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聖女じゃなかったので、王宮でのんびりご飯を作ることにしました  作者: 神山 りお


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599 回収作業の後に待っていたのは?



 ブツブツと文句を言っているアーシェスの前に、麻袋がポトリと落ちた。

「え、何?」

「それにドンドン詰めて下さい」

「え」

「足りなければ追加しますんで」

 麻袋をアーシェスの前に落としたのは、莉奈だった。

 麻袋を見て何か言いたげに、眉根を寄せているアーシェスを無視し、莉奈はウルッシュポッドの実を麻袋に、流し込んでいた。

 もはや文句など後回しだ。この回収作業が終わらない限り、この土で出来たすり鉢からは、絶対に出してもらえないだろう。

 何か果物や野菜でもあったらと、持って来た麻袋だが、ここでこんな風に役に立つとは思わなかった。

 アーシェスが麻袋を見たまま固まっていれば、ランデル達は先に貰っていたのか、一心不乱に袋詰め作業をしていた。

 ローレン補佐官も無言の回収作業だ。エギエディルス皇子も動かせる範囲内で、諦めた様子でいそいそと麻袋に詰めている。



「はぁぁ〜っ」

 なんでこんな事を……。

 一番埋まっているエギエディルス皇子が一生懸命やっているのに、アーシェスがいつまでも文句を言う訳にはいかない。

 深い深いため息を吐き、渋々麻袋を手に取るのであった。




 ◇◇◇




 ーー黙々と回収作業をする事、約30分。




 1時間は掛かると思われた作業だったが、誰一人としてサボらなかったおかげで、大幅な短縮が出来た。

「陛下ぁ〜終わりましたよ〜」

 精も根も疲れた莉奈がそう伝えれば、魔法で出来た土の壁がシュンと消えた。

「「「おぉォォーーッ……うぇ?」」」

 ランデル達は、単純作業に疲れていた上に、魔法壁が一瞬にして消え去った事に感動していたので、莉奈が思わず"陛下"と漏らした事にまったく気付いていなかった。

 さらには、すぐ目の前にある光景に驚き、目と口があんぐり開く。



「ご苦労」

 と言葉で労いつつも、遅かったなとフェリクス王の表情はそう言っている。

 いや、これでも頑張りましたよ? と文句を言いたいところだが、色々気になり過ぎて文句が出ない。

 長い脚を組んで優雅に座っているイスは、先程自身で片付けたイスだろうが、そんな事よりーー

 皆の視線はフェリクス王ではなく、彼の背後に積んであるモノに釘付けだった。

「何ソレ?」

 皆が唖然としている中、まったく状況を把握出来ない莉奈からは、疑問の声が自然と漏れた。



「お前等を待っている間、暇だろ」

「うん? 暇??」

 そうですねと素直に頷けない莉奈の首は、横に傾いたまま動かなかった。

 暇ならそんな事をするよりも、コチラの回収作業を手伝えば良かったのでは? と思わなくもない。

 だが、フェリクス王の後ろにあるモノを見たら、回収作業に勤しんでいた方が楽だった気もする。

 怒るに怒れない莉奈。

 文句を言おうとしていたアーシェスでさえ、だんまりである。

 何故なら、フェリクス王の後ろに積み重なる様にしてあるモノは、魔物だった。



【キラーホーンエイプ】

 別名ヴィースルゴリラ。

 主にヴィースル大草原に棲息している好戦的な魔物。

 自身の胸を叩くドラミングで、相手の出方を見ていると言われている。

 力強い打撃と、両角から繰り出す雷魔法は、非常に強烈である。



 〈用途〉

 角や毛皮は、武器防具や装飾品として使用可。

 極稀に魔石を保持している。

 その魔石と角を合わせ武器を造ると、雷魔法を付与させる事が出来る。

 角は外側の固い部分を剥ぎ取り、内側を粉末にすると生薬となる。



 〈その他〉

 肉質は固く、臭いがキツイため食用には向かない。

 基本的に単独行動はせず、群れをなす魔物。




 象くらいの大きさの巨大なゴリラは、莉奈の知るゴリラと違い、バッファローみたいな立派な角を、頭の横に左右2本生やしていた。

 それが5体程、取り込んだ洗濯物の様に積み重なっている。

「なんだ、食べられないのか」

 どうせなら、報酬は食用可能な魔物にしてよと、莉奈はボヤく。

 そんな莉奈に、呆れ顔のエギエディルス皇子。

「戦うなら、呼んで下さいよ」

 フェリクス王の戦う姿を見たいのに、ほとんど見れていないローレン補佐官。

 もはや、嘆きの声を上げていた。



「ねぇ、それ、魔石は持っているの?」

「知らねぇ」

 実の回収で疲れていたが、その疲れさえ吹き飛ぶ報酬に、アーシェスが堪らず訊けば、フェリクス王の返答は適当だった。

 一般的な冒険者と違い、素材目当てで討伐していないのが分かる返答である。

「あったとして、その魔石は貰っていいのよね?」

 イブガシアンの魔石は貰えずじまいだった。

 なら、せめてキラーホーンエイプの保持する魔石くらいと、アーシェスは目を輝かせる。



「そいつ等と相談しろ」

「え?」

「俺達?」

 突如、自分達の名が上がり、ランデル達は己を指差した。

 実を回収したので、ちょっと休憩させてもらえればと思っていたところに、降って来た話。

「報酬」

 かったるそうにフェリクス王は言った報酬とは、当然ウルッシュポッドの実の回収作業に対しての事だろう。

「魔石があったらラッキーよね」

 アーシェスは目が爛々としていた。

 その魔石を埋め込んだ武器にすれば、雷魔法を付与した高額な武器となるだろう。

 アーシェスの頭の中にある計算機が、パチパチと調子良い音を立て始める。



「貰ってイイんですか!?」

 実の回収作業にしてこの報酬は、多過ぎるなんてものではない。

 ただでさえ、貴重な魔物を食べさせて貰っているのに、この素材という報酬。

 マリサは驚きのあまり、目をパチクリさせていたが、ランデルは早々に行動に起こしていた。先に動いていたアーシェスを押しのけて、解体に参加……いや、参戦していたのだ。

「何するのよランデル!!」

「悪ぃな。こちとら、3人分の報酬なんでね」

「はぁ? あなた達は実力があるんだから、自分達で狩りなさいよ!!」

「それはソレ。あぁ、そうだ。お前にはコイツの毛皮やる」

「そんな物はいらないわよ!! コイツの毛皮なんて処理や加工が面倒な上に、他の魔物と違って大して需要がないんだから!!」

「それを何とかするのが、武器防具屋の手腕だろ?」

「それを言うなら、あなた達は冒険者なんだから、武器より技量で魔物を倒しなさいよ」

 口喧嘩や押しのけ合いをしながら、ランデルとアーシェスは手際良く、キラーホーンエイプを次々と解体をしている。

 どうせ貰うなら、高く売れる素材が欲しいアーシェス。

 武器防具に利用出来る素材が欲しいランデル。

 どちらにせよ、目当ての素材は角と魔石で一致している。角はともかく、魔石があったら相当モメるなと、莉奈は空笑いが漏れるのであった。






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