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聖女じゃなかったので、王宮でのんびりご飯を作ることにしました  作者: 神山 りお


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61 カリカリが堪らない塩からあげ



 身の危険はさておき、からあげが揚げ終わった。バットに揚げた鶏肉を全部のせ、塩を軽く振りかける。

 塩は鶏肉に揉み込んだり、衣自体に入れたりと好みが分かれる所だが、鶏肉本来の味を楽しむために、最後に振りかけたのだ。胡椒は好みでかければいい。

「さて、毒見」

 莉奈にとっては "味見" なのだが、正当な理由があった方が食べやすい。皆の痛いくらいの注目を浴びながら、莉奈は出来たてホヤホヤ、久しぶりのからあげを一口。



 ーーカリッ。



「はふっ」

 出来たてアツアツのからあげを、ハフハフと食べるのは格別だ。

 周りはゴクッと生唾を飲む音だけが響く。

 久々のからあげは上出来だった。衣はサクッと中は鶏肉のスープが出るくらいジューシーだ。完璧。

「エド、はい……あ~ん」

 からあげをもう一つ摘まむと、今度はエギエディルス皇子の口元に持ってみせた。普段のエギエディルス皇子なら、ふざけるな…と怒りそうだが、からあげの誘惑には勝てず素直に口を開けた。

「はふっはふ」

 アツアツなので、口を手で抑えながら食べ始める。

 だが、衣を噛んだ瞬間カリッと音がし、エギエディルス皇子の目が驚きの表情で見開いた。

「……っ!!」

「エディ……? 美味しいのですか?」

 シュゼル皇子が訊いてはみたが、エギエディルス皇子は目を瞑ったまま、一人からあげを堪能していた。

 話すと、口から美味しさが逃げる気がして開けたくないし、黙って至福の時を味わいたいのだ。


「ふぅ~」

 エギエディルス皇子は、からあげを堪能したがすぐに食べ終わってしまい、莉奈を仔犬の様に見上げた。

「美味しかった?」

 顔を見れば一目瞭然だが、一応訊いてみる。

「すげぇ旨い!! こんな料理初めて食った!!」

 ピョンピョン跳びはねそうなくらい喜んでいた。

「周りがカリカリしててすげぇ旨いし!! 中の肉が柔らかくて旨いエキスがいっぱい出てきた!!」

 余程 からあげが気に入ったのか、どのくらい美味しかったのかを作った莉奈に身振り手振りで教えてくれた。



 その可愛いさに莉奈は、萌えた。

 それをバレないよう必死で堪えていた。



 色んな感情を堪えつつ、残り4個となったからあげを小皿に盛りつけていると、横から可愛らしい声が一つ。

「リナ。はい、あ~ん」

 シュゼル皇子が、口を開けていた。



 …………おふっ。



 ……この兄弟……。



 私をキュン死させる気か……!!



「では、どうぞ?」

 萌え苦しみつつ、グッと堪え、莉奈はニコリと微笑み、からあげを一つ口に運んであげた。

「はふっはふ」

 まだ、アツアツなのかシュゼル皇子もハフハフさせていた。

 その様子を、皆、固唾を飲んで見ていた。なんだったら小窓からチラリとイベール、タールの二人も見ていた。シュゼル皇子の行動にいろんな意味で驚いていたからだ。

 食べ物に興味がなかった、あのシュゼル皇子が自ら欲しがるだけでなく、くれと口を開けたからだ。今までの彼なら、絶対にありえない行動である。


「……ふぅ~」

 生まれて初めて食べたからあげに、シュゼル皇子は御満悦の様である。

「鶏肉……美味しいのですね。肉を初めて美味しいと感じました」

「それは、良かったですね?」

 そもそも、食べ物っていう食べ物を、食べてこなかったのでは?と言いたい。

「なぁなぁ!! 残りどうするんだ?」

 瞳は欲しいと言っている、エギエディルス皇子が訊いてきた。

「まずは、陛下に献上? 献呈しなきゃ、いけないんじゃないかな?」

 と、いうか……そのつもりで作った訳だし。

 まずは、肉好きのフェリクス王に味見させて、アイスクリームを作らせる撒き餌……もとい、誘うための手段…的な?

「もう1個欲しい」

 エギエディルス皇子は、余程気に入ったのかそう言った。

「「「………………っ!」」」

 その瞬間、一部の料理人が時と場所を忘れ、エギエディルス皇子を怨めしそうに睨んだ。"恨めしそう"ではなく"怨めしそう"にだ。

 もはや、そこには怨念さえこもっていた。



 エド……気を付けて帰るんだよ?





 そう言いたくなる様な、ドス黒い何かを莉奈はヒシヒシと感じていた。






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