623 キラーアントの上位種?
「"モルトルアント"って?」
「キラーアントの上位種ですよ」
「上位種?」
「見た目は似ているんですけど、より凶暴で繁殖力が半端ないんですよ」
疑問を投げかけたら、ローレンが教えてくれた。
キラーアントよりも凶暴で、しかも繁殖力まで強いなんて、最悪ではないか。
「あれ? スーパー何とかってのもいましたよね?」
キラーアントの話をしていた時、蟻の魔物についてそんな名前が出ていたなと、莉奈は思い出した。
「あぁ、"スーパーゼセル"。種類は違いますが、もしあんなのがいたら、町どころか小さな国は終わりですよ」
まぁ確かに、億単位の群れを持つ種類の魔物なら、村や町は完全に終わりだというのも頷ける。
「見た目は違うんですか?」
「キラーアントより色が薄く、ひと回り小さい」
「なるほど?」
「で、弱い」
フェリクス王の"弱い"はまったく参考にならないので無視する。
キラーアントは基本的に黒色らしいが、スーパーゼセルは薄茶色。
色が違うなら、見間違いや勘違いでない限り、あそこにいるのはスーパーゼセルの可能性は低そうだ。
これまでの話を聞く限りでは、強さの順位は最上位がモルトルアント。
次にキラーアント、スーパーゼセル。
だが、繁殖力や群れの数は、スーパーゼセルが圧倒的な様で、いくら弱いと言っても、そんな群れで来られたら終わりだそうだ。まさに、数の暴力だろう。
ちなみに、次がモルトルアントで、1番繁殖力がないのが、キラーアント。繁殖力がないと言っても蟻だから、単位は最低百はいるだろう。
「「「え、"弱い"??」」」
莉奈が頷く横でランデル達が、こぞって眉根を寄せていた。
普通の冒険者の感覚なら、スーパーゼセルは別段弱くはないらしい。フェリクス王の言葉に、ザワついている。
ならば、彼が強いと言う魔物が現れた時、それは国単位ではなく、世界の終わりを意味するのでは?
「強さはともかく、億単位で繁殖するんですよね?」
「そう言われている……というだけですけどね」
「え?」
ローレンの曖昧な表現に、莉奈は首を傾げれば、エギエディルス皇子が笑っていた。
「んな数、どうやって数えんだよ」と。
確かに魔物が大人しく並んでいる訳がない。動き回るし、攻撃して来るのだから、数えている余裕などないだろう。おまけに、蟻の巣は地中なのだから、全貌を把握する事など誰も出来る訳がない。
だから、推定なり推測。
なんなら、見た者があまりの数に驚愕し、誇張している場合もありそうだ。
莉奈がふむふむと納得していれば、フェリクス王が悪そうな笑みを浮かべた。
「まぁ、アイツらが1番厄介なのは、数じゃねぇ」
「え?」
「稀にステルスが混じってやがる」
「「「え゛?」」」
その言葉に全員、耳を疑っていた。
"ステルス"とは何だろうかと。莉奈は、戦闘機とかでその名を聞いた事があるなと思う。
「"ステルス"って何ですか?」
よく分からないので莉奈が素直にそう訊けば、フェリクス王はさらに悪そうな笑みを深めた。
「擬態が上手い個体」
「え?」
「紛れる」
「「「え??」」」
「消えた様に見える」
「「「え゛ぇーー??」」」
皆、フェリクス王の言葉に絶句である。
姿が消えて見えるとは、どういう事か理解したくないのだ。まさか、空気みたいに透明とか? と莉奈は考えた。
そんな皆を見てフェリクス王は笑いつつ、さらに詳しく説明してくれた。
「カメレオンって知ってるか?」
「えっと、木とか葉に体色を合わせる、あの爬虫類ですよね?」
莉奈の記憶が確かなら、カメレオンは環境に合わせて体色を変化させ、敵から身を守ったり、餌を取ったりする爬虫類だ。
下手な種類もいるが、肉眼で探すのは難しいのもいる。
「そうだ。その擬態がやたら上手いのが、その変異種。ステルス種」
「「「……」」」
「景色にまで溶け込むから、まぁ面白ぇちゃあ面白ぇがな」
「「マジか」」
木や葉に紛れるなんて可愛い話ではなかった。
景色にすら溶け込むなら、もはや空気。そこにいるかすら、分からないではないか。気付いたら目の前にいて、捕食されて終わりだ。
莉奈とエギエディルス皇子は目を丸くさせていた。
「見えない敵をどうやって倒すんですか?」
ちなみに、どうやって倒すのかなと訊いてみる。
「気配」
「「……」」
いや、そんなの難易度が高過ぎると、エギエディルス皇子と莉奈は唖然とした。
人は視覚を頼りにする生き物だから、気配など早々読めるハズもない。
「まぁ、ヤツらも万能じゃねぇから、動く瞬間に少し空間が歪んで見える」
ただ、いくら擬態が上手いと言っても、動けば微妙に体色の変化に時差が生じるらしく、グニャリと歪んで見えたりするそうだ。
それを聞いたところで、莉奈はハァと気のない返事しか出来なかった。
何故なら、敵が来る方向が分かっているなら、そこをしっかりと見ていれば、空間の歪みに気付くかもしれないが、見ている方向から来るとは限らない。
そもそも1対1でもなさそうだから、見えている魔物と対峙している間に、どこからともなく距離を詰められ、ジ・エンドだろう。
これでは、1番弱いハズのスーパーゼセルが、最強ではないか。
もはや、変異種が混じれば、強さの順位など意味がないに等しい。
それ程までに、見えない敵は厄介である。
「ちょ、ちょ、ちょっと!! もし、もしもよ? それがあそこにいたとしたら?」
「ご愁傷様」
あえて、何がとは言わないフェリクス王。
言わなくてもモルテグルであり、ウクスナ公国だろう。アーシェスは動揺しまくりである。
ただでさえ、蟻の魔物は数が多いのに、見えない敵まで混じっていれば、人などどうする事も出来ないだろう。
訊いたアーシェスは、顔面蒼白になっていた。




