58 見てないでくれます?
莉奈は、シュゼル皇子達が注目する中、厨房から持ってきたアイスクリーム作りに必要な材料をテーブルに置いていく。
アイスクリームの素となる原材料が入った寸胴、大きめなヘラ、大きめの布、そして耐熱性の手袋だ。
「このお鍋? 寸胴に入ってるのが、氷菓子の材料ですか?」
少し元気になり、興味が出たのか魔法省長官が訊いてきた。
「そうですね。原材料は主に、牛乳、砂糖、卵の3つです」
基本はそうだ。後は好みで、牛乳を生クリームや豆乳に変えたり、卵黄を加えたりで濃厚系やさっぱり系にするのもいい。
でも、まずは基本から。
そのうち、紅茶アイスやククベリーを入れたフレーバーアイスを作ってみたい。
「では、氷菓子ことアイスクリームを作っていきたいと思います」
ーーーパチパチパチパチ。
シュゼル皇子の拍手が響く。
楽しそうですね。シュゼル皇子。
私は帰りたいんですけど……。
莉奈は、大きめの布を四つ折りにして、テーブルの上に敷く。
その布の上に、アイスクリームの素がたっぷり入った寸胴を乗せた。混ぜた時、寸胴がなるべく動かない様にするためだ。
「えーと、イベールさんとタールさんは、この耐熱性手袋をして貰えますか?」
莉奈は、オーブンとかで主に使う耐熱性の手袋を二人に渡した。
「………………」
「はめるのはいいですけど……何のために?」
執事長は無言で手袋を見つめ、魔法省長官は疑問なのか訊いてきた。何をこれからするのかも分からない上に、耐熱性手袋を着用だ、不安なのかもしれない。
「この寸胴を、氷の魔法で冷やしていくので、素手で押さえると凍傷になってしまいます」
そう、この二人には寸胴を抑えて貰う役目がある。
「何故、寸胴を押さえるのか訊いても?」
今度はイベールが訊いてきた。やはり気になるのだろう。
「アイスクリームは、冷やしながらかき混ぜて作るので、かき混ぜてる時に寸胴が動かない様に、お二人に押さえてもらいます」
「私は何を……?」
実に楽しげなシュゼル皇子が訊く。
「氷魔法は、使えますよね?」
「ええ、勿論」
「では、この寸胴をゆっくり冷やして下さい」
莉奈は、アイスクリームの素が入った寸胴を、ゆっくり冷やす様に指示する。一気に固めてはダメだ。あくまでもゆっくりとだ。
「こんな感じで、どうですか?」
さすが、この国一の賢者。言われた様にゆっくりと冷やし、寸胴の縁をうっすらと冷やし固めた。
「はい。ものすごく上手いです」
だが、問題はここからだ。少し離れた所に座って寛いでいるフェリクス王を、参加させなければいけない。
そう、かき混ぜるのは、フェリクス王しかいない。
……すみませ~ん。面白そうに見てないで、来てくれませんかね?




