616 "からあげ"?
「私のからあげ〜」
私のウルッシュバードが、一目散に逃げて行く。
まだ"食用"と決まった訳ではないのに、莉奈のレーダーは食べられると判断していた。せっかく食材を見つけたのだから、一羽くらい欲しい。そう思い追いかけ様とした莉奈の足先に、何かが触れた。
見ればウルッシュバードである。
走り去るウルッシュバードばかりに気に取られていたが、周りには先程まで旅人達と戦って敗れたウルッシュバードが、点々と転がっているではないか。
遠くの方に見えているものを、今から追いかけても、倒せる数などたかが知れている。
……ならば?
「あの、すみません」
「え? あ、なんだ?」
何が起きたのか、まだ理解出来ていなかった旅人達は、身体をビクリと震わせる。
逃走して行くウルッシュバードに、怒っていた莉奈が突然こちらに振り向いたので、反射的に悲鳴を上げるところだった。
彼女は普通に可愛い子だけど……やっている事が普通じゃない。莉奈の可愛さが、逆に怖さに拍車を掛けていた。
だが、不審がられている事など露知らず。莉奈は至ってマイペースだ。
「このからあげ、少し分けて頂きたいんですけど」
「「は? "からあげ"?」」
「あ、違う。鶏肉」
「「"鶏肉"!?」」
確かに、ウルッシュバードは鳥であるから鶏肉であるが、その死骸を見て鶏肉と言う莉奈に、旅人達は目を丸くさせていた。
だが、仕方がない。今の莉奈は、からあげの事で頭がいっぱいだった。なので、ウルッシュバードを見て出てきた言葉は、"からあげ"や"鶏肉"だった。
「えっと、鳥の肉?」
可愛らしく首をコテンと傾け、莉奈が口にした言葉は、一周回って同じ言葉であった。
この鳥の魔物には、"ウルッシュバード"という立派な名前があるのだが、莉奈は食う事しか頭になく、まったく名前が出てこない。
「「……」」
旅人達は顔を見合わせていた。
ウルッシュバードをからあげや鶏肉と言う人に、出会った事はない。
なんなら、これからも会う事はないだろう。
「コイツにはウルッシュバードって名前があるんだから、ちゃんと呼んでやれよ」
可哀想に……と追い掛けて来たエギエディルス皇子が、莉奈の背後で呆れていた。
いつの間にか側にいたエギエディルス皇子に一瞬驚いたが、彼は莉奈よりも遥かに魔法を使える。莉奈が豪神ナックルダスターで超瞬足になるみたいに、魔法を使って追って来たのだろう。
「すみません、ウルッシュバードを少し頂いてもよろしいですか?」
「無視かよ」
エギエディルス皇子の言葉をスルーして、莉奈は旅人達に改めて訊いた。
今はエギエディルス皇子より、ウルッシュバードである。
「え?」
「コレが欲しいのか?」
自分達をも倒しに来た様な莉奈が、地面に転がっているウルッシュバードを欲しがっている。
旅人達は、本気で欲しがる莉奈に訝しげだ。
「ダメですか?」
と悲しそうな声を上げる莉奈に、旅人達は顔を見合わせていた。
突如現れた莉奈に、そんな事を言われても、頭が処理しきれないのだ。
「いや、まぁ……別にイイけど」
「好きなだけ持っていってくれ」
欲しくて倒した訳じゃない。襲って来たから、仕方なく相手をしたまでだ。
なので、持って帰る気などサラサラなかった。
莉奈は、好きなだけと言われ瞳を輝かせると、両手を天高く挙げた。
「やったーーっ!! ありがとうございます!!」
逃げられガッカリした分、喜びもひとしおである。
莉奈は歓喜の声を上げて、早速ウルッシュバードの回収を始めたのであった。




