627 監督不行き届き?
フェリクス王達が竜と普通に話していれば、さすがのランデル達も何かオカシイと気付いたらしい。
「竜と意思疎通が出来るって」
「只者じゃないよね!?」
「っていうか……竜にどうこう言える立場って」
「「「竜騎士か……」」」
"王族だよな"という言葉を、ゴクリとランデル達は飲み込んだ。
竜の事をあまり知らない者でも、竜と言えばヴァルタール皇国が真っ先に頭に浮かぶ。そして、その竜を扱えるのは竜騎士と呼ばれる精鋭のみで、その頂点に立つ御方はフェリクス王しかいない。
そんな当たり前な事を知らない冒険者など、冒険者ではないと言われる程だ。
ーーとランデル達も、ココでやっとその事に気付き、アレ? と小首を傾げた。
この長身の超絶イケメン。
誰かが、フェリクスって呼んでなかった?? と。
"フェリクス"という名は、この辺りの国では特別珍しくはない名前。
だが、竜と結び付けば途端に話は別となる。
ヴァルタール皇国+竜+フェリクス=国王?
その方程式がランデル達の脳内を、もの凄い速さで駆け巡っていた。いや、グルグルと回っていると言った方が正しいかもしれない。
なにせ、そうなのでは? と過るものの、どこかでまさかなという気持ちもあり、絶賛葛藤中。
そもそも、国王陛下は王城にいるのがセオリーだ。
視察で町や他国に行く事はあっても、こんな魔物が蔓延る場所にいる訳がない。いたとしても護衛やお供が、こんな少ない人数だなんてありえない。
しかし、竜を従えられるのは、限られた者なのも事実。
そこで、ランデル達はフと思い出したのである。
ヴァルタール皇国の王には、嘘みたいな噂がある事を……。
ーーそれは、"竜よりも強い"という噂話。
竜を誓約で番としたのではなく、己の力で神竜バハムートを服従させているという、嘘か真か分からない逸話。
だが、目の前のフェリクス王を見ていると、あながちその噂も間違いではない様な気がする。
となると、この人は"国王様"で間違いないのか?
いや、まさかな……とランデル達が、まだまだ大混乱している中ーー
ーーフェリクス王は低く小さい、だが遠くまで響く様な指笛を吹いた。
「え?」
まさか、魔物を呼んでいるって事はないよね?
そう思った莉奈はビクッとして、エギエディルス皇子を見た。
「鳴り笛みたいなもんだよ」
莉奈が何を思ったのか悟ったエギエディルス皇子は、莉奈の反応に笑っていた。
魔物の死骸で、魔物を呼ぼうとする兄王なのだから、そう思われても仕方はないが、さすがの兄王でも指笛で魔物は呼べない。
莉奈はなるほどと頷いたものの、ますます疑問が浮かぶ。
"鳴り笛"とは、番が竜を呼ぶための笛。莉奈は指笛が出来ないので、普通に木で作られた小さな笛を持っている。
指か木かの違いはあるが、どちらにせよ竜を呼ぶモノだ。
ーーという事は、フェリクス王は今、竜を呼んだのである。
「「「「あ」」」」
ランデル達と莉奈の声が重なった。
ものの数分で自分達が来ていた方向の空に、黒い点が見えたと思ったら、それがアレよアレよと、大きくなってきたのだ。
その優美な姿に、ランデル達は口をアングリ開けたと思えば、子供みたいに瞳をキラキラさせてはしゃいでいる。
魔堕ちした竜はともかくとして、基本的に竜は人を襲わないという、大前提があるからだろう。
しかも、黒曜石を思わせる綺麗な鱗を持つ、唯一無二の王竜。
先程見た小竜なんかよりも遥かに、ランデル達は興奮した様子である。
それもそうだ。ヴァルタール皇国の者でさえ、間近で見れる事は滅多にないのだ。
その証拠に、来る時に王都リヨンで低空飛行した時も、市民から地響きの様な歓声が上がっていた。
あの熱気と熱狂は、莉奈の記憶にも新しい。
「「「ほわぁぁ〜っ!?」」」
王竜が、フェリクス王の目の前に降りて来れば、ランデル達の興奮は最高潮で蕩けていた。
もはや、鳴り笛で王竜が来た事は、フェリクス王がヴァルタール皇国の王である証なのだが、優美で気高い竜を前にして吹き飛んでいた。
王竜が降りて来る風圧ですら、目を細めて嬉しそうに受けている。
「何かあったのか?」
王竜が声を発すれば、ランデル達は今度は互いの肩をバンバンと叩いていた。
もはや、王竜が何をしても止まる事なく、テンションは上がるらしい。
莉奈も初めて王竜を見た時はそうだったなと、懐かしさを覚えた。あの時の興奮は今でも忘れない。
ランデル達も同様らしく、推しのアイドルでも見たかの様に、瞳をキラキラして興奮していた。
そんなランデル達を、王竜はチラッと見て、フェリクス王に視線を戻す。
「チビがいたが?」
フェリクス王は、王竜の質問に質問を被せた。
「チビ? あぁ、小さいのか」
一瞬、チビとは? と小首を傾げたが、それがエギエディルス皇子の番の事だと理解した。
ここに来る時、空から小竜が山の近くで遊んでいる姿を見たからだ。
「しっかり子守りをしておけ」
「は?」
来て早々に子守りをしろと言われた王竜は、瞠目していた。
自分の子なら、まだ分かる。だが、あの小竜は王竜の子でもなければ、血縁関係ですらない。
なのに、何故面倒を見なければならないのか、まったくもって分からなかった。
「フラフラとーー」
「待て待て待て!! 何故、我があの小さいのの面倒など見なければならんのだ!!」
面倒を見る前提で話が続いている事に、王竜は眉根を寄せていた。
「あ゛?」
「我が小さいのの面倒を見る義務はない」
「お前が統括なら、アレは管轄だろうが」
「はぁ!? それを言うなら、お主はこの娘の長ではないか。管理をしっかりせい!!」
「ふぇ?」
と何故か、莉奈にとばっちりが飛んで来た。
「お主がコヤツを自由にさせているおかげで、木はデカくなるわ、竜が美に目覚めるわ、意味もなく魔物を狩るわ、挙句には竜は喰われるわで、国は滅茶苦茶ではないのか?」
酷い言われ様だ。
「「「……」」」
皆の視線が、莉奈にブスブスと突き刺さっていた。
確かに聖木は大きくなり聖樹となったし、竜は美容液を求めたり、ネイルアートをする様になっている。
竜が魔物を狩るのは、別にどうでもイイが、竜を食べた覚えはない。
話に尾ヒレや背ビレが付き、誇張されまくりではなかろうか?




