628 散策が終わりを告げる合図
王竜も含め、莉奈への認識がオカシイ。
莉奈はムスリとしていた。
「日頃の行いじゃね?」
エギエディルス皇子が半笑いで、莉奈の肩をポンと叩く。
実際のところヴァルタール皇国は滅茶苦茶ではないが、そう錯覚するくらいに、莉奈が色々と改革し過ぎている。
過去のヴァルタール皇国が、静かなものだと感じる程に……。
「わざわざディスるために、呼んだんですか?」
何のために王竜を呼んだか知らないが、王竜が来てから悪口しか訊いていない。莉奈はもう、半目である。
「そうじゃねぇよ」
フェリクス王はそう口では否定しつつ、不貞腐れた莉奈を見てクツクツと笑っていた。
王竜をこんな場所に呼んでまで、莉奈をディスる訳がない。
「ちっこいのが、あそこで遊んでる中、そこを通るなんて面倒くせぇだろ?」
フェリクス王が、小竜が遊んでいるだろう山間に視線を向けた。
確かに、今現在、小竜はキラーアントの群れと戦っているか、戯れている。そんな場所をすんなり通り過ぎれる訳もなく、巻き込まれるのはまず間違いない。
フェリクス王達がいるのだから、命やケガの心配は無用だが、イチイチ相手をするのは面倒くさいし時間の無駄……確かにそれは頷ける。
だけど、キラーアントがどんな魔物なのかとか、どんな様子なのかとか、莉奈的には少し興味がある。
「えぇ? なら、一掃しちゃうんですか?」
「一掃しちゃうんですかって何だよ」
せっかく、小竜が遊んで……じゃない、蜜壺蟻を探してくれているのに、結局殲滅させてしまうのかと、ガッカリしていれば、エギエディルス皇子がツッコミを入れてきた。
厄介な魔物が群れでいるのだ。普通だったら、一掃してもらえば嬉しい話で悲しむ話ではない。莉奈の感覚がオカシイと、呆れていた。
「だって、せっかくーー」
「やだ、なんだかんだと結局、討伐してくれるんじゃない!! それでこそフェリクスよ!!」
莉奈の言葉を遮る様に、歓喜の声を上げたのはアーシェスだった。
あれだけやる気のなかったフェリクス王が、やっぱりモルテグルのために王竜を呼んでくれたのかと、喜んでいたのである。
だが、フェリクス王はそんなアーシェスには興味ないのか、一瞥すらせずにガン無視だ。
その代わりに再び空を見上げれば、空色と濃い青色の竜が2頭飛行していた。片方は莉奈の番である碧空の君。もう1頭はーー
「"青ちゃん"ですね」
「……青ちゃん」
竜を見たローレン補佐官が、目を細めている。
訊いていなかったが、"青ちゃん"とは、ローレンの竜の呼び名らしい。
気高くカッコイイ竜を、"黒い"のとか"白い"のと呼ぶフェリクス王もどうかと思うが、青ちゃんも莉奈的には微妙だ。
「……はぁ」
エギエディルス皇子もそう感じたのか、ため息を吐いていた。
黒いの、白いの、青ちゃん……莉奈が竜に、カッコイイ呼び名を付けるまで、まったく気にもしなかったが、竜騎士が番を呼ぶ名は誰もが適当だ。
名前を付けられるのを、竜が嫌うのだから仕方ない。
ーーとはいえ、他に呼び様はあったハズ。
なのに、今まで呼ぶ側も呼ばれる側も、適当過ぎるだろうと莉奈は改めて感じていた。
エギエディルス皇子はエギエディルス皇子で、自分の竜の名を、適当はダメだと悩んでいるみたいだ。
「王竜だけでなく、皆で討伐してくれるのね!?」
先程から、フェリクス王は一言も討伐するだなんて口にしていない。
だが、アーシェスは王竜だけでも十分過ぎるが、数が数だけに手早く片付けるため、他の竜も呼んでくれたのだと勝手に解釈して喜んでいる。
ランデル達は口をポカンと開けたまま、上を見たり地にいる王竜を見たりで、忙しそうだ。これから何が始まるのか、想像もつかないのだろう。
もはや、空気と化したアーシェスは、フェリクス王に話し掛けても、チラ見すらされない。
「お前達は、上から行くか下から行くか、どっちにする?」
フェリクス王に訊かれたランデル達。
上とはもちろん竜がいるのだから、上空を意味する。
下とは地上で、あのキラーアントの群れの中を突っ走っての移動だ。
「「「是非とも上で!!」」」
ランデル達はキラッキラの瞳で、即答。
コレを逃せば、竜の背に乗れる機会など、永遠に来ないかもしれない。
この際、フェリクス王がどこの誰かなんて問題は、優美な竜の前に吹き飛んでいた。ワクワクしかなかったのである。




