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聖女じゃなかったので、王宮でのんびりご飯を作ることにしました  作者: 神山 りお


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59 被り物のネコは破り捨てました



「……すみません……フェリクス陛下」

 莉奈は、意を決して他人事の様に寛いでいる、フェリクス王に話しかけた。

「………………」

 その問いかけには何も返事もせず、ただ無言で莉奈を見た。

 そして、面白そうに口端を上げ笑う。



 ……クソったれ!!



 絶対、私がどうでるのか楽しんでやがる。



「フェリクス陛下は、これでかき回して下さい」

 無言で見るフェリクス王の前に、大きなヘラを差し出した。

「………………」

 それをチラリとは見たが受け取ろうとしない。テーブルに肘をつき、長い足を優雅に組みつつ、さらに無視するフェリクス王。莉奈がどうでるか、完全に傍観する事に決めたらしい。

 


 ……殴りた~い。

 許されるのなら、その頭殴りた~い。



「リックさーん!!」

 殴る訳にはいかないので、他の方法をとる事にした。

「……ひぃっ……!?」

 小窓から莉奈の様子を、ヒヤヒヤしながら覗いていたリック料理長は、急に声を掛けられ怯えた様な声を上げた。まさか、この恐ろしくもある空気の中、自分に話が振られるとは思わなかったのだ。

「小鍋でいいから、油を10㎝ぐらい入れて温めといて?」

 なんつー声を出すのかと思いつつ、莉奈はリックに頼んだ。

「……は、はい」

 リックは莉奈が、何をしようと考えているのかは分からないが、いそいそと指示された通りにやり始める。


「油なんか温めてどうするんだ?」

 いきなりそんな事をやり始めた莉奈に、エギエディルス皇子は不思議そうに訊いた。そして急に神妙になると……。

「……お前……まさか……」

「ん? まさか……?」

「煮え油をフェル兄にかける気じゃ……!?」



 ーーーガツン!!



「……いってぇ!!」

「かけるかーーー!!」



 王どころか、人にそんな物かけるかーーー!!

 


 莉奈は、被るはずだったネコを完全に破り捨て、バカな事を言ったエギエディルス皇子の頭を、グーで殴っていた。



 末恐ろしい子だ。

 煮え油をかけるなどと云う発想。

 そして、それを私がするかもと云う懸念。

 フェリクス王がいようが、シュゼル皇子がいようが、教育的指導はさせてもらいます。



「お前!! 皇子を殴るとか、絶ってぇありえねぇし!!」

 まさかの、本気のげんこつに涙目だ。

 リック達は、莉奈の行動に半ばブクブクと泡を吹いていた。

 そう、莉奈のした事は "する" "しない" ではなく、ありえない…あってはならない行動だった。

「煮え油をかける発想の方が、ありえんわ!!」

 ネコの被り物を捨てた莉奈は、もはや "素" だった。

「いや、だって……」

「だって!?」

 莉奈の剣幕に、たじたじのエギエディルス皇子。

「急に……油を温めろ……とか……言うから……」



 だからって……なんで王の頭にかける発想になるのかな!?

 私は、そんな行動にでる人間だと思ってるのかな!?



「……ご、ごめんなさい」

 睨んでたら、エギエディルス皇子がしゅんとして謝った。

「もう、いいよ。でも次は容赦しない」

 なんか、可哀想になり、その頭を優しく撫でた。

「……あれで、容赦とか……頭割れるし……」

 ひどい謂われようだ。一瞬咎めようとしたイベールはチラリとフェリクス王を見て止めた。

 フェリクス王は、莉奈のその容赦ない行動に怒る所か、顔を背け "くくっ" と笑っていたから、口をつぐむしかなかった。でなければ、莉奈は極刑もありえる行動をしたのだ。



「あっ、そうだ…エド、鶏肉好き?」

 莉奈は、怯えきった皆のいる厨房に向かい訊いた。

「……でたよ。その急な質問……好きだけど?」

 エギエディルス皇子は、殴られた頭を押さえつつ答えた。

「塩からあげ、作ってあげるよ」

 そういいながら、莉奈は殴った手とは反対側に持っていた、ヘラを魔法鞄(マジックバック)にしまった。

「塩から……はいいけど、アレどうするんだよ?」

 アレとは、勿論、アイスクリームを作るべくスタンバイしている面々の事である。兄のフェリクス王が、やらないと始まらないとはいえ、放置していていいものなのか。

「放っとけばいいんじゃない?私のせいじゃないし」

 莉奈は、もう被るネコはなくなった。被る物がないので、開き直り好きにする事にした。

「お前のせいじゃねぇけど……すげぇな、フェル兄、シュゼ兄放置するとか……」

 兄達を横目で見ながら、莉奈に付いていくエギエディルス皇子。

 普通だったら、まずあり得ないし、自分も怒る所だが……。

 兄のフェリクス王をチラリと見たら、莉奈の言動に再び、下を向いてくつくつと笑っていた。どうやら莉奈の、絶対にありえない行動が妙にツボったらしい。

 だから、エギエディルス皇子も、まぁいいか…と莉奈に付いていったのだ。


「……リ~ナ~?」

 この異様な雰囲気の中、ほのほのと莉奈を呼ぶ声がした。

 アイスクリームを作ると意気込んでいたのに、肩透かしの様な状態のシュゼル皇子は、莉奈の名を呼んだのだ。

「文句は、お兄さんにお願いしま~す」

 その瞬間 "ひえっ" と何人かが白目を剥いた。さっきの今で、またそんな口の利き方をしたからだ。フェリクス王達がここにいる事も脅威だが、莉奈の態度や軽口の方が脅威だった。莉奈が恐くて仕方がない様子だった。

 それもそうだ、いつ何時に王の逆鱗に触れ、斬られるかわからない。リック料理長達は、ビクビク、ガタガタと失神しそうになりながら静観するしかなかった。いや、出来なかった。







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