567 偶然? 奇遇? 運命?
あぁ、やっとご飯だと、莉奈は気持ち早歩きになっていた。
「「あ!!」」
そんな莉奈とエギエディルス皇子は、同時に嬉しそうな声を上げた。
木々が開けたと思ったら、その中央にはまさしく"聖木"が生えていたのであった。
アーシェスと待ち合わせした場所に生えていた聖木より、一回り小さな木ではあるが、神秘的に光るその姿は間違いなく"聖木"だった。
「やっと休める」
莉奈がホッとしたのも束の間、その聖木から少し離れた所に人影が見えた。
聖木とは違う木に、もたれかかる様に休んでいる。風貌をチラッと見れば、二十代くらいの男女3人組の冒険者パーティの様であった。
フェリクス王は冒険者パーティに興味はないのか、聖木を間近にし見上げていた。
聖木のありかを、まるで教えてくれた様に浮遊していた聖魂は、すでに消えてなくなっていたが、聖木は薄っすら青白く発光している。
花は咲いていないが、幹も太くしっかりしているし、葉も青々と瑞々しい。ザッと見た感じ、まだ若い木の様だった。
「あれ? まさか、アーシェスか?」
「え?」
先にいた冒険者パーティとは反対側で、休憩しようとしていたアーシェスに、驚いた声が掛かった。
「その奇抜な格好、やっぱりアーシェスか!」
どうやら冒険者パーティの1人は、アーシェスの事を知っているみたいである。
「やだ、あなたこんな所で何してるのよ?」
「そりゃあ、コッチのセリフだな」
アーシェスも冒険者ならまだしも、一般人。
街でバッタリどころか、街の外。しかも、国すら違う。
こんな所で会うと、偶然や奇遇というより"運命"すら感じる。
「お知り合いで?」
軽く伸びをしながら、ローレン補佐官が訊いた。
アーシェスは武器防具屋の店員だ。知り合いも多いだろうが、こんな所で会うのは奇跡だなと、ローレン補佐官は思った。
「えぇ、ウチの店のお客さんよ」
アーシェスはそう言って、その客と苦笑いしていた。
互いに、こんな場所で出会うとは想像すらしていなかったのだろう。
「あ、エド。直に座らないでイスに座りなよ」
聖木とは違う木の前にそのまま直接、地面に腰を下ろしそうなエギエディルス皇子に、莉奈は背もたれのある長椅子を魔法鞄から取り出して勧めた。
雑草が多少生えているとはいえ、土が剥き出しの地面より、木の椅子の方がお尻には優しいだろう。
ついでに、その上にスライムをのせ、カバー代わりの布をヒラリとのせた。
「俺にスライムの上に座れと?」
「食べる訳じゃないんだし、ほらほらそんな顔をしない」
莉奈は、怪訝な表情をするエギエディルス皇子をトンと、そのスライムの上に座らせた。
口や顔は文句を言っていても、身体は疲れきっているのか莉奈の言いなりだ。
「……な」
と一瞬、文句を言う表情をしていたが、その奇妙で柔らかい座り心地に無言になっていた。
「どう? お尻痛くないでしょう?」
「……まぁ、うん……って、お前何してるんだよ」
エギエディルス皇子を長椅子に座らせた莉奈は、その前に屈むと、サクサクとエギエディルス皇子のブーツや靴下を脱がしていた。
今度は何をする気だと、エギエディルス皇子は眉根が寄りに寄ったが、一度気を抜き座ってしまうと、立ち上がる気力が出なかった。
もうこうなったら好きにさせてしまえと、なすがままである。
「疲れを癒やす準備?」
「あ゛? 裸足が?」
そんなエギエディルス皇子の様子などお構いなしな莉奈、フェリクス王達も何をやり始めたと注目する。
「よいこらしょ!」
地面に足が付かないエギエディルス皇子のために、コの字のかさまし台を用意し、その上に底の浅い四角い木箱を載せれば準備は万全だ。
そこまで準備すると、さらに何事だと皆が近付いて来た。
それは反対側にいた冒険者パーティも、腰を上げて来るほどに。
「ふぁっ!?」
かさまし台の上に載った四角い木箱に、裸足になったエギエディルス皇子の足を強引に突っ込めば、エギエディルス皇子の口から変な声が出ていた。
「ね? 気持ちイイでしょう?」
そう、その四角い木箱はただの木箱ではない。木箱の中には、少し熱めのお湯が張ってあるのだ。
疲れた身体を休めるにはお風呂だけど、魔物がいる場所で、さすがに裸は危険だし不安である。
という事で、莉奈が考えたのは足湯であった。
「はぁぁぁ〜っ」
疲労困憊のところに、じんわりと温かい足湯。
何故、足がお湯に浸かっただけで、こんなにもホッコリするのだろうか?
あまりの気持ち良さに、エギエディルス皇子は目を瞑り、まったりしまくっていたのであった。
莉奈は、そのエギエディルス皇子の可愛い表情に大満足である。
やはり、旅の下準備は大事だなと改めて思う莉奈だった。
「「「……」」」
足湯。
旅の途中でそんな事しようとは、今まで考えた事もなかった。
魔物に襲われる可能性があるのに、裸や裸足は危険過ぎる。しかし、ここは聖木の近く。そして、これだけの人数がいれば、交代制で浸かるのはアリだ。
しばらく唖然としていた皆だったが、ものスゴい気持ち良さそうなエギエディルス皇子に、今度は羨ましくなってきた。
疲れきった身体に、あの足湯は飯テロならぬ、癒やしテロである。
莉奈をチラッと見れば、既に違う準備をしていた。
皆は魔物の出る心配より、莉奈の行動が気になって仕方がないのであった。




