601 わざわざ呼び寄せなくても結構です
「う〜ん。スッキリ!」
莉奈は身体を軽く動かし、伸びをする。
時間にしてものの30分くらいだったと思うけど、身体が休まったのかスッキリした目覚めだった。
時計がないから分からないが、フェリクス王を見ている限り、まだ休憩していても良さそうだ。
「何食べるんだ?」
魔法鞄をゴソゴソしていたら、いつの間にか隣で寝ていたエギエディルス皇子が見ていた。
間違っていないから反論出来ないけど、莉奈が魔法鞄をあされば、すぐ食べ物と結び付けるのはヤメて欲しい。たまには、違う物を出す事もあるから。
「アイス」
目覚めには、サッパリしたフルーツ味のアイスキャンディーを、何となく食べたいなと思ったのだ。
「俺にもくれ」
エギエディルス皇子が小さな手を伸ばす。
寝起きの喉の渇きを、アイスキャンディーで潤したいのだろう。
エギエディルス皇子にフレーバーを選ばせていれば、アーシェス達もわらわらと集まって来た。
「普通に水を飲むより、こっちの方が疲れが吹き飛ぶ様な気がするんだよなぁ」
「分かる。何でだろう?」
「冷たくて美味しいからじゃない?」
ランデル達が楽しそうに、アイスキャンディーを齧っていた。
ただの水分補給より、こっちの方がリフレッシュするらしい。
ちなみに、甘い物に興味のないフェリクス王は、王スライムに座って優雅に紅茶を楽しんでいる。座り心地の良さに、もはやスライムだとか気にしない様だ。
「「のどかだな〜」」
時折り小鳥が、チュンチュンしているだけで、ウルッシュポッドの木の周りだけはのどかだ。
シャリシャリとアイスキャンディーを食べながら、ランデル達ももう一息吐くのであった。
「ところで、その死骸は処理しないんですか?」
肉塊と化したキラーホーンエイプは、誰にも片付けられる事もなく放置してある。
なるべく見ない様にしていたが、どうしても視界の隅に入るので、気になって仕方がない。
何か理由があってその場に留まるなら、魔物や動物の死骸は燃やすか埋めると、訊いた事がある。でないと、血の匂いを嗅ぎ付けた肉食獣や魔物が寄って来るからだ。
長時間放置し、そこに留まるなんてまずありえない。
当然、ランデル達も気にしていたが、討伐したフェリクス王がそのままにしておけと言うので、不気味な死骸はそのままである。
気になっていたところで莉奈が訊いてくれたので、一斉にこちらを見ていた。
だが、フェリクス王の予想外の返答に、皆は唖然となる。
「魔物を呼ぶ餌にする」
「「「は?」」」
莉奈達は、耳を疑った。
この御方は何を今、ホザ……おっしゃいましたか? と。
聞き間違いでなかったら、フェリクス王は"魔物を呼ぶ餌"にすると口にした気がする。
見間違いなら目を擦るが、聞き間違いはどうしたらイイのか?
莉奈は耳を擦る代わりに、近くにいたエギエディルス皇子を見た。エギエディルス皇子は、可愛い目を丸くさせている。
……という事は、聞き間違いではない。
「餌にするって……今ここで!?」
真っ先に覚醒したアーシェスが、驚愕の声を上げる。
魔法鞄にしまう様子がないのだから、ここに魔物を呼ぼうとしているのだ。
せっかくの平穏な旅なのに、"わざわざ"。
遭遇しない方がイイに決まっているのに、何故魔物を呼び寄せる必要があるのだと、アーシェスは猛抗議する。
「道中、まったく魔物の相手をしてこなかったし、つまらねぇだろう?」
うん? つまらないって何だろう。
イブガシアンやらマルガイラやら、それなりに魔物と対峙したと莉奈は思うのだが……フェリクス王、それはノーカンですか?
どうやらフェリクス王は、手ごたえのない魔物との対峙は消化不良らしく、不満しかないらしい。
でも、まだ旅は続く訳だし、わざわざ呼んでまで魔物と対峙しなくても大丈夫だと思っているのは、莉奈だけじゃないハズ。
「魔物相手に、つまらないとか楽しいとかないわよ!!」
「ただ歩いているだけじゃ、身体も鈍るだろう?」
「鈍らないわよ!!」
歩きに歩いているのに、身体が鈍るも何もない。
そもそも、我々は素材目的の冒険ではないのだ。なるべく魔物と対峙しない様に目的地に着きたいと願うのが普通である。
このまま平穏無事に着きたいのに、何故呼ぶのか。
フェリクス王はどうかしていると、莉奈達の心を代弁したかの様にアーシェスが反論していた。
そのやり取りに、ランデル達は唖然としている。
彼等もまさか、フェリクス王が魔物を呼び寄せるために、死骸を放置しているとは思わなかったらしい。
「エド、今のうちにアレ燃やしちゃいなよ」
「……」
魔法鞄にしまうにしても、アレを触らないといけない。
毛皮まで剥ぎ取られたキラーホーンエイプは、なんだか気持ちが悪いので、莉奈は極力触りたくなかった。
なので、アーシェスと揉めている間に魔法で燃やしてと、エギエディルス皇子に提案したのだが、眉根を寄せたまま無言である。
勝手にそんな事をしたら兄王に睨まれると想像し、エギエディルス皇子は無言なのかもしれない。
ーーギャァ、ギャァ。
どうしたものかと莉奈が唸っていれば、遥か上空には血の匂いを嗅ぎ付けたマルガイラが数体旋回し始めていた。
「えぇ〜、マルガイラはもうイイんですけど」
魔物を相手にするテンションではない莉奈は、空を飛び回るマルガイラを見てウンザリする。
あ〜どうせ来るなら、からあげにすると美味しい魔物にして欲しい。




