621 モルテグルの現状
「大体、迂回を勧めたのは、別に俺達の身を案じてでもねぇだろう?」
と捕食する気満々の莉奈の頭をグリグリしつつ、フェリクス王が鼻で笑う。
どうやら、他に事情か目的があり、莉奈達に山間を通って欲しくないみたいだ。
「「……」」
何より2人が目を逸らし沈黙した事が、そうだと雄弁に物語っている。
「身を案じてないなら何よ?」
アーシェスはてっきり、自分達を心配してくれての言葉だと思っていたらしく、眉根を寄せていた。
エギエディルス皇子達も、フェリクス王の言葉が気になり、彼を見る。
「キラーアントを狩られたら困るからだろ」
「え? 食べられたら困る?」
ーーパシン!
莉奈が真剣な表情でそう返せば、フェリクス王に頭を軽く叩かれた。
確かに大切な食料を取られたら大変だ。だから、迂回を勧めたのかと思ったのだが、どうやら違うらしい。
「キラーアントを町の防壁として、利用してるんだろうよ」
「マジか」
フェリクス王が半目でそう言えば、エギエディルス皇子が目を丸くさせていた。
確かに、町への道に何も障害がないより、あった方が有利だ。魔物なら、討伐されようが実害はない。だから、キラーアントがそこにいるのを知っているが何もせず、防波堤の役割をさせているみたいだった。
「なるほど?」
だから、数を減らされたら困るのだろう。
それで侵攻が止まるならアリかなと、莉奈は頷いていた。
しかし、ローレン補佐官はそうは思わないのか首を傾げている。
「キラーアントって、そんな簡単に扱えます?」
ただでさえ、魔物を使役する事は難しいのに、昆虫系は無理だとローレンは言う。
「だよな。数の制御もしにくいし」
「諸刃の剣過ぎるよね」
ランデル達も、そのやり方にザワついていた。
魔物を利用するのはままあるが、繁殖力が強く使役しづらい魔物は逆に危険である。
竜みたいに命令出来るのは論外だとしても、利用するなら強者に近づかない様な魔物を、使うのがセオリーだ。
なのに、昆虫系は無茶苦茶過ぎないかと、皆は考えている。
「手段を選ぶ余地はねぇって事だろ」
「そこまで、モルテグル……ウクスナがヤバいって事!?」
「じゃねぇの?」
フェリクス王が面白そうに笑っていれば、アーシェスが真っ青な表情で声を上げていた。
手段すら選べない状況が、想像以上だったらしく、驚きを隠せなかったみたいだ。
「「……」」
そう話していたら、2人がさらに押し黙ったのだから、フェリクス王の言葉は正解の様だった。
キラーアントを狩っても構わないのなら、言葉を濁す必要はない。注意勧告くらいで済ませればイイ事だ。
ましてや、見るからに強者のフェリクス王に、危険だから近寄るなとは言わない。彼等の言動がすべての答えだったのである。
「キラーアントって、町は襲わないんですか?」
町や村が壊滅させられる事もあると言っていたが、それがキラーアントとは言っていなかった様な気がする。
なら、大丈夫なのかなと、莉奈は思った。
「いや、近くに民家があれば、普通に襲う」
「雑食だし」
恐ろしい事実をシレッと教えてくれたのは、フェリクス王兄弟である。
民家があれば襲いに来るし、なんなら人を捕まえて巣に連れ去るそうだ。
「しかも、蟻系の魔物って、防壁が役に立たないんですよね」
追加情報をくれたのはローレンだった。
蟻は地中に巣を造る魔物なので、地上にある防壁はあまり意味がないらしい。
ただ、幸いな事に頭はそんなに賢くないらしく、わざわざ狙って地中から攻めて来る事はないそうだ。
あっても、たまたま巣を造っている蟻系の魔物が、町の下にまで巣を伸ばしていて、運悪く遭遇するだけ。
「そうそう。アイツらお構いなしに、仲間の背中に乗ったりもするから、防壁なんて軽々越えて来るんだよな」
ランデル曰く、前のキラーアントが防壁の前に止まっても、人と違って順番待ちなんてしない。だから、そこでウロウロする仲間を、何も考えずに踏み付けて、次々と登って来るから厄介だと教えてくれた。
「繁殖期は羽根が生えるから、地獄じゃねぇか?」
フェリクス王がさらに補足情報をくれるから、莉奈は驚くばかりである。
キラーアントは蟻系の魔物であるので、蟻と生態は似ているのか、繁殖期には相手を探すため、羽根を生やして飛行するみたいだ。
陸空海ならぬ、陸空地中。キラーアントは最強ではないか。
「……え、モルテグルは大丈夫なんですか?」
今から向かう町が、どれだけの兵力があるかは知らない。
だが、空や陸だけでなく、地中からも攻められたら、フェリクス王の言う通り地獄だと莉奈は思う。
「さぁ?」
莉奈が訊けば、フェリクス王は知らんとばかりに、ジンとレイを見る。
現状調査に来ているのだから、フェリクス王が知らないのは当たり前だ。むしろ、こちらの2人の方が詳しいだろう。
「「……」」
素性も知らないフェリクス王達に、そこまでいう必要もないと考えたのか、2人はダンマリである。
ただ、そこまで深く考えていなかったのか、話を聞いて徐々に青ざめていた。
「いや、普通にヤバいだろ」
黙った2人はともかくとして、エギエディルス皇子が素直に感想を述べた。
通常、蟻の活動範囲はそこまで広くはない。だが、キラーアントは魔物なのでサイズが大きい。大きいって事は、それだけ活動範囲が広いのだ。
なら、人が歩いて半日で着く程度の距離なら、餌を求めて迷い込む可能性は充分あるだろう。
しかも、繁殖期は飛行するのだから、さらに活動範囲は広域になると思われる。キラーアントは雑食だというし、人の集まる町なんて、恰好の餌場ではなかろうか?




