606 お酒の魔力
「どんな味がするのかなぁ」
ほのかに甘くて美味しいと、表記されていたのだ。
飲めないお酒に興味などない莉奈は、その実の味の方が気になる。
ーーバキッ。
小さく呟いた莉奈の隣で、硬い石が割れる様な奇妙な音がした。
「え?」
奇妙な音のした方を見れば、莉奈の目の前にパッカリ半分に割れたウルッシュヴィードの実が……。
「食いたいんだろ?」
「え、あ、はい……ありがとうございます?」
莉奈はお礼を口にしつつ、首が少し横に傾いた。
さっきこの実を【鑑定】した時、外皮は強固だと表記されていた様な……。
はて? 彼は今、何か道具を使ってこの実を割っていただろうか?
「あ゛?」
「いえ、ありがとうございます」
そう思った莉奈が思わずチラ見すれば、フェリクス王が片眉を上げた。
"人の力"では難しいとも表記されていた気がしたが、フェリクス王を人という狭い枠に入れる事が、そもそもの間違いなのだろう。
やはり魔王だなと思いつつ、莉奈は再びお礼を言って、割ってくれた実を食べる事にした。
ーーカリカリカリ。
少し淡い緑色をした実は、勾玉みたいな形をしていて面白い。
アーモンドよりひと回り大きい実で、中に円を描く様に並んでいる。
口に放り込むと、ふんわりと甘い香りがした。
硬さや歯応えはマカダミアナッツに似ていて、味は胡桃に近い感じ。莉奈的には胡桃より、こっちの方が好みだった。
生のままでも十分美味しいが、軽く炒った方が香ばしくなって、より美味しい気がする。
砕いてパンやクッキーに入れたり、粉にして小麦粉と混ぜれば、香り豊かなお菓子が出来そうだなと、莉奈はカリカリと食べていた。
「味はともかく、鼻に抜けるこの香りはいらねぇな」
莉奈の持つウルッシュヴィードの実を、横からヒョイッと取り齧ったフェリクス王は、眉間に皺を寄せていた。
甘さはそこまで気にならないものの、口にするとほのかに鼻に抜けるこの甘い香りが、お気に召さないらしい。
「お酒にすると、この香りはどうなるのかしらねぇ」
莉奈からウルッシュヴィードの実を貰ったアーシェスが、軽く匂いを嗅いでいた。
フェリクス王は好きではない香りでも、アーシェスには気にならない様だ。
「発酵すると変わる場合もありますからね。それは出来てからのお楽しみという事で……」
加工していない実より、コレから出来るであろうお酒の方に興味があるローレン補佐官は、未来に思いを馳せている。
「あのぉ〜そのお酒って、出来たら売って貰う事って可能ですか?」
あの実から酒を造ろうとしていると知り、興味が湧いたマリサは、おずおずとフェリクス王に訊いた。
彼が新たに造ろうとしている酒は、材料を知ったところで伝手がなければ造れない。
だが、伝手があっても造ってくれるとは限らないだろう。何故なら、酒造りは時間と労力が必要だからだ。
しかも、その資金は誰が用意するのか……という話になる。
ならば、造ろうとしている人から売って貰えばイイ。
そう考えたマリサは、フェリクス王に話を取り付けておこうとしたのである。
そんなマリサを見てフェリクス王は、意地悪そうな笑みを浮かべた。
「アルコービヴィードの実を見つけてくれば、タダにしてやる」
「「マジか!」」
その言葉に即座に反応を示したのは、訊いたマリサではなく、ランデルとハービスである。
いつもは、高額報酬目当てに依頼を受け、その報酬の大半は物ではなくお金だ。それが悪い訳ではないが、上位ランクの冒険者ともなると、余程の強敵や難敵でない限り、作業みたいな感覚に陥る。
だが、コレは希少種探し。中々の難易度の高い依頼だ。
情報を持ち合わせていないため面倒ではあるが、報酬が自分達の欲しい物となれば、今までにないくらいにワクワクした。
ちなみに、登録した冒険者ギルドによっては、中間マージンの取れない個人取引きを禁止している所もあるらしいが、話を聞いている限り、ランデル達の所は大丈夫なのだろう。
もう貰えると算段しているらしく、未知なる酒に目が爛々としている。
「モルテルグに着いたら情報収集だな」
「冒険者仲間にも訊いてみるか」
「久々にワクワクするね!」
旅の疲れも一気に吹き飛んだランデル達なのであった。




