613 莉奈のいう気配とフェリクス王の感じる気配
結局、ランデル達は拾い集めたウルッシュバードの羽根を、すべて莉奈にあげる事にした。
莉奈が欲しがっているなら、羽根くらいあげてもイイかなと……。しかし、そのお礼に生キャラメルや飴やら色々とくれるから、ランデル達の頬は弛みに弛み、テンションは爆上がりである。
「羽根を拾い集めただけで……イイ気なものよね」
そう呟いたのはアーシェスだ。
ランデル達はウルッシュバードを狩った訳ではない。落ちていた羽根をただ拾っただけだ。なのに、お菓子を貰えるだなんてとブツブツと。
「お前もな」
そんなアーシェスを見て、呆れているエギエディルス皇子。
何故なら、そう口で漏らすアーシェスも、莉奈に羽根を渡してお菓子を貰っているのだ。言ってる事とやってる事が、まったく逆である。
「でも、まぁ……リナのお菓子を食べられる機会は、そうそうないですからね」
ローレン補佐官は苦笑いしていた。
王城に住む王族はもちろん、ローレン補佐官は莉奈の料理を口にする機会はあるが、王都にいるアーシェスはあまりないだろう。
ましてや、ランデル達は今を逃せば、莉奈に会う機会すらない。
なら、こうなっても仕方がない事だとローレンは思う。
「フェル兄、どうかしたのか?」
先程まで岩に腰掛けていた兄王が、ウルッシュバードが去った方向を見ていた。
何が気になるのかと、エギエディルス皇子も同じ方向を見たが、土煙くらいしか見えなかった。
「人がいるな」
「え?」
あの土煙の中に?
まさかと思ったエギエディルス皇子は、改めて地平線に見える土煙に目を向けた。
しかし、頑張って目を凝らしても見えるのは、先程自分達を無視したウルッシュバードの姿が、豆粒か点の様に小さく見えるだけだった。
莉奈も同じく目を凝らしたところとて、エギエディルス皇子同様、土煙かウルッシュバードの姿がやっとである。
どこに人の姿が見えるのだろうか?
「え? 魔王とまでなると、目まで化け——」
ーーパシン!
化け物と言いかけた莉奈の頭は、当然フェリクス王によって叩かれた。
だが、そう言いたくもなる。
正直なところ、土煙でウルッシュバードの姿すらハッキリとは見えないのだ。
先程ウルッシュバードとすれ違ってなければ、何だアレ? である。ましてやその大群の中に、人がいるかどうかなんて分かるハズもない。
なのに、フェリクス王はそこに"人"がいると言ったのだ。一体、どんな目をしていたら、あんな遠くまで見えるのか。
莉奈は驚くと同時に、さすが魔王様と納得すらしていた。
莉奈が勝手に納得していれば、小さなため息が聞こえる。
「"気配"」
目視した訳ではなく気配を感じるのだと、フェリクス王は言う。
なるほど、魔王ともなればあんな遠くの、人の気配まで分かるのか。
「あ゛?」
莉奈は何も言わずとも顔に出ているらしく、今度は睨まれた。
慌てて何でもないとばかりに視線を逸らしつつ、改めてフェリクス王の凄さに感服する。
だが、それも束の間、すぐに辺りをキョロキョロと。
「あ、ちなみに食べ物の気配はありますか?」
「あ゛?」
「食べ物の気配って何だよ!?」
何を言い出したとフェリクス王が片眉を上げた隣では、呆れたエギエディルス皇子がすかさずツッコんでいた。
食べ物に気配も何もないだろうと。
百歩譲って、この近くに町があるならまだしも、このだだっ広い草原で食べ物の気配など、する訳がない。
「脂ののってそうな鳥とか、肉付きが良さそうな魔物?」
「……」
瞳をキラッキラに光らせて言う莉奈に、フェリクス王は何も返す言葉が浮かばない。
それは、どんな気配だ。
フェリクス王は逆に問いたいくらいである。
「魔物を食べ物とか言ってんじゃねぇよ」
エギエディルス皇子は再びツッコんでいた。
食べられる魔物も確かにいるが、魔物はどう転んでも魔物だ。魔物を食べ物と言うのは、この世界でただ一人、莉奈だけである。
もはや、莉奈には、出くわす魔物がすべて食べ物に見えるらしい。
「「「……」」」
そのやり取りに、ローレン補佐官やアーシェスは微苦笑し、ランデル達は顔を見合わせていた。
さっきのウルッシュバードは、ひょっとしなくてもリナを見て逃げたのでは? と。




