588 エギエディルス皇子の小さな嫉妬
皆はすでに、ジャッカルンロープの角から興味が失せていたが、アーシェスだけはーー
「言葉巧みに売り込めば……だいぶ稼げるわね」
と算段している様子だった。
確かに、買う側がフェリクス王の考えに至る前に売ってしまえば、儲かるかもしれない。
しかも、効能に嘘はないから詐欺ではない……が何かモヤる莉奈なのであった。
◇◇◇
それから30分程歩いていると、莉奈の膝丈くらいの草花が生えている草原に出た。
いや、地平線が見えるから大草原と言ってもいい。
たまにやたら大きな木は生えているものの、点々となのでかなり見通しが良かった。
生えている草は、パッと見はイネ科の草に見えるが、実がなっていないので、莉奈はまったく興味が湧かない。
「ライオンとかいそう」
そんな草花より辺りが気になる莉奈だった。
辺り一面の草花はちょうど莉奈の膝丈程の高さだから、ゾウやキリンみたいな大きな動物はいれば目立つ。
だが、動物や魔物がライオンくらいの大きさなら、身を屈めば隠れられそうな気がする。
捕食動物が屈んでゆっくりと近付いて来て、獲物にガブリとしそうだ。莉奈には、この大草原がまるでサバンナの様に見えていた。
とはいえ、一人じゃないから安心だ。フェリクス王が一緒でなければ、こんな暢気な感想など口に出ないだろう。
「ライオンはいねぇが、蛇ならいるな」
そう言ってエギエディルス皇子は、おもむろに足元に向かって剣をブスリと刺した。
莉奈は思わず、何をしているのだろうと覗き込む。
「ひっ!」
エギエディルス皇子が剣を持ち上げれば、串刺しになった金色の蛇がウネウネしていた。
「あらヤダ。"ゴールデンコブラ"じゃない」
そう言ったのはアーシェスだ。
陽の光を反射して、やたらとキラキラ光るこの蛇は、鱗が金色のコブラだから"ゴールデンコブラ"という名らしい。そのまんまである。
「食うんだろう?」
「食べないよ!!」
莉奈が何でもかんでも食べるとは限らない。
しかし、エギエディルス皇子が意地悪そうに、剣に突き刺さったままのゴールデンコブラを顔に近付けるものだから、莉奈は思わず近くのモノにしがみ付いた。
「ん、ぎゃ」
しがみ付いたものの、それがすぐにフェリクス王の左腕だと分かり、莉奈の喚き声は変な声に変わった。
「蛇が怖いなら、抱っこしてやろうか?」
見上げてみれば、フェリクス王がニヨニヨしていた。
怖いもの知らずの莉奈だが、たまに見せるその素直な反応が、面白いらしい。
「抱っ……いらん!!」
ボボッと頬を赤らめ、顔を逸らす莉奈。
もはや、ゴールデンコブラの事など吹き飛んでいた。
「……」
剣に突き刺さったゴールデンコブラを剣から抜きつつ、そんな莉奈をチラッと見ていたエギエディルス皇子は、つい口を尖らせた。
莉奈を揶揄って笑うつもりでいたが、最後は兄に全部持っていかれた様な感じで、どこか気分が悪い。
「ちょっ……エド!? なんで蛇を私の鞄に入れるかな!?」
エギエディルス皇子は不機嫌そうな表情で、莉奈の魔法鞄にゴールデンコブラをグリグリと突っ込んでいたのだ。
「お前の食料だから」
「な、勝手にいれんなーーっ!」
確かに肉として加工されれば、調理する……かもしれない。
だけど、人に決めつけられると何故か反発したくなるものだ。
莉奈の叫びなど無視して、魔法鞄に入れるエギエディルス皇子に、フェリクス王達は笑うのであった。




