626 自由気ままな竜
「あ、あっちにおいしそうな花がある」
暢気にダラダラ歩いている小竜に、莉奈が追い付くのは容易かった。
莉奈が小竜の隣に来れば、鳥頭では? と思わず言いたくなるくらいに、本来の目的すら忘れて、寄り道までしようとする発言が……。
莉奈は、思わず苦笑いが漏れてしまった。
「寄り道したら、陛下に怒られるよ?」
すでに、横道に逸れようとしていた小竜に莉奈がボソリと呟けば、「んぎゃあ!?」と小竜がビクリとしていた。
まさか、莉奈が隣にいるとは思わなかったらしい。
莉奈の気配すら感じないくらいに、思考は寄り道方向へと全振りしていた。これでは、フェリクス王達が危惧するのも当たり前だ。
来たのが莉奈ではなく、狩る者だったら、小竜がどうなっていたか分からない。
「キラーアント、頑張って倒してきなよ」
グギギと錆びついたブリキ人形の様に、ゆっくりとこちらを見た小竜。
放っておいても莉奈的には構わないが、一応小竜の未来のために、目的を改めさせる事にした。
このまま、また逸れればモルテグルの未来が消える前に、小竜の未来が消されるかもしれない。それでは、エギエディルス皇子が可哀想である。
「お姉ちゃんもたたかうの?」
「戦わない」
何故、莉奈が魔物と戦うと思うのか。
小竜は自分を何だと思っているのか、ちょっと問いたくなる。
「え〜?」
そして、そのブーイングも何に対してなのか、時間があったら問いただしたい気分だ。しかし、今はそこではない。
莉奈は問いたい気持ちをグッと堪えて、小竜を見た。
「キラーアントをいっぱい倒したら、また爪をキラキラにしてあげるから」
やる気がなければ、やる気になる餌を与えればイイ。
キラキラ好きの竜には、キラキラしたものである。
以前、ローヤルゼリーとポーションから作り上げた"オールインワンジェル"は、人の肌荒れを治し竜の爪をキラッキラにさせた。
それは、王宮の女子だけでなく、竜をも魅了した美容液である。
しかし、竜を含め皆は家で寛いでいる訳ではない。朝からせっせと働いているため、1か月もすれば元に戻ってしまった。
竜は何をしているのか知らないが、皆と同じくとうにキラキラ感はなく、あっという間に元通りになっている。
もう一度と言っても、ローヤルゼリーも簡単に手に入るものではないので、美容液は人も竜もご褒美であった。
「きゅるる!?」
あの特別感は忘れられなかったのか、瞳を爛々とさせた小竜がこちらを向いた。
こうなれば、後はコッチのものである。餌をチラつかせて、上手く誘導するのみだ。
「お腹に蜜を貯めた蟻を捕まえたら、さらにネイルアートもしてあげる」
そうそう、蜜壺蟻を探させる事も忘れない。
「ミツ?」
「他とは違う蟻」
蜜壺蟻と言ったところで、見た事がなければ分からないし、説明が難しい。腹部に蜜がある蟻だと言っても、蟻の腹部とはどこなのか理解出来るのかすら不安だ。
なら、他とは変わった個体だと教えれば、それがワンチャン蜜壺蟻の可能性があるかもしれない。
「他とはちがう……」
小竜は理解したのかしていないのか、首を傾げたまま不思議そうな表情をしていた。
そもそも、キラーアントがどんなものかも知らなそうだから、何が他と違うのか比べ様がないのだろう。
もう少し説明するかなと、莉奈が思ったその時ーー
ーー小竜は突如ピキンと閃いたらしく、ハッと声を上げた。
「うん! おもしろいのを探せばイイんだね!!」
「違う!!」
誰も"面白いモノ"とは言っていない。
莉奈はそんな小竜には不安しかなく、即座に否定し、改めて説明する。
「腹部がちょっと違う個体で、面白いのはーー」
「おもしろいマモノいっぱい探して来る!!」
「えぇぇーーっ!? ちょっ、違っ!」
蜜壺蟻は面白いとは絶対違う。
やる気スイッチを入れるつもりが、何か別のスイッチを入れてしまった。
「待って! 最後まで話をーー」
とその背に声を掛けてみたものの、もはや何も届かなかった。
面白い魔物などまったくいらないのだが、時すでに遅し。小竜はルンルン気分で空に溶けていた。
「……」
行く気になってくれたのだから、結果オーライと言えば結果オーライだが、結果が斜め上になりそうで何とも言えない。
「お前、アイツに何を言ったんだよ?」
「爪をキラキラにしてあげるから頑張って……?」
「あ〜」
あれだけやる気がなかった番が、気分良く空に飛んで行けば、不審に思ったのか、エギエディルス皇子が歩み寄って来た。
だから、面白い魔物の件を端折り、爪の事だけを話せば、エギエディルス皇子は何とも言えない表情で空を見上げる。
調子良いなと思ったのか、そんな事でやる気になったのかとか、色々思う事があるみたいだ。
「小竜だけで大丈夫なのかしら?」
竜の強さは確かだが、あのトボけた感じの小竜には、不安を覚えるアーシェス。
キラーアントを倒すというより遊びそうだし、何なら引っ掻き回すだけな様な気すらする。
アーシェス的には、他のマトモな竜に討伐して貰いたいらしい。
そう願いを込めてフェリクス王を見ればーー
「なら、てめぇが行け」と視線だけで、一蹴されていた。
さすがにアーシェスは押し黙るしかない。




