?」
「心配なんだろ?」
「そうそう。だから、ちょっと頭数を減らしておけばイイと思う」
「な!? そもそも、あなた達がイレギュラーだから、ややこしくなるんでしょう!! 冒険者なんだから、歩いて来なさいよ!!」
「「いや、俺達はリナさんの護衛なんで、側からは離れられない」」
「何がどう護衛なのよ!!」
莉奈達が鞍を着けている間、3人は揉めていた。
それとは対照的に、マリサは乗れる事が確定しているので、竜を見てワクワク顔だ。
鞍を着けている莉奈を見ては、質問したい気持ちをウズウズさせつつ、大人しく待っている。
「他の竜に乗せてあげるって事は……無理だよね?」
番のいる竜は無理なのは分かっているが、まだ番がいない竜はどうなのかなと、ダメ元で碧空の君に訊いてみたらーー
「背は無理でも、連れて行く事は可能ですよ」
と意外な返答が。
その言葉に、ランデル達が期待を込めた目で振り返っていた。
「ちなみにどうやって連れて行ってくれるの?」
「口か手」
「あぁ、ソウデスカ」
訊いた莉奈がバカだった。
背中でなければ、口で咥えるか、手で掴むかの二択になるらしい。
それでは、番であろうがなかろうが、どちらでも構わない話ではないか。
口は論外として、手も絶対に嫌だ。シュゼル皇子の番である真珠姫に、捕まれた事を思い出して、莉奈はゾッとする。
身動きすら取れない上空だなんて、生き地獄だった。あんな楽しくない飛行は、2度としたくない。
「どうするんだ?」
莉奈がゲンナリしていると、話を訊いていたエギエディルス皇子が、フェリクス王を見た。
番のいない竜が、王族以外の人を背中に乗せてくれるとは思えない。
なら、呼ぶだけ無駄だ。
とはいえ、置いて行くのも可哀想な気がする。
「口、手、地上、どうしたい?」
「「選択肢がエグい」」
フェリクス王が笑いながら訊けば、ランデルとハービスが唖然としていた。
竜の背に乗るのではなく、口や手で運ばれるだなんて、飛行系の魔物に攫われるのと大差ないではないか。
だからといって、キラーアントの群れに身を投じたくない。
究極の選択を前にして、う〜んう〜んと唸るランデル達。
「冗談だ」
フェリクス王は、そんな2人に笑いつつ空を見上げれば、番のいない野竜が数頭、優雅に飛んでいた。
先程のフェリクス王の鳴り笛で、若干遅れて来た竜もいたみたいだ。
フェリクス王が再び鳴り笛代わりの口笛を吹くと、飛んでいた内の1頭が地に降りて来た。
竜騎士となったアメリアの竜よりも、少し淡い黄色の竜……の様だけど、泥や葉がたくさん付いていて、本来の色がよく分からない。
一言で言えば、薄汚かった。




